第64話 元武士の一族


「・・・・・・という訳でいきなり襲って来られたんだけど、一体あの人は何者なん?」


「学校じゃ有名人でしたけど・・・・・・」


 訓練所で急に襲って来たクマちゃんパンツについて、合流したアオバたちに聞くとそう返された。

勿論パンツについての説明をした訳ではない。


「金髪碧眼で美人だったし目立つのは分かるけどさ。いきなり切りかかって来るとは思わなかったよ。学校でも暴れん坊だったの?」


「いえ、学校では普通のお嬢さまでしたよ。・・・・・男のファンは多かったみたいですけど」

 

 アオバが言った後に、ナグモを睨む。

その言葉を受けてナグモは自分は違うとばかりに両掌を見せて首を左右に振った。

普通のお嬢様が何か分からんな。

普通じゃ無いからお嬢さまなんだろうし。


「わたしは家が何かの家元、みたいな話を聞いた事はありますよ。

茶道とか華道とかかと思ってましたけど」


 そう言ったマシロも口元は笑っているが目が笑っていない。

こりゃーあのクマちゃんパンツ、女子受けは悪い感じか。

女子二人の前では、男から碌な情報を得られないかも知れないな。


 ふむ、確か父親が外国籍とか言っていた。

日本文化に憧れて来日。その道にのめり込んで婿入りしちゃった感じかね?

飽きっぽい俺にとって、そこまで入れ篭める道を見つけたというのは羨ましい話ではある。


「言い方的に剣の道っぽいけどね。少なくとも剣道歴は俺より長そう」


「秋野さんは中学の部活の時にやってたんですよね?」


 あれから何度も話す機会があったので、多少の擦り合わせは終わっている。

俺の過去の経験も伝えてあるし、アオバら四人がやっていた習い事、中高とやってた部活の話も聞いてある。

この中で剣道経験者は俺だけだ。


「そうそう、俺の通ってた中学は格闘技系の部活動が人気なくてね、柔道剣道相撲と統合されてて〝格技部〟って名前で毎年各学年から一人強制で入部させられてたんだよ。で、俺の学年は俺って訳」


 入部希望者がいないんだから廃部にすれば良いものをわざわざ統合していたのは、地元に残る卒業生の権力ちからが強いからだ。具体的には一緒に来た奴らの中の二つの家のうち一つの家が強権を発動していた。

 お金に限らず毎年色々寄付していたので、断れない話だったとか。

俺の在学中、毎年必ず剣道の防具は一式新しいモノが送られて来ていた。

おかげで防具を借りれたおかげで、買わずに済んだ。

だが買わなかったおかげで、中学を卒業と一緒に剣道も卒業だった。防具がなきゃ出来る訳がない。


「俺と一緒に来た四人いるじゃん? あの中の鈴代くんの家が実は武士の家系でね。一族揃って剣道をやってた。一つ上にお姉さんが。一つ下に弟がいて、その二人が俺と同じく〝格技部〟だったんだ。

だから実は中学三年生の一年間しか付き合いの無いハル、・・・・・・鈴代春樹より姉と弟の方が付き合いが長かったりする」


 俺がその〝格技部〟に放り込まれたのはスズシロハルキが入部を拒否したからだと言われていた。

別に昔はそんな話を気にしちゃいなかったけどな。

 少年野球で野球にはうんざりしていたのに、親には中学でも野球を続けるように言われていた。そんな俺には都合が良い話だった。


汗臭い剣道なんか続けさせたくなかっただろう道明寺菜桜

彼女にそう言われて、家の方針と板挟みになっていた鈴代春樹ハル

親の言いなりになりたくなった俺。

あの時はそれで上手くはまった。


「家がそんな感じなんだったら、多分春子先輩と気が合っただろうな。こっちに来てたら、だけど」


「春子先輩って、一緒に来た鈴代さんって人のお姉さんでしたっけ?」


「そうそう、一学年上で俺の剣道の先生だった人。生徒会長やってたり、高校の部活じゃかなりいい所まで行ってたらしいし、アグレッシブでパワフルな先輩だったよ」


 中学時代はトラブルが起きる度によく先輩に怒られたもんだ。

面倒見がよく、ちゃんと話も聞いてくれる良い先輩だったと思える人だった。

もしハルキではなくハルコ彼女が一緒にこっちに送られて来てたなら、喜んで一緒に行動しただろう。


「何かあると開幕に頭を竹刀でゴツン! から始まる人でもあったんだけど。

それに慣れているから今回も反応出来た面もあるし」


「なるほど。あの子と似てる感じなんですか?」


「似てはいないかな。先輩の方は自分が先に怒っておけば、他の奴、教師とかがそれ以上怒れないじゃん?

だからとりあえず殴って見せておくって感じの人だったんだよね。だから別に俺が悪さをしても、誰かほかの人がいる前でしか殴られた事なかったもん」


 先に怒って見せる、というのはビジネスの世界で大人になっても使われる処世術の一つである。

小学生から中学生になったばかりのまだ子供ガキの頃、一つ上にそうやって庇ってくれる先輩がいた事は大きかった。おかげで色々学ぶことが出来た。


「つまり秋野さんは中学時代問題児だった?」


「おっと、それ以上はいけないな。話を戻しましょう」


 マシロが突いては行けない所を突つきだした。話を変えよう。

彼女らは一緒にこっちに来ている俺の同級生に昔の話を聞いている。あまり子供ガキだった頃の話はしたくない。


「えーと、何が言いたっかったんだっけ?」


「秋野さんは金髪碧眼美少女に襲われて大変だった!

けど結果として悪く無かった~、ってって話ッスよね? 女性の知り合いも二人増えたみたいッスし」


 ホクトくん? 何でそこでそういうのをぶっこんでくるのか?

マシロが何故か白い目で無自覚系ハーレム野郎とか呟いたし。

俺にハーレム要素皆無だと思うんだけど?


「違うよ? 君らと同じ制服の人に関わったから報告しといただけだよ? 別にその件が何か問題に発展しないなら、そういうことがあったんだよ。びっくりしたで終わりだよ?」


 別に名前も聞いてないし。一言二言会話しただけで、最後は豪快に「フン!」って言いながら顔を背けてどっかに行ったし。

君らと着ている服元の所属が同じじゃなければ、わざわざ言わなかった。

そんな程度の話だ。


「なら問題ないと思います。私たちは別に親しくなかったですし。男子に人気はある子でしたけど、まさか私たちが知らないだけで実は仲が良かった、なんてことも無いでしょうし」

「ねぇーアオバちゃん。まさかそんな事、ある訳ないよ、ね?」


 目が嗤っていないアオバとマシロの言葉にナグモとホクトがうんうん、頷く。

ホクトはざまーみろ、だがナグモは完全にとばっちりだな。可哀想に。

話を変えるついでだ、何とかしてやろう。


「それでちょっと思ったんだけど、聞いてくれる?」


 ケモ耳になった四人それぞれの耳目が集まるのを待った。

こう並んで見るとそれぞれの耳に特徴がある。いつか触らせて欲しいもんだ。


「多分あの人は剣道をやってたとは思うんだ。それは間違いないと思う。

けどさ。でもそれがスキルに生きてなかったと思うんだよ。何とか避けれたし。

 まぁそれは俺もなんだけど。剣術系のスキル取れてないし」


 短剣術を選んだ時に、昔剣道をやっていたから剣術系は比較的簡単に習得できるんじゃないかと皮算用していた部分があった。

 似て非なるモノだとは思っていたが共通点はあるだろうし、と。

〝素養〟を持って来れるので剣術系のスキルはそれもあって除外し、〝解体〟スキルと合わせて〝短剣術〟を優先した訳だ。


「つまり剣道経験はあんまり効果が無い、ってことですか?」


 ふむ、と興味深そうにアオバが顎に手を添えて考え込む。

そんな仕草をすると高貴なお猫さまに見えるから不思議だ。


「効果というか、もしかしたら全くの別物なのかなって。俺のリストにあった百五のスキルの中に〝刀術〟ってのはなかったんだけど、それっぽいのあったって人はいる?」


「「「えっ!?」」」


 俺の言葉に声をあげたのはアオバ以外の三人だった。

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