雲を追う


 冬の雲ただあたたかき貌をして



 「立冬」より、暦の上では冬に入り、俳句においても冬の季語を詠む。

 2017年の立冬は、11月7日。


 冬の雲。

 時雨や雪の日の雲は暗く陰鬱だが、晴れた日に空を柔らかに閉ざすような雲は、色も姿も実に優しく、美しい。







 気づけば——いつも、雲を追っている。



 頭上で、優しく自分を見下ろすような。

 そんな雲を。




 自分のものにはならないのに——

 自分のもののような。

 そんな錯覚を抱きながら。




 ある日、ふっと離れてしまいそうで。

 いつも心細くて。


 届かないと、知っているのに——無意識に手を伸ばす。



 その温かさに、触れたような気がして。

 思い違いかもしれない……そんな気もして。



 そんな微かな喜びを感じられる時間は、本当に短くて。





 寂しさが、すぐに押し寄せてくる。

 温かな光を奪う、厚い灰色の雲が。

 目の前に降りしきる、冷たい雨が。




 そして——


 雨の止み間に、声を枯らして引き止めても……優しかった雲は、頭上から少しずつ離れていく。


 微笑みを浮かべたまま——静かに。






 どうして、全てのものは移り変わってしまうのだろう。



 一瞬も、留まってはくれない。

 留まって欲しい、そう思うほど……それは足早に去っていく。



 追いかけても、追いつくことなんてできない。

 手を伸ばしても、決して触れることなどできない。


 ——あんなに優しい顔をしているのに。





 そして、いつも——私は息を乱したまま、流れていく雲を見送るだけ。





 それでも。

 追い求めることを、やめることはできなくて……



 たまらなく心を惹きつける雲を探しては——また、子どものように走り出す。



 無我夢中で。

 我を忘れて。





 そうやって、自分にもわからない遠いところまで駆けていく。



 それが……生きるということなのかもしれない。






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