鯨とオーロラ


 オーロラも鯨も遠く扇風機



 扇風機は夏の季語。




 鯨とオーロラ。どちらも、私が一度は見てみたいものだ。


 海に生きるほ乳類に、悲しみに近い愛情を感じるのは私だけだろうか。

 例えば、動物園に出かけて一日動物達に親しんでも、帰り際に何か悲しみを感じるようなことは特にない。

 しかし、水族館でイルカやシャチと間近で触れ合った日の帰り際は、理由の分からない去り難さに襲われる。まるで、仲良くなった友人と別れなければならないような悲しみが、心の中にあるのだ。

 私の中に、動物の種類によって何か差別的に取り扱おうという意識は全くない。人間と、海のほ乳類の心——というかそのようなものは、言葉こそないが、何かが通じ合っているような気がしてならない。


 鯨の神秘的なあの巨大さと、何かが通じ合うような不思議な感覚を、直に味わってみたいと心から思う。——本当にやる気なら、どこか遠方の海へ出かけて長期間粘らなければ叶わない話かもしれないが。



 オーロラを実際に見たことのある人は、どれくらいいるだろう。

 自分が地球という星に棲む小さな生命体であることを感じずにはいられない——そんな、宇宙の不思議さを湛えた気象現象。

 頭上でゆっくりと揺れながら輝く巨大なカーテンを目の当たりにする感覚は、一体どんな感動を秘めているだろう。想像しただけで、身体の奥が震えるようだ。



 私たちから遥かに離れた地球上のどこかで静かに繰り広げられている、壮大なスケールの自然の営み。




 それでも——実際の私は、そんな神秘的な巨きさとは全く無関係な狭い空間で、今日も暑いと言いながら扇風機というちっぽけな道具から発生する微かな風などを浴びて喘いでいる。



 滑稽で、どこか愛おしい、ある夏の日の感慨だ。








 

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