不思議な生き物
猫の歯に羽砕かれし夏の蝶
夏の蝶は、夏に見られるアゲハチョウやクロアゲハなどの蝶のこと。夏の季語。
子猫が、アゲハチョウをおもちゃのようにいたぶって遊んでいた。
子猫に捕らえられてしまうくらいだから、そのアゲハは何らかの理由でしっかり飛べなくなっていたのかもしれない。
その柔らかい羽はあっという間に爪と歯で裂かれた。しばらく逃げようともがいていたアゲハは、やがてぴくりとも動かなくなってしまった。
子猫の足の下で、見る間に羽は粉々に砕けていく。それでも、それは子猫にとって恰好のおもちゃでしかない。
子猫は蝶を散々に弄んで、しまいには食べてしまったようだった。ついさっきまで美しい模様を見せていた羽の細かな切れ端だけが、散り散りになってその場に残った。
自然とは、こういうものだ。
どこかが弱り、生きていくのに支障の出た個体は、その途端淘汰されていく。そしてその個体を餌とする生物に捕食される。それが生態系の当たり前の姿だ。
しかし——人間だけが、その外にいる。
実際に生態系の外にいるのではない。
脳が、その外にいるのだ。
アゲハチョウを美しいと感じる。子猫を愛らしいと感じる。
アゲハの羽を引き裂き、弄んで、挙げ句の果てに餌とする子猫の姿は、ひどく無慈悲で残酷に映る。そして、粉々になったアゲハの苦痛を想像する。
——この光景にこんな痛みを感じるのは、人間だけだ。
子猫は単に、これから生きていくための狩りの練習をする恰好の道具を見つけただけであり——アゲハは単に、自然の法則を受け入れただけ。
自然界に人間の視点が存在しなければ、そこに痛みなどはない。
人間以外の全ての生物の目的は、繁殖だ。
それらの生物の本能的な行動は全て、繁殖のためのものだ。
一方で、人間は、今や繁殖すら大きな目的としていない。
そして人だけが、愛情や、怒り、悲しみ、憎しみ——ときに繁殖の邪魔にすらなる、そんな感情に包まれて生きている。
本来なら決して生き残ることなどできないような、大きな欠陥のある生き物。
人間とは、全く生物らしくない、不思議な生き物だ。
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