第36話 空間魔法


 「ルーム」から外に出ると、辺りには肉の焼ける匂いが立ち込めていた。

ホーンラビットを焼いて食べているところのようだ。

店を確定しないと外に出れなかった為、その後システムさんが拡張されていた為、その確認でちょっと手間取り時間を食った。

待たせてしまって申し訳ない。


「すいません。大分お待たせしてしまったようで、申し訳ないです」


「ふえふえ(いえいえ)ふぁいじょーふふぇすよ(大丈夫ですよ)」


 昨晩と変わらず食べながら喋る様子を見て、魔力が多いのも大変だなと思う。

俺が仕留めたホーンラビットには手を付けておらず、丸のままで一匹が。先に練習した二匹が布の上に並べておいてあった。

その横で追加で仕留めたであろうホーンラビットをレイシュアさんが解体しており、視線を向けると目が合ったので頭を下げて詫びると気にするなと目で返してくる。


(見た目は怖いけどこーゆーとこは面倒見が良い人だよな)


 仲間の為に面倒な作業を率先して行っている姿は好感が持てる。


「あら、コウヨウ。戻って来たのね」


 解体の練習がてら手伝おうとした所を、追加でホーンラビットを仕留めて戻って来たクレアさんに声を掛けられた。

(この三人って仲が良いよな)と感じ、自分にもいつかそんな風に思える仲間が出来るのだろうか、なんて考えてしまう。

 なお解体の練習は断られた。顎であちらと話せと促された。


「ふぉっれではふぇふふぇいふぉふぉふぇふぁいふふぁふ」


「・・・・・・説明はしますが、その前に食べちゃいましょうよ。何言っているか分かりません」


 多分説明しろ、だという事だけは分かった。苦笑いが浮かんで答える。

思ったよりもあっけらかんとしてると感じていた。


「サトッカは食べながら聞いてなさいな。コウヨウ、あれは『空間魔法』だったわよね? どこに飛ばされたかは分かる? 大丈夫だったの? 怪我はない?」


「どこに行ったかは分かりません。ですが危険は無い所でした。自分では分からなかったんですが、やっぱりあれは『空間魔法』何ですか?」


「危険はないのね? サトッカが調べたわ、間違いなく『空間魔法』の一種だって。

でもあなたでなく、別の何かの力を感じるらしいわ。昨日言ってた村の呪いって言ってたのが関係しているの?」


「なるほど。そんなことまで分かるんですね。凄いです。

危険はないみたいですが、。詳しい事は分かりませんでした。戻り方が分からずに手間取ってました、すいません」


 細かい説明書きはあったのだが、それを全部馬鹿正直に話すのはどうかと思っている。

当面は予定通り「よく分かりませんでした」作戦で通すつもりだ。

そりゃー何かっていうか、何者かだろうね。この世界の神さまの仕業だし。


そんな事より『空間魔法』が気になる。


「その空間魔法ってのは割と使い手の多い魔法なんですか? 俺も使えそうですかね?」


「そんな訳ないじゃない。魔力量が多く無いと扱えないと言われている魔法よ。使えるのなんて万人に一人とかそれくらいだわ。

使えそうかって、コウヨウ? あなた今作動させたのよね?」


「いえ、それが自由に使えるモノでは無いみたいです。もう一度やれと言われても、ちょっと困ります」


 これは嘘ではない。利用するには日本円が要る。

今日を含めて七日間は無料のようだが、使用条件を試しに変えてみた。なのでもうこの場では入れない。

設定できる使用条件は2つ。


・四方十メートルに壁などの障害物がない空間。

・四方十メートル以内を壁で囲まれている空間。


 前者だった設定を後者に変えてから出て来た。

次は誰もいないタイミング。一人で部屋にいる時に試してみるつもりだ。


 だから『ルーム』は『空間魔法』としてはノーカウントだろう。

この世界の人間には利用できないみたいだしな。

敢えて違うと言って顔を潰す必要は無いが、ルームを空間魔法として考えてはいけないと思う。

クレアさんは顎に手を当てて「そう」と小さく呟いた。


「空間魔法に興味があるですか?」


 ゴクンと音を立てて兎肉を飲み込んで、サトッカさんが言う。

焚き火の周りに串を刺して立てて焼いている。これは料理とは呼び難い。

真似だけならすぐにでも出来そうだが、上手に焼けるかはまた別の話だ。


 フフフ。すぐにでも、というのは火を起こす手段を手に入れたからこそ言える言葉。

百円ライターを買ってある。

火を起こす手段、ゲットだぜ!

ホーンラビットは狩れる。解体も出来る。

そして食卓塩も買ってある。

最悪野宿になっても飯が食えれば、すぐには死なないだろう。

生存率、アップだぜ!


 だがそれは置いといて空間魔法だ。


「なんか凄そうじゃないですか。興味はあります」


「有名なのは『空間収納』よ」


「というか使える奴がいてもまず『空間収納』だけだぞ」


 エルフと鬼が短く答える。

 ふむ、空間収納か。有名どころキターーーって感じだね。

だが初めて聞く、みたいなニュアンスで聞いて見る。


「響き的に何も無い空間から物を出し入れする魔法ですか?」


「そうだな、こんな感じだ」


 解体したホーンラビットの肉を空間に押し込みながらレイシュアさんが言う。


「こんな感じよ」


 手に持っていた弓を空間に消しながらクレアさんが言った。

そういやこの人、俺がルームに行く前は弓なんて持って無かったな。


「ふぉうふぇふ」


何と言ってるかわからないままサトッカさんが、食べ終わった串をポイポイと空間に放り込んでいく。

この短時間で何本食ってるねん。

つーか空間収納というよりもゴミ箱扱いじゃないかい!!


 って言うか三人とも使えるのかよ。

万人に一人って言って無かったか?

さすが人外ズ。規格外だぜ。

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