満月の色


 望月の色あたたかき窓のごと



「望月」は、「名月」の傍題。陰暦の8月15日、「中秋の名月」を指す。秋の季語。

 この日に月見団子などを供えて月を祀るのは、収穫を祈る農耕儀礼の名残という。



 今夜は、「中秋の名月」だ。一年で最も月が美しい夜とされる。また虫の音や秋風など、その澄んだ輝きを一層際立たせる情緒に満ちた時季であることも、月を愛でるのに最もふさわしいといえるだろう。




 満月を見上げる。


 僅かな黄色みを帯びた、美しく円い輝き。

 月が球体ではなく、空に円を貼り付けたように平面的に見えるのは、月の表面を覆う砂(レゴリス)が、光を乱反射させる性質を持つからだという。



 月の明かりといえば、ひんやりと冷たいイメージが持たれやすいが——私には、満月の輝きは温かく見える。

 特に、上空高く登りきる前の、柔らかな月の色。

 黄色やオレンジというような暖色を含む白色の光は、何とも優しく、温かい。


 

 こよなく月を愛でた昔。

 かつては、いまのように溢れるような光などなかった。

 夜になれば、外は真っ暗闇だ。


 そんな闇に浮かぶ満月の輝きは、どんなに明るく、美しく、慕わしいものだったろう。


 月の中に——あのあたたかい光の窓の中に、命のある何かがいる。

 想像もつかないような、美しく高貴なものが、あの光の中に住んでいる。


 今、こうして見上げていても、そんな気持ちにさせられるのだから——

 ただの空想ではなく、かつての人々が本当にそう考えていたとしても、全く不思議ではない。




 今夜は、美しい満月を見ることができるだろうか。雲が切れてくれればいいが。


 もし、月が雲の上にあるとしても——こんな想像をしながら月見団子を食べれば、また楽しいかもしれない。


 雲の原くまなく照らし望の月




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