第17話 異世界の土を踏んで
そこはどこまでも続くような広い草原の中だった。
「地平線とか、初めて見るな」
四方全てや、見える一面全てに地平線が見える訳では無い。だが、確かに見えていた。
日本では見る事が出来ない景色だと聞いた事がある。山地が多いという事もあるだろうが、平地はそれだけ開発が進んでいるからだろう。もうどこもかしこも建築物だらけのアスファルトジャングルだ。
改めて此処が日本では無い事を実感する。空には太陽と星が仲良く同居してやがる。
別に有り得ない事じゃないが、肉眼ではっきり星が複数見えてるってちょっと理解不能だ。
それだけ狭い世界で三十年間生きて来たのだと痛感する。変化に弱いなぁ・・・・・・
そんな景色を眺めていた俺の横で、ダブルカップルどもは四人並んで思い出話をし始めた。
どこどこで見た何とかの景色を思い出す、とかそんな感じで。
経験は話題を広げるが、それで今足を止めるのは堪忍して欲しい。
俺の知らない昔話を始めた四人は話題をあっちこっちに飛ばしながらも話し込み始める。
参ったね。俺は早く冒険者ギルドに行きたいのだが。
だがそれを言いだすのも悪手だろう。まーた抽冬と揉めるのは目に見えているし、会話に入れない故の嫉妬と取られかねない。
実際会話に入れないからねぇ。疎外感が無いと言ったら嘘になる。
とは言っても会話に入りたくない、が本音なので今のうちに確認だ。
目の前に広がる人の手が殆ど入っていない雄大な自然を見れば、今度こそ別の世界に送られたのだろうと確信できる。
小さな声で「ステータスオープン」と言ってみる。
変化無し。駄目か。お約束なんだけどなぁ。残念。
他に掛け声があるのかも知れないが、あまり呟いて奴らの注意を引きたくない。
なので内面での変化を探る。
内面で大きいものと言えば?
ここはやっぱり魔法だろう。影魔法を買った、というか買わされた。
これで使えないだったらインチキだ。違約金を請求する。
最もそんな契約書は交わしていないので無効の可能性もあるが。
頭の中で影魔法影魔法カゲマホウと思考を働かせると、何やら知識という箪笥の引き出しが一つ、勝手に開いた。
うん、これは前世持っていなかった知識の入った箪笥ですね。
つまり新しい知識が勝手に増えているって事か。
うーん、別に困らないから良いか。
やってみよう。
「えーっとこうか 『シャドウダーツ』」
だが何も起こらなかった。
おかしいな、影の短矢とかそんな感じのスキルっぽいんだけど。
「フッ、何も起こらないな」
楽しそうに言った奴が一人。当然抽冬だ。いつの間にか四人が会話を止めてこちらを見てやがった。
俺の事は気にしないで四人でお喋りしていて下さいよ。
「コウくんは影魔法っと。私たちが買ってない魔法を買ってるわね。そこは流石かしら」
道明寺さんにチェックされた。細かく説明するつもりはないって言ったじゃん、放っておいて欲しいんだけど?
そうか、被りはいないか。でも何も起きないんじゃな。
「次はあたしがやってみるね。えーっと『炎よ矢となり敵を撃て、ファイヤーアロー』」
タカノがそう言うと手のひらに炎が生まれ、矢の形状になった。
成功か。だが撃つ場所を決めて無かったようで「えーっと」とか言って一瞬考えてから、傍に生えている木にぶつけた。
何も日陰を作ってくれている木に当てる事はないと思うんだが。
俺たちが送り出された場所は草原だが、出た場所には一本だけ大きな木が生えており、何の気遣いか日陰に降り立っていた。
空は青く太陽は高い。
気温は暖かいくらいだから日差しの中に放り出されるよりかは幾分過ごしやすいと思う。良い気遣いだと思う。
なのにその日陰を提供してくれている大木に魔法を当てるなんて。
自然愛護団体にでも怒られてしまえ、とか思っているとスズシロくんも同じ魔法を使って木に当てやがった。
いやだからいちいち木に当てなくても・・・・・・・
周囲に木が無い所で一本だけ生えているんだ。頑張ってるんだから優しくしてやれよ。
それにしても魔法の種類は複数あったのに同じ系統の魔法か。相談したんじゃねーのかい! と心の中で突っ込んでおく。
こりゃーこいつらは火に強い魔物が出たら全滅確定だな。
なんて内心でニタニタしながら眺めていると道明寺さんに声を掛けられる。
「あんまりゲームとかしてないと魔法ってイメージしにくいらしいみたいなのよ。だから最初は火魔法で感じを掴んでもらおうと思ったんだけど、コウくんはどう思うかしら?」
なるほど。被ったんじゃなくて心遣いでしたか。それは外からじゃ分からないな。
ふむ、分かりやすいと言えばそうかもしれない。スライムが雑魚の国民的ゲームだって最初に覚える魔法はメラだしな。
魔法=火魔法と言われたらそんな気もする。
「作戦でしたか。良いと思いますよ。魔法は買えないのいっぱいありましたしね」
「そうなのよ、でも行き成り強い魔法を扱うのはどうなのかしらと思ったのよ・・・・・・
基本的な所から手堅くいきましょうって話しておいて良かったわ。コウくんが違う魔法を選んでてくれたのも良かったかしら」
多分これは嫌味、ではなくてゲーム経験者だから扱いが難しい魔法を選んだとでも思われてそうだな。
実は違うんだ。俺は魔法は選べなかった訳で。
「俺は神さまの言うとおりにしただけなので」
「あら? そんなアドバイスまでしてくれたのかしら?」
「いやほら、鉄砲撃ってバンバンバンって奴で」
「・・・・・・・」
あっ、道明寺さんもちょっと呆れたような顔になった。
流石に適当すぎると思われたかな?
でも神様が勝手にレ点にチェック入れてたとか言えないでしょう。
多分なんか理由があるんだろうけど、それを言って意味深に取られても困る。
なるべく早くこいつらとは距離を取りたい。
「フン、そんな適当に決めて使えないんじゃどうしようもないな」
「それを言われるとなぁ。さすがに言い返せねぇ」
抽冬はムカつくがコレに関してはねぇ。まさか使えないとは。
自分でどうしてもってつもりで選んだ魔法じゃないからか、別段腹も立たない。
「モミ、・・・・・・アキノさ。あんたなんか軽くなってない? 昔からそんな考えな・・・・・・簡単に何かを決める性格だったっけ?」
この野郎、考えなしって言おうとしやがった。タカノは女だから野郎じゃないけど。
何も考えてないどころか色々考えとるわ!!
お前らにいちいち説明したくないだけじゃい!!
と言いたい! ・・・・・・所だけどこれも言えないからなぁ。
「最初は一つ使えりゃ良かったからな。悩んでても時間だけ過ぎるからどれでも同じだったんだよ」
「あら? って事はコウくんは魔法は素養で押えている感じかしら?」
おっと即バレた。道明寺さんは察しが良いな。
ちなみにさっき彼女は人生二度目の「ステータスオープン」を発動させて失敗していた。それもう俺が試したよ? 言わないけど。
察しの良い女は嫌い、では別に無い。
多分この中で話をするなら道明寺さんが一番早い。
だがあちらのグループに同行したくない最大の理由も彼女なのだ。
絶対にありえないが、仮に抽冬との関係を一旦忘れるとしてもこいつらとは絶対に一緒に行動したくない。
その理由が彼女、 〝道明寺菜桜〟
彼女が支援のポジションを選んだ以上、俺が同行する事は出来ない。
これは声を大にしては言えない事だが、俺は彼女には命を預けられない。
だってそうだろう? 俺と彼女の旦那、スズシロくんが同時に瀕死のダメージを受けたとする。
おそらく魔法は好き放題に、何度も自由に使えるというモノでは無い筈。
使用回数が限られるならば、俺が優先される事は絶対に無い。
下手すると見殺しだ。
支援回復職は平等が絶対条件だと俺は思う。こいつらとはその絶対の不文律が機能しない。
順調な時は兎も角、何かで傾いた時に真っ先に犠牲になるのが俺になるだろう。
言わないけどね。まずは情報が欲しい。話が早い彼女はその情報源になってくれる可能性が高い。
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