第108話 商人ギルド
今日はマドロア、ミケア、バイロイと四人で配達依頼を受けつつ、道中で採取と狩猟をした。
稼ぎとしては今一つだったが、スキルのお試しも兼ねているのではまぁまぁと言って良いだろう。
スキルの方はイマイチだったが。
〝蛇〟のレベルをあげないと使えなそうだ。
最も今日のお題に蛇はなかった。システムさん、面倒くさいよ。
冒険者ギルドに戻った所、アオバとナグモが待っていた。
二階から落ちた間抜けの治療の打ち合わせをしたいらしい。
マシロがサクマのパーティと共に他の日本人に声を掛けてくれるので、こっちの2人は俺の手伝いに。
というか俺方面担当という事らしい。連絡役だな。
昨晩から考えていた条件を伝えて、それで話を進めて欲しいと言って解散しようとしたのだが、そうはいかなかった。
「別に着いてこなくて良いのに」
「やっぱり怒ってるんですか?」
「別に怒ってはいないけど。今日は早めに済ませきたい用事があるんだよ」
「なら別に着いて行ってもいいですよね? 別に怒ってないなら」
「いや、確認したら後で教えれば済むでしょ。同じことしててもしゃーないと思うが」
なんて話ながら三人で向かったのは〝商人ギルド〟だ。
冒険者ギルドとは違い、前世日本の企業ビルのように受付があり、そこで要件を伝えてから担当部署で話す事になる。前に一度来ているので流れは分かる。
「ご用件はなんでしょうか? お約束はされていますか?」
受付嬢なんて洒落たモノはおらず、ぼてっとしたおっさんが相手だが。
「約束はしてません。商人ギルドへの登録と、屋台を出す手続きの確認をしたいです」
「かしこまりました。登録は三名で行いますか?」
「いえ、登録するのは俺だけ」「あ、私も話を聞きたいです」「俺もお願いします」
同席出来ないようなら帰ってもらおうと思ったんだが、一緒に聞くらしい。
「かしこまりました」と言っておっさんは一度裏に消えていく。
「コウさん。商人にも登録するんですか?」
アオバが聞いてくる。ということは話を合わせただけだったか。
今日は冒険者ギルドへの嫌がらせで、商人ギルドに口座を作ろうと思っている。
嫌がらせになるかは微妙だけどな。
冒険者ギルドの口座に入れとくと、また勝手に出されちゃうから。その対応策でもある。
商人ギルドでも似たような口座が作れることは前回来た時に聞いていた。なので一応詳細を確認しに来た訳だ。
商人ギルドの方が登録は複雑なのだ。
冒険者ギルドは成人すれば十五歳のガキでも登録出来るが、商人ギルドはそうはいかない。
それと別の目的もある。
「うん。依頼を受けるついでに自分で行商もしてみようと思ってね」
行商はやるだけなら登録は必要ない。ないが信用の問題だ。
行った村や町で話しを通すのに商人ギルドに登録してあった方がスムーズで、税金の計算もすんなり行く。
もぐりの商売なんて、良いのは最初だけ。失敗したらそれまでで、上手く行っても目を付けられる。あちらこちらにな。
だったら最初から順序を守った方が良い。
最もそれだけじゃないけどね。
野営の時に好評だったから、一度シチューの屋台を出してみようと思ってる。
屋台は商人ギルドが仕切っているので、申請して場所を借りる必要が有る。
商人登録しておけば、申請する時に楽らしい。
登録情報を流用してくれるからだろう。
今は良いが、そのうち魔物狩りになんて出たくない。なんて時も来るだろうし。
おっさんが帰って来て別の部屋に案内された。
そこで登録の流れの説明を受ける。
商人登録にはある程度まとまったお金が必要らしい。
これは出資金と考える。原資が無いのに商売なんて出来ない。当然だろう。
それを持って来る事で初めて商人ギルドに登録出来る、と。
以降、商人ギルドの口座に入っている金で、商人ランクが付けられるという感じらしい。
そのランクで税金が決まる、と。
露店に関しては、ゴザを敷いてその上でって感じならば明日からでも出来る。
青空店舗って奴だね。もしくはフリマ形式。
これは申請して場所代さえ払えばあとはご自由にって感じらしい。
出来る場所と出せる店舗数は決まっていて、場所は日の出より早い者勝ち。
店舗数も申請順で早い者勝ちらしい。最も出す店舗が上限に達したことは過去に無い、との事。
「これは独り言ですが。
冒険者登録した新人さんが、自分で路面売りしようとする事は珍しくありません。ですが新人が手に入れられるモノなどそこまでして売れる事はありません」
素直に冒険者ギルドで売れって事らしい。
同じことを前にゴンザレスにも言われている。世の中そんな上手くはいかないってことだろうさ。
それは分かってる。
尚、飲食を出す場合は研修を受ける必要が有り、出店する前に一度、出す品を作らなければならないらしい。
これは後日こっそり申し込もう。
「最初は毎度申請してやるしかないか」
理想は先に登録、それから露店のコンボだったが。
有り金を全て持ってかれたのが痛い。
出資金の最低額は五万ゼニーだというので、取られず残ってればやれた。
最もそれだと売る物が無いんだけど。
仮にシチューで露店を出すとして。
今で出てる露店で売ってるのは安い所は串一本5ゼニーからだ。
かなり不味く硬い、何の肉だか分からないという糞コンボなので一度しか手を出していない。
スープだと15ゼニーくらいからだ。高くても30ゼニーはしない。
このダリーシタの街は基本食べ物は安い。代わりに宿などが高めになっている。
城壁に囲まれているからだ。
外に出れば一気に安くなるが、食べ物が代わりに高くなる。
街中はそれだけ安全だという事だろう。
なので出すとしたら50ゼニー取れるかどうか。
正直売れない可能性が高いだろう。値段が高いって理由で。
五万ゼニー貯めるのに単純に千杯。そんな訳が無く。
材料費と調理時間を考えるとその十倍は売らねばならないだろう。
シチュールウも必要だし、現実的じゃないな。
現地産の材料で何かを作れれば・・・・・・
「他に何か質問などありますか?」
考え込んでいるとおっさんからバトンタッチして説明してくれていた初老の爺さんが問いかけてくる。
「ありがとうございます。準備して近いうちに露店の申請に来るので宜しくお願い致します。
それで別件なんですが、質問してもよろしいでしょうか?」
質問があるか? と聞かれてるのに質問して良いかと聞くのはどうかと思うんだけどね。
本当は独りで来るつもりだったんだよ。横の二人への牽制だ。
「答えられる事なら」と返って来る。
断ってくれれば別日に出直したんだけどね。
「では二つ、質問させて下さい。
〝魔法〟は買えると伺いました。取り扱っている店を紹介してもらう事は出来ますか?」
アオバとナグモから「えっ!?」という声があがる。
情報源は勿論強面の受付職員だが、どこで売ってるかまでは教えてくれなかったんだよね。
ニヤニヤしてるだけで、答えてくれなかった。
自分で探せと言う事だろう。なのでその道のプロに聞きに来た訳だ。
「それはおそらく個人間での取引でしょうね」
老商人ギルド職員が淡々と答えた。これは知ってるけど教えてくれない感じだろうか?
どうやって売ってるのか、すら今の所想像すらついていない。
だがこう言うって事は、取引されているのは確かなのか。
「分かりました。では錬金術スキルを所持しているんですが、何かそれを活かした仕事を紹介してもらう事は出来ますか?」
冒険者ギルドには錬金術スキルを使う仕事は無い。こちらに来てからずっと確認していたが、一度も張り出された事は無かった。
奴にも聞いたが、そっち系はまず来ないそうだ。
理由はいくつかあるが、この街に〝錬金術師ギルド〟が無い事が大きい。
薬師ギルドはあるらしい。
無いと言っても〝錬金術師ギルド〟が存在しないのでは無く、支部が無いという意味だ。
ではどこにあるのかと言えば、最寄りだと王都に行かないとないらしい。
この街で出回るポーションは殆どが薬師ギルド系だとか。
だからといって錬金術師が全く存在しない、なんてことは無いだろう。
師匠筋のサトッカさんのように個人でスキルを持っている人はいる筈だ。
そんな人らが市場に流すとしたら、ここだろう。商人ギルドだ。
「ほう、錬金術スキルを? それは珍しいですね。
ふむ仕事を紹介・・・・・・というのは厳しいですが・・・・・・」
こっちは手応えあり、かな?
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