雲を見る時間
夏休み黙って雲を見る時間
夏休みは、夏の季語。
夏休みは、学生にとっては待ちに待った長期休暇だ。イベントも宿題も盛りだくさんの、慌ただしくも楽しさに溢れたイメージがある。
しかし、ふたを開けてみると、それなりに暇を持て余したり、ひとり黙って何か考え込んでいるような時間も少なくない気がする。
時間を100%有意義に使い切れる人は、どのくらいいるだろう。
特に、それが何をしてもいいような「自由時間」だった場合。
その時間を、自分が心底満足できるような何かできっちりと埋め尽くしていくのは、ものすごく難しいことのように思える。
そして、自分の糧になる何かを詰め込むことが、必ずしも最高の過ごし方かどうかは分からない。
子どもの頃の、夏休みのある日。
庭の芝生にシートを敷いて、その上に仰向けに寝転んでみた。
真剣に空を眺めてみよう、と思い立ったのだ。
自分の上の空は、どこまでも広かった。
寝転ぶと、「頭上」という表現が合わなくなる。
「自分の上」という言い方しかない。
自分の上に——ただひたすら、空が静かに広がっていた。
音もなく、雲が動いていく。
風の吹く方向に流され、少しずつ形を変えながら。
雲の端の、綿をちぎったような細かな繊維は、見る間に消えてはまた新たに現れる。
風は、時に強まり、弱まりながら、私の上を穏やかに通り過ぎる。
一時も同じ形に留まるものはない。——雲も、風も。
刻々と、流れていく。変わっていく。
自分の満足する形に留まることを、ひとはしばしば願う。
でも、同じ形に留まっていられるものなど、本当は何一つないのだろう。
それならば、いっそより良い形に変わって行くことを目指したい。
さっき満足していた形より、もっと素敵な形に変わっていきたい。
完璧を目指すのではなく——自分が好きだと思える形に変われれば、それでいい。
ある夏休みのひととき、芝生に寝転んでみた。
そんな屈託のない、子どもの戯れ。
それが今、こんな思いになって、自分を優しく包んだりする。
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