掬い上げるもの

aoiaoi

どの道も


 どの道も雲の峰へと続きをり



「雲の峰」は、入道雲ともいわれる積乱雲のこと。夏の季語。





 湧き上がる入道雲を見上げる。


 巨大で、どこまでも力強く上に向けて盛り上がる。むくむくとしたその凹凸に沿ってくっきりと影ができる。

 上昇気流という自然の強大なエネルギーがそのまま形になっている。突き抜けるような夏の青空に立ち上がるその姿は、「力」そのものだ。

 見ていると、自分の心の中にも何か湧き上がるようなものが生まれる。



 ——広々とした夏の野の中に、細々と数本の道が続く。

 道を行く人の影は、米粒のように小さい。

 野の彼方には、大きく白い雲の峰。

 道はどれも、その明るい足元へと続いていくようだ。

 ひとは皆、それぞれの雲の峰を目指して歩いて行く。




 誰もが、雲の峰を仰ぐ。

 厳しい陽射しを何とか遮りながら、眩しいその頂上を見つめる。

 遠い彼方の憧れを仰ぐように。



 どんなに苦しく、打ち拉がれた時も——ひとは、迷いながら、手探りをしながら、最後にはやっぱり雲の峰を仰ぐ。

 そうせずにはいられない。

 どんなに俯き下を向き続けても、何も見つからない事に気づくから。



 そして、あらゆる道は、雲の峰へと続く。

 そこに何があるのかは、誰にもわからない。

 けれど——人は誰もが、高く輝くその頂を目指して、小さな小さな一歩を進めていく。




 どうせならば、夏の野原で雲の峰を目指すように、日々を歩いていきたい。

 細くても、でこぼこしてても、まっすぐで緑に溢れた明るい道を。


 大きく真っ白な雲の峰に向かって進んで行きたい。






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