温かい飲み物

 

 心ゆくまで練るホットココアかな



「ホットココア」は、比較的大きな歳時記には採られていることのある、冬の季語。

 純ココアで作る場合は、粉に水や牛乳を少量加え、ペースト状になるまでしっかりと練ることが美味しさに繋がる。ホットココアの熱さとコクのある味わいは、寒い季節に体を芯から温める。


 



 コーヒーが好きだ。コーヒーなしでは生きられない、と言ってもいい。


 どんなに疲れていたり、落ち込んでいたりしている時も、「そうだ、コーヒー飲もう」と思うだけで、心の中にぱっと明かりがつくような気持ちになる。

 夏場はアイスも美味なのだが、滅多に飲まない。通年熱々のホットを啜っている。 


 気分に合わせて味わいを変えられるところもコーヒーの魅力だ。

 スッキリしたい、気持ちを切り替えたいような時はブラック。

 疲れを癒したい、ほっとしたいような時には、ミルクとシュガーを多めに。

 そんなふうに、コーヒーはいつでも私の心の味方でいてくれる。




 人により、好きな飲み物は違う。

 緑茶、紅茶。ココア、ハーブティー。人の好みはそれぞれだ。

その日その時によっても、飲みたいものは変わる。


 だが——いずれにしても、温かい飲み物が心の緊張や疲れをほぐしてくれることは、間違いないだろう。




 お湯を沸かす。

 お気に入りのカップを用意する。

 何を飲もうか。


 自分の気持ちとなんとなく会話をしながら飲み物を選び、茶葉や粉を用意する。

 必要な手順に従い、シンプルな作業を進めていく。

 好みの濃さや味わいに整えながら、香りの立つ温かな液体をカップに注ぐ。



 どの手順も、それほど複雑で難しいものではない。

 それでいながら、飲み物が出来上がるまでは、自分の手元やお湯の扱いなどにある程度の集中が必要だ。

 現実から少しだけ気持ちを逸らすことのできる、静かでゆっくりとした時間。

 そんな時間の流れの中で——ざわざわと揺れていた思いが、次第に凪いでいく。



 そして——湯気の立つその飲み物を手元に引き寄せる時の、心の安らぎ。




 温かい飲み物を、自分のために用意する。

 それは、最小限の気力や体力があれば行動に移すことができる、自分自身を温め、喜ばせるための行為だ。

 ささやかで、小さなことであっても——自分で自分自身のために何か行動することは、自らの心を支える大きな力になる。


 好きな飲み物を注ぐため、気分に合わせたカップを食器棚から選ぶ。

 そんな行動一つで、心が明るく浮き立ったりするものなのだ。



 そして——飲み物を作る過程の、静かで穏やかな時間。

 そこにも、心を癒し、和ませる不思議な効果がある気がする。




 疲れた時や、悩みの中にいる時——「温かいものでも飲もう」と思いつく。

 何気ないことのようでありながら——実は、前へ進むための一歩として、この上なく優れた方法のひとつなのだと思う。









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