第109話 コップの中の嵐 ①
商人ギルドに行った次の日は、マドロアさんと二人で狩りに行った。
ジュエルタートルのシキが出した本日のお題は〝蜘蛛〟
なんと単一で選択肢が無かった。こんな事は初めてだ。そんな事もあるらしい。
こいつがまた、難しいお題だ。
蜘蛛系はトラッパー。つまり罠師だ。
その辺をノコノコ歩いていないし、あちらから来てもくれない。
ジッと待ち構えている、狩るには厄介な魔物だ。
蜘蛛の巣と言われる所に、こちらから入って行く必要がある。
うーん、積極的に狩らなくて良いかなってのが率直な気持ちだ。
受付職員のゴンザレスにも、遠距離攻撃のアテがつくまで蜘蛛系の魔物はやめとけと言われてる。
言葉通り、遠距離攻撃の手段が無いと難しい。
だが、それ以上の理由がある。リンクする。それが最も危険な理由だ。
一匹攻撃すると、近くの同種族が一斉に攻撃してくる。
蜘蛛は一匹の母体から大量に子が生まれる。魔物も同じ感じらしい。なので、比較的近距離で生息している。厄介な魔物だ。
はぐれでもいたら試しても良いが、無理に手を出して藪蛇ならぬ藪蜘蛛になっては目が当てられない。
そんな訳で召喚魔法の今日のノルマは諦めて昨日に引き続き、スキルレベルの上がった〝蛇〟レベル1を薬草採取をしながら再実験した。
その効果だが、既存の魔法に乗らなかった。残念。
現状四属性をレベル1まで使える。
火魔法レベル1 「ファイアーアロー」
水魔法レベル1 「アクアアロー」
土魔法レベル1 「アースアロー」
風魔法レベル1 「ウィンドアロー(エアハンマー)」
レベル1魔法を覚えると無条件に覚えられる魔法はアロー系。
ただ所詮は人が付けた名前だ。なので扱う人間によって変わる事がある。
そのせいで複数の名前がある魔法があったりする。同じ魔法なのに、だ。
法則では風魔法レベル1はアローと言うべきところ。だが見えないからエアハンマーだと呼ぶ勢力もいて、いつの間にかそっちの方が多かったりする訳だ。
最近覚えた影魔法も同じ。法則なら「シャドウアロー」
だが他のレベル1と違って自分で投げなきゃならないので「シャドウダーツ」と呼ばれるようになって、そっちで定着したらしい。
という話が資料室に、なんとかという賢者の話を
こういう話が本に纏められて一般的に広まっていないのは、文化レベルがまだまだだからだろうが、ちょっと勿体ないと思う。
なんて余談は兎も角、そのアロー系統の魔法を使う時に〝蛇〟に姿を変える事は出来なかった。
では何が出来たかと言うと、現存する影だ。
俺自身の影に、現在の全魔力の約四分の三、MP30をつぎ込んで30センチほどの蛇の形にして飛び出させることに成功した。
現時点で
ベースレベル 7 HP 90 MP40
隠れステータスを入れない素のステータスはオール26
この現状で
『足元の自分の影に、しゃがみ込んでMPを30注入して』
やっと30センチの蛇の形にして動かせたという。
物凄く微妙な成果だと思う。
現時点ではあまり使えないと言える。
救いはスキルレベルがあることだろう。
レベルが上がれば化ける可能性がある。
この現状の属性を扱う魔法を便宜上、俺はレベル0スキルと分類している。
魔法を覚える為に燃えている火を動かす練習をした。それが出来るようになると、魔法を覚えたような感覚を実感する。
それを繰り返し感覚を掴み、魔力で作り出せるようになると成功だ。
これでスキルレベル1になる、と思う。その前段階なので
火魔法なら『ファイア』
水魔法なら『アクア』
土魔法なら『アース』
風魔法なら『ウィンド』
と仮に名前を付ける。
多分これが魔法の元になっていると思う。あくまでも予想だ。
影魔法は『シャドウ』だ。捻るつもりはないので、意義は認めない。
今後はこれを前提に四属性でも実験しつつ練習し、狩れそうな魔物を片っ端から狩っていくことにする。
実験と採取を済ませ、少し早い時間に冒険者ギルドに戻った。
・・・・・・そこには嫌な顔ぶれが揃っていた。
チームジャパンと道明寺のグループが、サユリサござるのパーティを取り囲んでいる。
「おい! 何やってんだ!!」
叫んで、腰に付けた手斧を抜いてその輪に走った。
数に任せてなんかしようとしてたならぶっ殺してやる!
女性組の衣類に乱れでもあったなら、手あたり次第今度は頭をカチ割ってやる!
輪を掻き分けてサユリサの前に立った。
「コウ! 待って!!」
「暴れる、駄目ヨ」
だが取り押さえられた。サユリサに・・・・・・
「アキノ氏、落ち着くでござる。あちらは話し合いを所望してござる」
いつものおっぱいガードに左右の腕を絡み取られ、柔らかさに戦意を喪失しかけた。
そこを後ろからござるが囁いて、「ん?」と思っていた所にゴンザレスが飛んで来て頭にゲンコツをゴツン落とされた。
頭の中に凄い音が響く。
「コウのあんちゃんよ。ギルド内で武器は厳禁だって教えたよな。やるなら素手でやれ、素手で」
「お、おう。すまん、ちと興奮したみたい」
そういやそんな話だったな。すっかり忘れてたわ。見れば誰も武器は抜いていない。
かと言って多勢に無勢だとね。素手だと負けちゃうし。
俺が(規則を守らなかったのは)悪いけど、俺は(男として)悪く無いと思う。
それにしても痛い。流石元Aランク。
「本当に素手なら許されるんだ。確かにそう聞いてたけど・・・・・・」
殴られた俺と、一瞬で手斧を取り上げたゴンザレスを見ながら、腕に絡みついたリサリサが呟いた。
「ガッハッハ。素手の喧嘩くらいじゃ簡単には死なないからな。あんまり酷くなったら俺が止めてやるさ。ま、あんちゃんよ。今日はなるべく話し合いで済ませるんだな」
そう言ってゴンザレスは俺の手に手斧を戻すと、後ろを向いて歩きだし、手を挙げてひらひらと振って去って行った。
「なんか凄い人ね」と言う言葉と共に右手からおっぱいの感触が消失する。
斧を腰に戻して、「だよね」と応える。凄いヤツだと思うよ。
ゴンザレスがいるから、それなりに楽しく冒険者をやれてるようなもんだ。
「で、結局何してるの?」
「条件が気に入らないらしいヨ」
「だから一緒に考えてあげようと思ってさ」
向こう側でタカノがなんか変な事を言った。一緒に? 考える? 何を?
「アキノ氏の出した条件が気に入らぬなら参加しなければ良いではござらんか、と言ったのでござるが、勝手に決めることでは無いと言い張られてでござるな・・・・・・
平行線で話していたところ、姫が悲鳴をあげまして」
「なんか近づいてくるのよ、そいつが! あとサユリさんにも! そこのエルフが!」
そいつってのがゴヘイで、そこのは先日も来ていたナルシスエルフか。
ゴヘイがリサリサに目を付けてるのは知っている。「俺ちゃんが先に目を付けたんだぞ」とこの前も喚いてた。
この言い分だとナルシスエルフもか。
先日も変なポーズを付けてるなと思ってたが、言われてみると確かにサユリんの方を意識していた感じがあったかも知れない。
そしてござるの後ろには女冒険者が一人。位置的に庇ってた、感じだ。
話に聞いているのチームジャパンに乱暴されたという新人冒険者だろう。顔が青く、酷く怯えてる。
レベル上げの盾役として手伝ったのに、たいして役に立たなかったとかいちゃもんつけて襲ったらしい。
運よく逃げたあと、サユリサに拾われたからこうして冒険者をやってられている。
一緒にレベル上げの手伝いをした女性冒険者はどうしてるか分からないらしい。
これが微妙な所で、冒険者同士で男女の関係は珍しくないらしい。
恋人関係から始まってパーティを組むなんてのは珍しくなく、他にも身体で払うって方法でパーティに参加する冒険者もいるらしい。男女関係無く、ね。
おそらくだが聞いている感じ、チームジャパンもレベル上げの手伝いの失敗を理由に、報酬をマイナスにしてからそれを借金としている。それを身体で払わせている感じだと思う。
冒険者ギルドも踏み込みにくいラインだとゴンザレスが言っていた。
そんな奴らを庇うんだから冒険者ギルド上層部もどうしようもない。
大体分かった。
俺と話しに、ではなく。人数で圧力をかけて都合の良い条件を飲ませようと、押しかけてきたのだろう。
そしたら先にサユリサのパーティに会ってしまった。
幸いだったのは、冒険者ギルド内という人目のあるところだったから、か。
これは早めに引き離して逃がした方がいいな。マドロアさんも、目を付けられる前に。
彼女は今日はミケアの家に泊まりに行くことになってるらしいので、清算をさっさと終わらせて行ってもらおう。
「オッケー、話は聞いてやる。だがその前に清算を終わらせるからちょっと待ってろ。悪いんだけど〝サムライ〟の方は一緒に来てくれ」
〝サムライ〟はサユリサござるのパーティ名だ。後ろの彼女の名前を知らないのでね。
「女は置いてけ」とか馬鹿がデカい声で叫んでくれたおかげで周囲の目を集めたが、そのままゴンザレスの所へ〝サムライ〟四名 + マドロア を連れて行く。
本当に、人数が多いと強気に出る男だよ。
「悪いんだけど、俺の代わりに清算を見といて。ゴンザレスはコレに入れといてくれ」
そう言って冒険者証をカウンターテーブルへと置いた。
今日は採取メインだから買い取り品は全部マドロアさんの背負いカゴの中だ。
「おう、了解した。で、終わったらコウのあんちゃんがあいつらを引きつけてる間に、嬢ちゃんたちを逃がしとけば良いんだな?」
何だコイツ、エスパーか?
この辺は元A級冒険者だ。察しが良くて助かる。
さすがは嫁が三人いるだけのことはある。
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