第19話 旅は道連れ影魔法は外れ


「冒険者ギルドはこの道を真っ直ぐ行くと左手に見えて来る一番大きい建物だ。看板が出ているからすぐ分かる」


 出入口に駐屯している門兵に税金を支払い、町に入れてもらった時に聞いた台詞だ。

もうニ十分くらい前だけど。


 確か門兵の話では十分も歩けば余裕で着くという話だった。

だが、十分なんてもう十分くらい前に過ぎている。

なんでこんなに時間が掛かっているかと言うとバカップル、じゃなかったダブルバカカップルがすぐ脱線し、寄り道をするからだ。

 町に入ってから足を止めるのはもう四度目で、その度に数分無駄話をする。

当人たちにとっては無駄じゃないのだろう。

だが目的地が目の前にある、なのにそこに行けず、何の話だか分からない会話を聞いてなきゃならない。

そんな状況に付き合わされるこちらには無駄な時間としか思えないのだから、そうとしか言いようが無いだろう。

 呆れたレオンたちはもう先に行った。


 レオンというのは木に魔法を撃った事を注意してきたライオンの獣人族だ。

二十代半ばくらいにしか見えなかったのだが、彼は同い年で、我々と同じ冒険者への登録希望者だった。

 それもあって町までは一緒に来た。道中色々話を聞けてとても有意義な時間だった。

この先の冒険者ギルドまで是非一緒に行きたかった。


 だが町に入った後にこちらの連れがしばしば足を止めるので、申し訳なくなって先に行ってもらった。

本音を言えば俺もそうしたい。

残念ながら俺には『ミッション』という縛りがある。なので残らざるを得ない。

なるほど、これが村の呪いって奴か。

早く終わらせて離れたい。自分の意思で自由に過ごしたいものだ。



 それにしてもこいつらって本当に周りが見えていないよな~。

なんて考えながら少し離れた所で無駄話が終わるのを待つ。

 これで全く悪気がないから尚の事タチが悪い。

自分たちだけが良ければ良い、とか思っている訳じゃ無く、四人で話して楽しんでいる間は周りも一緒に楽しんでいると本気で思っているのだ。

 だから反省なんてしない。

今も俺が一緒に楽しんでいる、と勝手に脳内変換されている事だろう。

だから物理的に離れるしか対処方法が思いつかない。

昔っからこんな感じだ。だから五人目に収まる奴がなかなか現れないんじゃないかとおもってる。

指摘しても良いのだが、冒険者ギルドに着いてすらいないこのタイミングで揉めるのは避けたい。

ミッションをクリアー出来ないのは困る。



 手持無沙汰で町の様子を観察していたが、それももう何度目かを終えた。

そんな俺を若い奴ら、多分今の俺や奴らと同じ年ごろのグループが追い越して行く。それをただ目で追いかけた。

 レオンに聞いた話だと今は冒険者ギルドが新人を受け付ける時期なんだそうだ。

だからだろう、さっきから似たような連中に何人も追い越された。


 タカノたちと会った一度目の移動をした際、いつの間にか所持していた荷物の中にあった羊皮紙。

なんでもあれが冒険者ギルドに提出する『登録用紙』だそうだ。


 冒険者という職業は就くには年齢制限がある。それがこの世界で成人扱いになる十五歳。


 近隣の村とか小さい町には予め冒険者ギルドから必要事項が書かれた羊皮紙が配られている。


 冒険者への登録希望者はその羊皮紙を村の偉い人から受け取って持って来る。


 これが最低限の身元保証になっている訳だ。

その羊皮紙を見えるように、目立つ所に持っておく。

同じ物、その羊皮紙を持っている者同士は声を掛け合って一緒にこの町に移動してくる、ように渡されるときに言われるらしい。

 レオンも単独では無く六人組の集団だった。

だが一緒に来ただけで、そんなに親しくないとも言っていた。道中の安全の為の配慮だろう。

 冒険者ギルドだってちまちまと個別に受け入れるよりかは、一度に纏めて対応した方が楽だ。


 という同じ話をタカノや抽冬たちも聞いていた筈なんだが。

受け入れ人数に上限とかあったらどうすんだ? とかは考えないんだろうなぁ・・・・・・・

こいつらは四人で大体の物事が完結する、だから周りの都合とか関係ない。

ほっといて先に行きたい。だが〝ミッション〟のせいでそれは良くない。

なので悩んでいる。



 悩んでいるのは別の理由だけどな。

別に最悪、あんな奴らは放っておいても良いんだ。

だけど、道中でレオンたちから聞いた話に一つ、とても気になる話があった。

なので少し考える時間が欲しくなってこうしている。


 レオンと一緒に来たグループに魔法使い志望者がいて、少し魔法の話をした。

その中でこの世界では『影魔法は外れ魔法』というのが定説になっているという話を聞いた。


 最も教えてくれた人も魔法を習っている最中で、そこまで詳しくはないそうだ。

習い始めた時に魔法の先生にそう教えられ、習得しやすい四属性の魔法を覚える事を勧められたのだと。


その時に教わった事は

 基本の四属性魔法 「火魔法」「水魔法」「風魔法」「土魔法」

 応用の二属性魔法 「光魔法」「影魔法」 どちらも扱いにくく覚えにくい。

          「光魔法」は扱いやすく、強い。 だが「影魔法」は扱い難く弱い。

           光魔法は勇者の最低条件。


 それ以外も聞いたが今は分からなかった。なので置いておく。

分からなかったことは覚えておいて、後で調べる。

 特に勇者。これは必ず後で調べよう

面倒くさい匂いがプンプンしやがる。


 ともかく魔法使い系のスキルは基本の四属性を覚えていくのが主流らしい。

光と影はあまり使用者がいない。理由としてはどちらも基本の四属性魔法より覚えにくく扱い辛いから。

 教えてはもらったが、教えてくれた人も今の俺と同じ十五歳だ。同い年の自分たちと同じく駆け出しの身。そこまで詳しくはないのは仕方がない。


 何を悩んでいるかというと、今後の身の振り方になる。

今まで俺は「ソロでやる」「パーティを組んでやる」という方向で考えていた。

此処まではあの四人と組んでやるという選択肢は無いでファイナルアンサーFAだったのでソロ一択だったが、この件で少し考えが変わって来た。


「どこかに弟子入りしてちゃんとイチから勉強した方が良いんじゃないか?」


という悩みだ。


「弟子入り先を探しているのか?」


 誰? つい声が出ていたらしく、声を掛けられてしまった。

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