人との関わり


 本音言ひあひ熱燗を啜りあひ



「熱燗」は、燗をした酒。冬の寒さをしのぐため、酒を温めて飲む。特に寒い日に、熱いくらいに温めて飲むと、じわりと全身に染み渡るように感じられる。冬の季語。




 冬の寒い夜。

 気心の知れた誰かと、熱燗でもゆっくり飲みながら、時間を忘れてじっくり話したい——そんな気持ちになることがある。



 人とじっくり話をする。

 誰とでもできることではない。

 包み隠さず腹を割って話せる相手というのは、そうそういないものだから。


 身構えることなく、お互いに心を許して話のできる相手がいる——思えば、それはとても幸せなことなのかも知れない。





 自分。

 自分以外の人。

 まるで一心同体のように、誰かと分かり合えたら——

 そう思うことがある。



 けれど——

 どんなに相手のことを深く理解したくても、人の心を完全に理解するのは、無理だ。

 そして、自分自身の心を全て相手に知ってもらうのも、また不可能だ。


 家族や、ごく親しい間柄の人であっても——物の捉え方、考え方は、驚くほど違う。



 わかってほしいと思う時に限って、相手には届かない。

 相手の何気ない一言が、いつまでも突き刺さって抜けない。


 そんなことを感じた時——やはり、「自分」という存在は「ひとり」なんだと感じる。

 寄り添いたいと願えば願うほど、決して埋まることのない隔たりが悲しくなる。




 でも——

 その隔たりは、ごく自然なものだ。

 全く同じ人間なんて、決して存在しないのだから。

 双子だって、完全に同じではない。

 複雑な思考回路がぴたりと一致するなんて、有り得ないのだ。


 ならば——

 相手と同じ思いでいたい、と願うことをやめて。

 いっそ、相手が自分と違うことを「当然」と捉える。

 考え方や思いは、それぞれあって当然。

 100人いれば、100の感情があるのだ。



 そう考えれば、いろいろなことが穏やかに流れる。

 時に相手の言葉に棘を感じても、そうムキになることもない。

 自分とどうしても噛み合わない相手とは、無理に解り合う必要もない。

 全ての人とうまく付き合おうなんて、土台無理な話なのだ。


 どんなことでも——深刻になればなるほど、上手くいかない。

 噛み合わない悲しみばかりを、見つめすぎない方がいい。




 完全にわかり合うことはできなくても。

 色々ひっくるめて、好きだと思える人がいるならば、それでいい。

 愛する人の好きなところがわかっていれば、それでいい。




 全て欲しい、と願わない。

 人との関わりは、それが秘訣かも知れない。


 そう思えれば——何よりも、自分自身が楽になるはずだ。










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