第37話 空間収納


駄目だとは思うが、試してみたくなった。


「ちょっと手を突っ込ませてもらって良いですか? 閉じた後で良いので」


「んー、やるのは構いませんが、人の空間収納には干渉できないですよ?」


 とサトッカさんは言う。でも


「出来ないって経験も大事だと思うんです。一回だけお願いします」


「そうですかね? では私のでどうぞです。今閉じたので、感覚が残っているとしたらこの辺ですね」


 サトッカさんが座っている位置の少し前の空間、先ほど串を放り込んでいたあたりをまさぐる。

すると小さく、だが確かに、何か変な感覚が俺の感覚に引っかかるのが分かった。

何だコレ?


「っ!!」


 触れないんだが触っている。

説明するのも難しいんだが、無いけれど有るもの、それを必死に触ろうと手を動かす。

するとサトッカさんの身体がピクりと反応した。


「ちょっ、何か、何か変な感じがあるですよ」


「えっ、まさか使えそうなの? あなたの空間収納を?」


「いえ、それは無理だと思うです。ですが、近くに来てる、そんな感じは・・・・・・あるですね」


 ふむふむ。俺が空中で手を動かす。

何も無いのだが、時々ちょっと手応えがある。

勿論何かに触れていたりはしないのだが、経験した事の無い不思議な感覚だ。

上手く説明する言葉は見つからない。だがある。そう、この辺の・・・・・・もうちょい上のあたりに引っかかりが


「あっ、これ、ですかね?」


 何となくコツが分かった気がする。人差し指と中指の先に空間がある感覚を感じる。

そこを突くとサトッカさんが少し身じろぎする。

なんかえっちぃな。

ワザとじゃないよ? でもこれも訓練だと思うんだ。ツンツン。


「これは駄目ですよ。痛くもかゆくもないですが、何かむずがゆいです。ぞわぞわするです、もう終わりにするですよ」


 見た目幼女が身じろぎする様はなかなかだったが、残酷にも中止を言い伝えられてしまう。

どうやら魔力の残滓とやらは自分では消せないらしい。

感覚的にそろそろ消えそうではあったが。消えるまで試してみたかった。


「本当に? 偶然とかじゃなく?

他人の空間収納に干渉出来るなんて話はエルフの中でも聞いた事がないわよ?」


 そんなクレアの空間収納にも試させてもらったのだが、二度三度突っついた所で魔力の残滓を感じなくなった。感覚的に残滓とやらが消えたっぽい。残念。

だが美人が身じろぎする絵は良いですね。芸術だと思います。

ジト目で睨まれたけど。

やめてくださいよ、癖になるじゃないですかその眼。俺は悪くない。実験ですから。


 今度はレイシュアさんが空間収納を使い直してみて、それを消した所に手を突っ込む事になった。

結果、手を突っ込んで見た瞬間、二メートルを超える筋肉鬼人がピクンと身体を震わせた。

いや、入らなかったけどね。何かに触れた感覚はあった。しっかり干渉したらしい。

俺とレイシュアさんが、向き合っていたら、BLチックな絵になって危なかったぜ。


「・・・・・・出来てるな」

「出来ていた・・・・・・わよね?」

「なんか・・・・・・出来てたんですよ」


 その後にティルナノーグのお三方がそれぞれの空間収納に干渉出来るか試してみたが、さっぱり分からなかったらしい。俺の時と違って消さず、残したままで試してみたが上手く出来なかった。

 なので最後にもう一周、三人の空間収納を消さずに試してみる事になった。


「うん、分かる。分かりますね。ここに何か・・・・・・あります」


 出入口を開いていると分かりやすい。

そこで俺の手が何かに阻まれてそれ以上進めなくなるのだ。

他の三人がやってもそんな事にはならなかった。素通りしただけだ。


「さすがに人の空間収納を開けたりは出来ないみたいです。ですがこれはコウヨウくんには空間収納の才能がある、と見て良いんじゃないかと思うですよ」


 才能かぁ。心当たりがありすぎる。

『空間魔法』スキルはリストにあった。それはつまり、素養を持っているという事である。


 ただ『空間魔法』は単独ではレベル1を取得出来なかったスキルでもある。

老婆の女神が言う所の前提がいる、他のスキルを取らなければならない筈だ。


これも確認が必要だろう。

三人が『空間収納』を持っているという事は、三人が持っている『スキル』の中にあるスキルが前提スキルだ。

さすがに根掘り葉掘り聞くのは嫌がられるだろう。

会話にかこつけて、少しづつ引き出すしかないか。

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