かたちのないもの


 かたちなきものに包まれ秋日和



「秋日和」は、「秋晴」の傍題。秋空が澄み、晴れ渡ること。秋の季語。



 

 だんだんと、日中の陽射しにも秋の色が感じられるようになってきた。


 夏のぎらぎらする黄金色の光が、淡いオレンジ系の穏やかな色合いに変わっていく。太陽の通り道がだんだんと頭上から移動し、光が斜めから差していることがよくわかる。



 秋晴れの日。

 深く、高く澄んだ空。明るく穏やかな陽射し。

 和紙のように薄い純白の雲。爽やかに頬を撫でていく風。


 どの要素を取っても、文句なく心地よい。

 ここに存在していることに、満ち足りた幸せを感じる。



 自分の手の中に、何かを得たわけではない。

 掌を見つめても、そこには何もなく——自分の身の回りに、何か贅沢な物が増えた訳でもない。

 ただあるのは——光と、空と、風だ。


 そんな、かたちのないものたちが、この上なく満たされた幸福感を与えてくれる。



 本当に心を満たしてくれるものには、形がない。

 本当に大切なものは、心を働かせなければ見えない。そこに間違いなくあると信じなければ、存在を感じることができない。

 人との絆や、友情、愛情、信頼——どれもそうだ。


 目に見えないからこそ、本気で大切にしなければならない。

 大切にしようと努力すれば、必ず自分を包み、幸福感で満たしてくれる。

 手で触れることのできない——心で感じる以外にない、不確かなもの。


 そんな、目に見えないものに包まれる幸せ。

 ——それは、何にも代え難い。




 秋晴れの日の心地よさ。

 自分の大切な人たちが側にいてくれる安らかさ。

 お金や権力で手に入るどんな贅沢な品物よりも、深い幸福感を与えてくれるものがある。心を満たし、支えてくれるものがある。


 そんな、形のないものたちの存在を細やかに感じ取れる心を——鈍らせないように、持ち続けたいと思う。










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