第18話 先天性嘘吐症候群


 道明寺菜桜に素養を多めに取得しているのかと問われた事に、さて何て答えるのが良いだろうか。

曖昧に濁しても良いが、後で変な影響が出ても困る。

素養を全て持っている事が不自然でない程度の情報を多少は出しておいた方が良いかもしれない。

『素養を多めに押さえている』という事だけ協調して伝えておけば良いだろう。


「確かに素養を多めに確保してる感じですね。おかげで使える状態ではあんまり持ってこれませんでしたけど」


「さすがね。コウくんはどんな基準でスキルを選んだのかしら?」


「後天的にこっちでも覚えられそうだと思ったスキルは後回しパス、逆に絶対必要になりそうなモノを素養でカバー優先。努力しても取得しずらそうなモノも素養でカバー同じく


「後天的に覚えられそう? それはどういった基準で決めたのかしら?」


「スキル名で練習方法が思い浮かぶかどうかを直感」


 ここまで言うと四人の顔がちょっと驚いていた。って事はそこまで考えてなかったって事か。

素養を全部持ってこれたから真っ赤な嘘なんだけどね。

練習方法が思いつくかどうかで決めたのは有効化するスキルだ。

 最も選ぶ基準が違うのは仕方がない。

あちらは選択時間が三十分で、俺は五時間。

そして向こうは四人で、俺は独りだった。この差はデカイ。スキル選択時の思考に大きく影響するのは当然だ。

なのでこれは言っておこう。


「四人で相談して分担したそちらと違って俺は独りでやっていく前提でスキルを買ってるので、多分そちらとは戦闘スタイルが噛み合わないよ」


「コウ、それはどうゆう事?」


「ん~四人でそれぞれ役割を決めたってことを、敢えて言うなら専門職って事になるでしょ。

盾職タンク回復支援ヒーラー魔法攻撃アタッカーと役割が決まってる」


 敢えてね。前衛後衛と言っても良いのだけど、そうすると中衛と言う発想が出て来ると拙い。


「うん、そうだね。僕らはそうなるように話し合って決めた」


「俺はそれらを全部独りで賄えるようにバランス取ってスキルを買った.。だからそっちに混じるとやれることがないと思う」


「要は器用貧乏という事か」


 抽冬ぅ、言い方ぁ!!

その通りなんだけど。


「せめてソロ仕様とパーティ仕様の違いと言え。運用方法が違うんだよ、運用方法が」


「役に立たないなら同じだ。結局魔法も使えないみたいだしな」


「そこは問題ないんじゃないかしら。魔法が使えないのは多分理由があるんじゃないかしら?

いずれ何とかなる気がするわ。それにコウくんだし、パーティプレイを全く想定していないという訳じゃないじゃないかしら?」


 ふむ、やっぱり察しの良い女は嫌いかも知れない。


「そこら辺も素養で押えてるから時間が・・・・・・」


 ちょっと小声になった。掛かると言い切れなかったし。

じゃーそれまで着いて来いって流れになるのがね。

嫌で口を噤んでしまった。


「やっぱり。敢えて言うなら大器晩成型じゃないかしら」


「ソンナコトナイヨ」


 道明寺菜桜はそう言って緩く笑った。やっぱりこの人苦手かも知れない。


「おい、その木に魔法をぶつけるな。どこの田舎者だお前ら」


 しばらく話し込んでいるうちにどうやら他者の接近を許していたらしい。

木に魔法をぶつけてるのを見ていたらしく、注意された。


「何だと!!」


 は怒られて当然の事だと俺は思った。

だが、そうじゃない奴も世の中にはいる。抽冬がその言葉に噛みついた。


 目の前に現れた男はかなりデカかった。

二メーター近くあるんじゃないかな。そして猫耳に尻尾が!!

う~ん、男には微妙だな。そうは思うが相手は獣人族なんだろう。

そういう人種なんだから仕方がない・・・・・・

実際に見ると感動す・・・・・・嘘だ、しなかった。


 微妙だな。うん、特に鬣。タテガミね。

猫耳、尻尾、タテガミ、男。はい、ライオン族ですね、初めて見た。画面以外でだけど。

まさか最初に見る獣人族がライオン丸とは。


 とはいえ今は呑気にそんな事考えている場合ではない。

本当にこのアホは、タカノが関わると誰にでも嚙みつきやがる。充分狂犬だ。

木に魔法をぶつけてたんだから、やったこっちが悪いに決まっている。自然は大切に、だぞ。

つーか普通にチンピラやヤンキーの所業だ。


「やめろよバカが。どう考えてもこっちが悪いだろうが。

すまんね、悪かった。今後気を付けるよ。あとこいつは〝人に謝ると死んじゃう病〟にかかってるんでそれも合わせて許して欲しい」


「こ、この、誰がバカだ! それに何だその病気は!!!」


「一定数どこにでもいる病名の付かない病気だよ、お前もそうだし、お前の周りにもいっぱいいただろうに」


「うるさい、今はそんな話をしている」「シュウ、ストップ!」

「抽冬、それ以上騒ぐとモミジの言ってる事が正しいとしか思えなくなる」


 周りに宥められたので抽冬は静かになったが、結局あっちの四人は誰も謝らなかった。

それも何だかなぁ。そもそも魔法を当てたの俺じゃないんだけど? 俺今の所魔法使えないしな。


「何かあんたも大変そうだな」


 ライオンの獣人族には同情されてしまった。

冒険者ギルドで登録するまでの辛抱なんですよ、って言いたい。けど聞かれるとまたウザイだろう。

だから今は言わないけどね。



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