命の在処
「夏の雲」は、夏空の雲のこと。梅雨明け後の青空に湧き上がる積雲や積乱雲が代表的な夏の雲である。
「夏の雲」は、夏の季語。
瑞々しく潤った瞳に、夏の雲が映る。
生きるとは——その瞳に、喜びを、怒りを、悲しみを満たすこと。
波打ち、躍動するその思いを——瞳いっぱいに溢れさせること。
瞳は、命の色が見える場所。
それは、まるで湧き上がる夏の雲のように——生き生きと、絶え間なく。
——その火が消える瞬間まで。
子供の頃、可愛がっていた飼い犬が死んだ。
家族の中で、私が彼を一番愛していた。
大きな病気をして以降、身体が衰弱し始めていることは気づいていたが……彼が倒れているのを最初に見つけたのは、私だった。
近づいて、心が冷たく固まった。
その瞳の色が、既に違ったからだ。
色が違う……という表現は、正確ではない。
もう、違う物になっていた。
濁ってしまったビー玉。
もう、彼はここにはいない。
愛するものの死を経験したことのない子供の感覚にも、それは本能的にびりびりと伝わってきた。
——その動かし難い事実を、変わり果てた瞳が静かに伝えていた。
命には、形がない。目には見えない。
けれど——間違いなく、生き物の身体に、温かく宿っている。
その命が垣間見える部分。
それは、瞳ではないだろうか。
垣間見えるどころではなく——
喜びで溢れるように輝き、悲しみを湛えて潤み、怒りに炎を燃やし……
そして、命が身体から去れば、それは色と光を失い——ただの球形の物体へと変わっていく。
命の在処。
命の色の見える場所。
それは——間違いなく、瞳だ。
自分の瞳は、生き生きとした色を湛えているだろうか。
夏の雲のように、湧き出す力に溢れているだろうか。
どうせなら——夏の雲のような瞳でありたい。
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