鳥の声


 鳥の声またひとつ増え春浅し



「春浅し」は、春の季語。立春を過ぎ、気温はまだ低く寒いが、微かに春の足音が聞こえ始める時期を指す。




 窓の外で、鳥が啼く。

 無邪気な囀り。細く甲高い、寂しげな声。何かを威嚇する乱暴な声。


 野の鳥たちが生きるために発する、生活の声。

 何を残すわけでもなく空中へ消えていくその声は、不思議に心を安らがせる。

 緊張で張り詰めた心を、ふっと解いてくれる。


 それは、日々の中で忘れかけた空へ、意識を誘ってくれるからだろうか。

 何にも拘らない伸びやかな自由を、思い出させてくれるからだろうか。



 春はまだ浅い。けれど、大気は少しずつ潤いを帯び、明るくなっていく。

 厳格に澄んでいた空の青は、次第に淡く、柔らかい色に変わっていく。



 鳥が啼く。昨日よりも、心なしか軽やかに。

 肺に吸い込んだ空気を、そのまま表現するかのように。




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