温かい初雪


 初雪と思ひ出の舞ふゆつくりと



「初雪」は、その冬初めて降る雪。雨混じりや雪霰となって降ることも多い。冬の季語。




 初雪だ。

 11月に東京に初雪が降るのは、54年ぶりだという。



 綿のようにふわふわとした大粒の雪が、限りなく空から落ちてくる。

 それは、まるでスローモーションの画像を見るように、ゆっくりと——音もなく、優しく舞い降りてくる。



 ずっと見ていると、自分の体が宙に浮いていくような錯覚を覚える。

 空中に浮遊する雪と一体になってしまったような——そんな感覚。


 そして——

 懐かしいたくさんの思い出も、雪と一緒にゆっくりと宙を舞い始める。




 無数に空から舞い降り、手に触れたかと思うと、優しく消えていく。


 雪と思い出は、とてもよく似ている。

 ふと、そんなことを思った。





 人が生きる意味とは、「愛すること」なのではないかと思う。


 きっと——愛情は、人間にとって最も意味のある感情だ。




 そばにいる人を、精一杯愛する。


 相手と、自分自身を幸せにする、魔法のような感情。



 そして——

 それは、全てが消えた後に人がこの世に残せる、最も豊かなもの。




 たくさんの深い愛情を、大切な人たちへ注ぐ。

 それは、とても難しいことだけれど——


 その愛情は、多くの人の心にいつまでも深い余韻を残す。

 多くの人を、明るい方へと歩み出させる力を持つ。




 人間だけではない。

 生物全てにとって、最も大切な感情は、きっと「愛情」だ。



 それは、地球上の生物に限らず——

 宇宙に存在する全ての生命体に共通する、何よりも大切な感情に違いない。



 そのことに、気づいた。






 舞い降りる初雪のように優しく注ぐ——数え切れない、温かい思い出。


 思い出もまた、その多くは愛情でできている。




 振り返ればいつでも、溢れるほどのその温かさを思い出すことのできる私は、幸せ者だ。











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