悲しみの温度


 枝先の夕日の色や冬立てり



「冬立つ」は、「立冬」の傍題。冬の季語。

「立冬」より、暦の上では冬に入り、俳句においても冬の季語を詠む。

 2017年の立冬は、11月7日。

 夕暮れは日に日に早まり、日差しも弱くなって、朝夕には手足の冷えも感じるようになる。






 悲しみには、温度がある。




 その悲しみに直面した瞬間の、寒さと暗さ。

 もう、立ち上がることはできないのではないかという恐怖。

 止まらない涙。


 繰り返し目の前に覆い被さっては思考を奪う、深い闇。

 手探りをして辿る以外に方法のない、暗く細い道。


 ただ俯いて、目の前の一歩をなんとか踏み出さねばならない。

 ——そんな、呼吸すらも辛いような時間。






 けれど——

 どんな悲しみの上にも、時は過ぎる。



 闇は、次第に薄らぎ——頭上に、また微かに日が射し始める。




 そして——


 痛みのあまり直視できず、遠ざけることしかできなかったその悲しみが——ある日、自分のそばにあることを、ふと許している自分に気づく。


 暗く、冷え切った手触りでしかなかったそれが……微かに温もりを持っていることに気づく。




 悲しみが、温もりを持ち始めた時——


 その悲しみは、少しずつ……

 悲しみではなく——自分の心の一部に、変わり始めているのかもしれない。






 経験した痛みの全てを、自分の一部として受け入れることは、きっとできないだろう。



 けれど。

 悲しみに満ちた記憶が、ごくわずかでも、暖かな色や温度を帯びるようになるならば——

 それはきっと、とても幸せなことだ。






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