第38話 二日目 清算


 コウヨウ一行は採取した素材の買い取りをしてもらうため、冒険者ギルドに来ていた。

夕暮れには早い時間だが、ギルドの受付はどこも混んでいたので、相変わらず暇そうにしていた強面の受付職員ゴンザレスに依頼した。


「おう、待たせたな。買取金額が出たぜ。

コウのあんちゃんは初日って事でちょっとサービスして280ゼニーってところだな」


 この世界の通貨の単位はゼニーと言う。

本来薬草だけは冒険者ギルドで貸出している採取用のカゴで提出する事になっている。

だが本日の成果は全て、エルフのクレアの空間収納に入れて持って帰って来た為に受付で移し替えた。

カゴで提出するのは採取した分量もギルドの査定の結果に影響するからだ。

売り値、では無く冒険者の査定に響く。


 今後コウヨウが一人で採取に行く際は、行く前にこのカゴを借りに来てから採取に向かう事になるのだが、本日分はカゴの半分くらいになっていた。

 言われた280ゼニーという言葉にコウヨウが考え込む。


(相場が分からねぇ・・・・・・ 多分大した額じゃないんだろうけど)


「おーい、あんちゃん? わかったか?」


「あぁ、うん。薬草の採取のみで稼ぐのが大変なんだろうなって事はよく分かったよ」


 薬草のみでの買い取り額はあまり高くはならない。

原料をそのまま売る、というのは元の世界でもあまり利益が出ない、これはコウヨウにも分かっていた。

だからティルナ・ノーグの三人の提案した回復ポーションの作成に興味を持った。


「金額に不満がある訳じゃないんだけど、後学の為に一応内訳を教えてもらえる?」


 今日の成果としてまとめて提出しているので、総額で言われても判断に困っていた。

とは言ってもそこまで種類を多く無いのだが。聞かなければ詳細は分からない。


「おう、まずホーンラビットな。こいつは大量に出回ってるからあんまり高く買い取れねぇんだよ。解体も甘ぇしな」


 肉と皮、角と魔石を合わせて一匹20~25ゼニー程度だった。

肉は食用として多数出回っており、その影響で皮と角も大量に産出されている。値段が安いのは仕方が無い。

上手く解体が出来たとしても30ゼニー程にしかならない。

 今日の分はあくまでも相場を知る為に出しただけで、今後一人で行くようになれば肉は自分の食事になる皮算用だ。

その分収入は下がる。


 魔石とは魔物の持っている核のような存在で、これが体内に存在すると扱いは魔物となり、なければ扱いは動物になる。弱い魔物は魔石も小さい。ホーンラビットの魔石は最小の扱いでの買い取りだった。

 ホーンラビットを狩れれば飢えないが、金は稼げない。


「んで薬草だがこっちも採取が甘いぜあんちゃん。初めてだから取り方が荒いんで、どれも下限での買い取り額になってるな。初日にしては数は悪くないから、もうちょっと落ち着いて丁寧に、だな」


 こちらもまた駄目だしだった。

コウヨウが言い訳をするとすれば、ティルナノーグの三人が横でうるさいからだ、と言うだろう。

勿論、この場でそんな事は言わないが。

「もっと丁寧に扱いなさい」

は、採取中にも散々言われていた。

 その言葉を意識して、真剣に取り組んでいる時に他の二人が

「こっちにもあるです」「ここにもだ早くしろ」

なんて声が掛かれば誰だって焦る。コウヨウは酷く焦った。


 先ずは薬草の種類と採取部位を覚えるのが先だった。

なのに教えたがりの三人に振り回されてしまい、集中出来なかった。

 代わりに三人が次々と薬草を見つけてくれるので数だけはそこそこの数をこなせたのだが雑になった事は自覚していた。

コウヨウとしては先に教えるのは見つけ方にして欲しかったのが本音だ。だがそっちの指導はさっぱりだった。

やはり過保護だと思いつつもその場では何も言わなかった。

教える者には時には厳しさが必要だ。

だがその厳しさ加減がティルナ・ノーグの三人には難しい。


 (どちらにしろそのうち一人で動くようになる。その時は薬草を見つけるところからになる。採取量は減るだろうから、しばらくは稼げなそうだ。

ただ慣れればもう少し、という希望はあるな。絶対出来ないって事はない。何度かやれば覚えられる数だ)


 本日教わった薬草の種類は五種類だった。必要部位はそれぞれで

葉のみ、茎と葉が二種類、若い茎のみ、蕾と葉と、少しづつ必要部分が違うのが厄介だった。

初日なので一種類か二種類だけ教えてくれれば良いと思ったコウヨウが、そう伝えた所 「自分たちも現役の冒険者なのでいつ仕事が入るか分からない」から駄目だと返された。

 Ⅽランクくらいになると、ギルドから依頼される仕事も増える。

当人たちは休みたいと思っても、冒険者ギルドとしては遊んでいて欲しくないのが本音だ。

勿論仕事をしない期間が長くなればランクが下がる。

何よりも働かなければ収入が無い。

それは高ランクだろうが、低ランクだろうが変わらない。


 なので教えられる時に教えておく、という流れになった。

そう言われてしまえばコウヨウも仕方が無いと納得する。

タイミングを逃して延び延びになるなんて話は、前世でも別に珍しくないからだ。


 売れた値段は 葉 < 茎 < 蕾 という感じになった。

もちろん状態と流通量によって変わる。

葉は一番使用量が多いが、その分単価は安い。代わりに安定して買取が出ている。

茎単独の物は別用途に使う。だがそこまでは数は必要無い。だが状態と品質が良ければ需要はある。

教えられた蕾は見つけたら確実に取るようにとゴンザレスにも言われる程度には需要がある。

需要はあるが、その分あまり数は採れないモノだ。

採れた今日は運が良く、だがその分採取が雑で品質が悪いとも言われてしまった。

茎と蕾は状態が良ければ確実に売れるが、悪ければ買い取れないそうだ。


「今日はおまけで買い取るように頼んどいたけど、次からはもうちょっと丁寧に頼むぞあんちゃん。

でねぇと買い取れないからよ」


「わかった。気を付けるよ」


 採取に関しては慣れと、意識して丁寧に取るしか上達の道がない。

だがコウヨウは種類の見分けに関しては大丈夫だという自信があった。

 スマートフォンを持って転生していたからだ。

これはコウヨウにとって幸いだった。

三人に振り回される合間をぬって、こっそり写真を何枚か撮っていた。

流石に電波は入らないが、カメラが付いているので記憶媒体としてはこれ以上なく優秀だ。

ただ問題点もある。充電が出来ない。

なので電池の残量が無くなるまでに、必ず覚えなければならない。


「ま、何の仕事でも最初がきついのは一緒だからよ。あんちゃんは教えてくれる奴がいるんだし、踏ん張らねーとな」


 ゴンザレスが言う。

確かにその通りだとコウヨウは思う。他の連中より恵まれているだろう。頑張ろう、と。

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