全力


 生きしこと耳に残して油蟬

 


 油蟬は、「蟬」の傍題。夏の季語。



 夏だ。今年も蟬の声がだんだんと耳に入るようになってきた。

 蟬の声は夏の気配を否応なく盛り上げる。



 同じ蟬でも、ひぐらしは、早朝や夕方に、カナカナ…と、涼しくどこか悲しげな声で鳴く。

 一方で油蟬は、それこそ脂汗でも滲んできそうなジージーという大声が、ともすると鬱陶しくさえ感じられる。



 蟬が鳴くのは、雄だけだ。雌に求愛するための鳴き声だという。より声の大きな雄が、雌を引き寄せる。


 油蟬は、7年近くを幼虫の姿で地中で過ごす。殻を出て地上に現れてからは約10日程という命だ。


 油蟬の苦しいほどの声の熱さは、そのせいかもしれない。

 7年間蓄えた、繁殖のための力。それを、最後の10日間で実らせるための熱。

 堪えきれずに溢れ出す命が、力尽きるまで全力で振り絞る「声」という形になる。


 その声が雌に届き、子孫を残すことに成功すれば、成虫の命は終わる。

  



「全力で生きた」ということを、私たちの耳にも確かに刻んでいく、油蟬の声。

 生きた証を、こんなにも印象的に私たちの心に残すその生は、もしかしたら幸せなものなのかもしれない。



 その命が終わる瞬間まで、彼らは生きていることを声の限りに歌う。

 生の最後に爆発的に輝く命の音に、時にはじっくり耳を傾けてみてもいい。








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