バイバイ


 さよならとだけは言はずに卒業す



「卒業」は、春の季語。

 小学校から大学まで、卒業式は概ね3月の初旬〜下旬に行われる。

 卒業は、希望や期待、喜びとともに、寂しさや切なさ、不安などさまざまな感情を孕む。






「さようなら」という言葉が、嫌いだ。



「バイバイ」という言葉があって、良かった。

 ——そう思うことがある。




 大切な人や、大切な物。

 かけがえのないものたちとの別れは、必ずやってくる。



 どんなに嘆いても——避けられない別れの時が目の前に来たことは、既に痛いほど知っている。

 その辛さだけでも、耐え難いというのに——

 なぜ、「これで本当に別れだ」と宣言するような言葉までも、口にしなければならないのだろう。


 その痛みは、それぞれの心の中で嫌という程味わっているのだから——

 せめて、最後の挨拶くらいは、「また、いつか」という余韻を残す言葉で終われたらいいのに。



 その「いつか」が、たとえもうないと知っていても——

 本当は、決して失いたくない人なのだから。

 そんな相手に伝える言葉なのだから……「また、いつか会いたい」という思いを込めたっていいと、私は思う。




「さようなら」という言葉には、その余韻が感じられない。

「さようなら」は——私の心には、今までの記憶が真っ白に戻ってしまうように響く。

 もう会えない、遠くへ離れていく——そんな喪失感ばかりが後に残る。


 ——本当に別れたくない大切な人には、言いたくない言葉なのだ。





「バイバイ」と微笑んで、手を振る。

 これならば——

 言えそうな気がする。

 また、いつか会えそうな気がする。



 また明日。

 そんな感じで、去っていく大切な人へ、何とか別れを伝えられそうな気がする。





「バイバイ」が、あってよかった。


 心から、そう思う。








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