掌に残るもの
拾ふ葉も捨つる葉も
「紅葉狩」は、紅葉の名所を訪れ、その美しさを眺め味わうこと。秋の季語。
美しい紅葉がたくさん落ちていると、拾いたくなる。
好みの形や色をした葉を、何となく探す。
一番気に入った一枚を選んで、掌に乗せる。
そうやって探すうちに、またきれいな葉を見つける。
色とりどりの葉を拾い上げるうちに、自分ってこんな色合いが好きだったんだ、と気づいたりする。
そんなことを繰り返して、やがて気に入った葉が数枚手に残る。
手許に残り、持ち帰った葉を、しばらく眺めて楽しむ。
そして、その中でも取っておきたいものを、厚い本に挿んで、押し葉にしたりする。
その葉はもう、自分にとって愛着のある宝物だ。
日々の中でも、私たちはこれと似たようなことをしている。
たくさんのことを経験する。たくさんの人に出会う。
その中で、自分と波長の合う物事や人と、私たちは関わりを深めていく。
そのときそのときで、物事の選び方は変わっていくし、つきあう人も少しずつ変わっていくかもしれない。
それでも、私たちは、そうやって自分の手の中に選び出した大切なものやひとに囲まれている。
強く心を惹かれたものが、必ずしも輝き続けるとは限らない。
何の気なしに拾い上げたものが、何よりも大切になることもあるかもしれない。
心の移り変わるままで、いいのだと思う。ごく自然なことだ。
全てのものは、時の流れとともに必ず変わっていくのだから。
——そんな移り変わりを経ても、ずっと手の中に残り続けるもの。
それはきっと、自分にとってかけがえのない宝物だ。
気まぐれで、何時どこで見つかるかもしれないそんな宝物に、ひとつでも多く出会おうとするならば——なるべくたくさん拾い上げ、触れてみた方がいい。
そこには、何となく眺めているだけでは分からない魅力が、きっと隠れているに違いないから。
そして、選び出して掌に乗せた大切なものには、丁寧に、誠実に向き合いたい。
いつまでも手の中に残る宝物は、思ったほど多くはないのかもしれない。
だからこそ——心を惹かれる物事やひととの出会いのひとつひとつを、大切にしたいと思う。
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