雨に濡れて歩く

  

 傘持たぬ鳥をうらやみ若葉雨



 2017年の立夏は、5月5日。

 俳句においては、この「立夏」より夏となり、夏の季語を詠む。


「若葉雨」は、「若葉」の傍題。

 若葉は、夏に入って全ての樹木に生えた、新しく瑞々しい葉のこと。

「若葉雨」は、夏の季語。






 若葉を濡らす雨が、静かに降っている。


 白く光るように空を覆う雲から、音もなく降りてくる雨粒。

 その、わずかな分量の水滴が、静かに静かに重なり——初々しい緑を柔らかく包む。

 潤いを纏った若葉は、明るく、そして濃く重なり合い——その色は、例えようもなく美しい。



 鳥たちが、小さくさえずり合う。

 太陽のある日よりも、その響きはどこか静かで、優しい。

 鳥も、その天候に合わせて声色を変えたくなるのだろうか。



 山鳩とスズメが、しっとりと黒い土の上を何か啄ばみながら歩いている。


 山鳩はゆっくりと、丁寧に一歩一歩を踏む。

 スズメはちょこちょこ、ぴょんぴょんと弾むように。



 落ちてくる雨粒を避ける必要など、彼らにはない。

 当然のように、体を濡らし——むしろ、ひんやりとしたその感触を楽しむように、優しい雨を浴びている。






 雨がポツポツと落ち始めると、人はすぐに傘をさす。


 ほんの少しも濡れたくない——どうしても、そう思う。

 雨の中を敢えて濡れて歩く。そんな風変わりなことをする人は、まずいないだろう。



 けれど——

 少しだけ、想像してみてほしい。


「濡れたって全然構わない」という気持ちになることができたら……

 雨の中を濡れて歩くのは、とても楽しくはないだろうか。



 どれだけ濡れてもいい。

 傘をささず、好きなだけ濡れながら、雨の中を歩く。


 そこにあるのは、きっと——心を囲う堅い壁を突き破ったような、開放感に満ちた楽しさ。

 自分が自由であることをこれほど味わえる行動は、もしかしたら他にないかもしれない。




 けれど——

 もしも、実際に街中でそれをすれば……「おかしな人」という目で見られるのは、ほぼ間違いない。

「おかしな人」は困る。


 やっぱり、人は傘をさす。





 この上なく優しく降りてくる若葉雨を楽しむ動物たちが、少し羨ましい。







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