視線
流し目に何を映して祭笛
私の地元には、大きな祭がある。
20台近い数の立派な神輿が繰り出す。年齢・性別に関わらず大勢の担ぎ手が法被を纏い、手ぬぐいのねじり鉢巻にさらしという昔ながらのいなせなスタイルで、神輿を大暴れさせて街を練り歩く。見物客も大勢詰めかけ、夏らしい盛り上がりを見せる。
赤ん坊の頃から毎年浴びるほど聴いた祭囃子。それはもう私の身体にしみ込み、出だしの1フレーズを聴くだけで身体が跳ねるようなリズムを刻み出す。
恋した人は、祭囃子の横笛を吹いていた。
そのひとを、いつも探した。
大変な人混みと喧噪。誰かを探していることに気づかれないよう、何気ない見物人のような顔をしながら必死にその姿を探す。
目の前をゆっくりと過ぎて行く囃子連。
——探していた面影。
人混みの中の私などには気づかずに、通り過ぎてしまうかもしれない。
それでも、彼の音色を捉え、彼の姿を眼に焼き付ける。
伏し目がちなその視線が、ふと上がった。
そして——細められた流し目が、すっと私を捉えた。
視線は、やがてまた静かに伏せられる。
囃子の音が耳に戻る。
次第に遠ざかる——。
——それでもう、充分だった。
今でも、地元の祭に帰ると、賑わう人混みの中を探す。
恋した人の面影を。
いないことは、知っている。
探しても見つからないことは、分かっている。
それでも——心は、祭囃子の笛を奏でるあの姿を探す。
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