第10話 設定⑤
どうやらこの老婆の女神、影魔法だけは絶対に持って行かせたいらしい。
ここに来て正体を表しやがったな!!
と思ってちょっとだけ腹が立ったが、別に強引なのはそれだけだったんだよな。
他は良くしてくれたと思うよ。うん。
だからと言ってよりによって〝影魔法〟か。
うーん、影魔法か。
・・・
・・・・
・・・・・
・・・・・・別に問題ねぇな。
文句も特に思いつかなかった。
他の魔法だって、スキルだって、何だって一長一短だろう。
そもそも魔法自体が俺には何だかよく分からない。
漫画やゲームで多少の予備知識はあるが、それがそのままあっちで通用するかどうかは分からないし。
結局のところあっちに行って使ってみないと分からん。
どうやら勝手に決まってた事がちょっと面白くなかっただけ、らしい。
よし、影魔法で良いや。だから文句も無い。
むしろ大歓迎と行こうか。お導きだし。俺これで頑張っちゃうよ。
そもそも死んだ身だし。今さらジタバタしたって仕方がないじゃないか。
どうせ別世界に行くんだから開き直って生きようじゃないか。
「よし、もう俺はジタバタしない。これから起こる事は全て受け入れる。問題には真っ向から立ち向かう。死んだらそれまでだ、そう開き直って生きる」
「ヒッヒッヒ、急にどうしたんじゃ?」
「行く前にここまで導いてくれた女神さまに誓っておこうかと」
「イーッヒッヒ、賢いようでお馬鹿な子じゃよ」
そう言いながらも老婆の女神の顔は少し嬉しそうに見えた。
多分俺の気のせいだろう。何か一瞬俺の身体がぽわっと温かくなった気がするが。
うん、気のせい気のせい。考えてもよく分からないし。時間もない。
その残り時間も分からん事だし、もらうスキルを急ぎ決めてしまおうか。
戦闘スキル、魔法スキル、生活スキルから二つずつスキルをもらえる。
「ちなみに〝初心者向け装備セット〟って何が入ってるんですか?」
「ヒャッヒャッヒャッ」
笑うだけで答えてはくれないようだ。知ってた。
となると想像するしかないな。
これから送られるのは魔物がいて、それと戦う世界だ。
でも多分、戦わないで生きている奴もいっぱいいるだろう。
えーっと168時間に一体? 一度? 魔物を倒さなきゃいけないんじゃなかったかな。
やらなかった場合『心臓を止める』と言われている。
『止まる』じゃなくて『止める』だしな。怖いよ異世界!
完全に手のひらの上じゃねーか。いつでも殺せるって事だし。全力で取り組むしかない。
異世界の一日が元の世界と同じ時間だと仮定して、168時間とやらを24で割る事の7、なので。
つまり死ぬ前の感覚で一週間に一度だ。
魔物と戦う、という事を単純に考えてみると結構余裕がないと思う。
それなりの頻度で戦わないといけないだろう。怪我とかしてられないな。
頑張るしかないが、問題は魔物を倒して終わるかどうか、だ。
そこで気になるスキルが一つ、生活系と仮定したスキルの中にある〝解体〟というスキルだ。
システムさんの説明はあまり当てにならなかったが、あっちで今後『魔物を解体する』生活を送る、と考えると優先してレベルを1にしておきたいと思うスキルだ。
理由としてはスタートラインをなるべく前に持って行きたい。これに限る。
〝満腹セット〟のおかげで〝素養〟は全て持って行ける。
だが、向こうでそれをレベル1にするのがね。
多分凄く手間だろうしなぁ・・・・・・
他も大変だろうが、解体作業はなぁ・・・・・・
建物とか何かの道具、設備の解体とかならそこまで嫌悪感を抱かないが、殺した魔物を解体するとなると・・・・・・ちょっとね。
血だの内蔵だのグロいのが色々出るだろうし。
内臓の中には排泄物が詰まってたりするだろうしなぁ・・・・・・
都会育ちで切り分けられてパックに入った肉と魚しか扱ったことがない俺にはちょっとハードルが高い。
技術的にも心情的にも。
でも多分やる必要に迫られると思うんだ。
これの苦労はしたくない。して覚えたくない。スキルを買って済むならそれが良い。
なので率先して手にいれておきたい。
なので決まりで良い。
〝解体〟のスキルをもらう事を決めたら次。
戦闘系スキルから短剣術だ。
これは単純に 解体 = 短剣 という思考である。
〝初心者向け装備セット〟を買うのは決まっているが、何をもらえるかは分からない。
魔物相手にナイフでなんぞ戦いたくないが、これなら短剣をもらえたならスキルが無駄にならない。
仮にもらえたのが長物なら大歓迎だ。どんな武器だったとしても解体をレベル1に上げるよりかは頑張れると思う。いや、頑張る。
あとは理由としては魔法に偏りたくないという考えもある。
〝影魔法〟は確定なので、〝杖術〟という選択肢もありだと思った。
だが魔法特化にするのはどうも引っかかる。
満遍なく素養を買えるんだから中途半端な特化よりかは、やっぱり器用貧乏でも万能寄りにするべきだと思う。
各項目から2スキルじゃ、拘ろうとしても限度がある。補助スキルが結構多かったし。特に魔法スキルは。
って事は現状結局はなんちゃって止まりだろう。
向こうがどんな状況かが分からない以上、パーティを組めるとは限らない。
そんな状況も考えておくべきだろう。
となると魔法スキルも方向性が決まって来る。
もう一つ〝手札〟を持つという考え方で他の魔法を買う事も出来るが、今の状況なら補助スキルで良い。ソロで活動する場合を考えると〝出〟が早くなる補助スキルが欲しい。
独りなのにタラタラ詠唱している時間は無い。
となると〝詠唱時間短縮〟か〝高速詠唱〟のスキルの二択になる。
そして今回諦めた方のスキルはあっちで取得する、という前提で考えると〝詠唱時間短縮〟だろう。
理由はどうやって練習したら良いか分からないからだ。
対して〝高速詠唱〟なら・・・・・・・ まぁ、早口言葉でも練習してみるさ。
これで魔法系スキルは二つ決まり。チェックしてレ点を入れる。
うん、サクサク進んで来た。このままの勢いで戦闘系スキルも決めてしまおう。
こっちも強化補助スキルが欲しい。
向こうに行って訓練しにくい、という要素で選ぶと〝速度系〟の強化スキルだと思う。
短剣とも相性が良い筈。
多分走れば良いんだろけど、ただ闇雲に走って鍛えると持久力の方が鍛えられる可能性がある。
速度や速さの強化方法なんてあるのだろうか? これはある程度才能だと思う。だから選ぶならコレが良い。
・・・・・・んだけど、ここは〝攻撃力向上〟スキルかな。
〝一週間に一度魔物を殺さなきゃならない〟という縛りが引っかかる。
それさえ無ければ〝速度〟が早くなる系統のスキルから選びたい。
のだが、いざという時を考えると攻撃に威力が欲しい。
〝倒す〟のが〝縛り〟だからね。
そしてこのスキルもあっちで鍛え方分からないという理由もある。
筋力強化で覚えられるなら後回しでも良いのだが、筋力アップスキルは別にある。となると別の方向性の可能性が高い。
魔法系スキルは出の速さを選んだんだから、戦闘系スキルはある程度仕留められる威力が欲しい。
魔法で牽制、短剣でトドメ。みたいな感じで行こう。
最も俺は別に短剣をメインに戦いたい訳じゃないが。
出来ればリーチの長い武器が欲しい。それが本音だ。
だが武器は金稼いだら、別に買えば良いだけの話。
その時にこっちのスキルなら流用出来るだろう。
その時に買う武器によっては〝速度系〟のスキルは生きない可能性がある。
持つと速度を殺す武器なんていくらでも思い浮かぶ。初期の所持スキルは潰しの利くスキルの方が良いだろう。
うん、迷っている時間は無い。これもレ点を入れて決める。
さて最後の一つだ。生活系のスキルからもう一つを決めよう。
これは〝幸運〟のスキルにする。
実は最初から決めていた。
運なんて一番鍛えようがないからだ。取得方法もさっぱり見当がつかない。
婆さん女神の言動から考えるに、素養があると結構有利になるような予感がある。
でなければ全素養を取らせる意味もないし。
そこに期待して取得方法の分かるスキルはあっちで取得する方向で考える。
努力をするさ。二度目の人生だもん、必死でやる。
そして考えた結果取捨選択をハッキリする事にした。
名前を見るに訓練次第、努力次第で取れそうなスキルも多い。それは後回しで良い。
この先はジタバタしないと決めた。死んだらそこまでと諦める。
でもだからこそちゃんと努力をしよう。生きる為に精一杯足掻く。藻掻く。
そしてその分は、いやその倍は人生を楽しもう。
何を楽しむかは向こうに行ってからだが、俺だって人並みの欲求はある。
平和な日本だから押さえていた欲求もある。
社会人だからこそ我慢していた欲求もある。
人の道を外れようとは思わないが、それなりに自分に正直に生きたいと思う。
多少なら外れても良いんじゃないだろうか。その為には強さが絶対に要る。
きっとそれに役立つのが〝素養〟だろうと俺の直感が言っている。
全部取れたのは老婆の女神のおかげだけど。
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