第114話 コップの中の嵐 ⑥
チームジャパンの連中は最初、
『レベル上げを手伝ったら、次は自分たちが代わりに手伝う』
と言って他の日本人に手伝いを求めた。
だがそれは初回で反故にした。
その癖に次は
『自分たちはレベル上げを先行して情報を集めている』
と言いだす始末だった。そして
『その情報を聞きたければ、レベル上げを手伝え』
というのが現在進行中のやりくちだ。
これが意外と、皆気になるものらしい。
俺の様に『ゴヘイがいる集団は胡散臭い、信用出来ないから話なんて聞かない』と考える奴は少数派らしい。似たような考えをするのはリサリサくらいだ。
他は大なり小なり差はあるが、気にしている。
俺はそもそも聞いても、信じないし鵜呑みにしない。必ず確認を取る。
例えそれが誰の話でもだ。
俺と付き合いのある連中は俺の手前、引っ掛からないだろう。
だが、知り合いが引っ掛からないかを心配していた。
そして、最初に騙された連中の事も気にしてた。
だから副支部長の命令を守るついでに『じゃーその手札も潰しとく』事にした。
これが治療を引き受けた理由だったんだが・・・・・
奴らの出して来た情報なんて俺たち視点で纏めると、
・ベースレベル10でもう一つ契約店舗が増える。
・レベルが上がると経験値が入り辛くなる。
これだけだ。二行で済む程度のものだ。
特に後半を勿体ぶって喋っていたが、それでも数分で話し終わる程度の内容だった。
体感的な物言いだったので、おそらく数字化して見れていない。
レベルが上がりにくくなる事を感じていたようだが、それを大発見したかのような切り口で語っていただけだ。きちんと把握して無い事が分かる。
俺たちは既に確認が終わっている内容だ。なのであんまり意味のない情報だった。
レベル8になったアオバたちが確認したところ、でゴブリンの経験値は八割程度に減り、ボーンラビットは完全にゼロになっていたらしい。
そりゃゴブリン狩りなんて人気の無い仕事、先輩冒険者は積極的にやらないだろう。集落が出来るまで放置されると納得した。
多分レベル10になるともっと下がるのだろうし、上がればさらに減るだろう。
チームジャパンの連中は現在全員ベースレベル13だと言う。
それが本当なら、多分もうゴブリンなんか狩っても殆ど経験値が入らないんじゃないかと思う。
それでもまだゴブリンを狩ってるらしいが。
他の魔物の情報が無いか、遠出するのが嫌かのどちらかだろう。
足を怪我したメンバーがいたしな。
レベル上げが停滞してるのに、実に間抜けな話だ。
話させた事で色々確認は出来たが、結局のところ奴らは確認不足だろう。手分けして調べたりしないんだろう。
そんなショボい内容だったので、奴らが情報提供を終えた後に一度、かなり険悪な雰囲気になった。
参加している日本人は二十五人。
今日はダリーシタの街にいると思われる日本人が全員揃っている。
単独の俺。
アオバたちのパーティ +4 = 5
サユリサござる +3 = 8
チームジャパン +4 = 12
サクマのパーティ +4 = 16
道明寺グループ +4 = 20
となる。
ここにサクマのパーティを追放されたシラトリがいて +1 で 21人。
残るは四人。
この四人に名前を付けるなら、チーム泣き寝入り。
もしくはチームジャパン、被害者の会と言った所だろう。
最初の条件に騙されて、レベル上げを手伝った四人だ。
その四人が、今回は泣き寝入りしなかった。
話し終わったチームジャパンに、食って掛かった。
「また騙そうとしやがったな!」と。
懲りないチームジャパンは、最初の手伝い以降も、その四人にも手伝うように言い続けていたらしい。
彼らはずっと拒否していたようだが今回話を聞いて、その代償のあまりのショボさにトサカに来たのだろう。
もしくは人がいっぱいいて、強気になったか。
それに対してチームジャパンは開き直った。
「チッ、いまさらグダグダ言ってんじゃねーじゃんよ。別に重大な秘密があるとか俺ちゃんたち言ってねぇし。勝手に勘違いしたのはお前らじゃんか」
「ほんとでんな。如何に装飾して語るか、相手に聞かせたいと思わせるか。情報戦とはそういうもんやで。ワテらが上手かった、それだけやろ」
騙された方が悪い。そう言って。
これにレベル上げを手伝えと言われていた殆どの者も怒った。
場は一瞬で騒然となる。
俺以外で。
ま、俺は『手伝え』とは言われてないからね。そもそも接点がなかったし。
聞くまでもなく、内容がショボいだろうともわかっていた。あんなの相手にするからそうなる、としか思えない。
一瞬即発の雰囲気の中、一人だけシラっとしている普段真っ先に暴れだす奴。
そんな俺に気づいた数人に声をかけられたので、条件のその②を持ち出して収めたんだが。
そこで話を振られなければ、そのまま袋叩きにしたとしても黙って見ているつもりだった。
別口の副支部長の件は微妙になっただろうけど。それならそれで構わない。
それでも目的は達成できた訳だし。副支部長にもそのまま報告するだけだ。
最も治療をすることになってしまった訳だが、それでも少なくともチームジャパンの信用は落とせた。なのでこれでも現状上手くいっていると考えている。
再び問題が起きて会話が止まる。その中で今日は終わりだと告げると、チームジャパンが騒ぎ出した。
解散と言っても帰ってくれないと終わらないから困る。
「ちょっと待ってくだはれ。ワテらが約束を破った訳じゃありまへんで? これで治療が終わりなんてあんまりや」
「そこを踏まえて全員の承諾を取るように言ったんだから、お前らの責任だよ。
それもよりによってタカノらのグループじゃんか。何度も一緒になってアポ無しで訪ねて来たくせに、自分らとは関係無いとかどの口が言ってんだよ。
それに俺はちゃんと条件に入れてやっただろ。聞いたら内容に納得いかなくても治療には参加するように、って。だから一度は収めて治療に進めてやった、そうだったよね?」
俺はそう言ってチーム泣き寝入りの四人に向けて話を振った。
「・・・・・・えぇ、そうでしたね」
酷く不服そうにショートボブの女性が答え、他の三人も頷いた。
チーム泣き寝入りは男女二名ずつの四人組だ。チームジャパンに騙されて以降も四人で行動しているらしい。
このチーム泣き寝入り、全員が魔法使い系の装備をもらっているが、内二名が回復魔法を使えるらしい。
その二人はエルフなんでバランス寄りのスキル取りなんだろう。
故に条件①を満たして参加している。一周目の治療にもちゃんと参加していた。かなり渋々な態度だったが。
だからこそ尚更、ここで治療出来ない奴が現れたのは問題だ。
四人共既に、もらったマジシャンコートがボロボロになり、破れた所から傷痕が覗かせている。
回復魔法を使える者がいるのに痕になっている、という事は魔力不足で治せなかったか、それで治せる程度をはるかに超えていたか、だ。
特に一人の男性が酷い、右半身の顔から腕にかけて火傷の痕が広がっている。
最初に会った時にはこんな怪我の奴はいなかった。
こちらに転生したときに古傷の類は治ったからだ。なので間違いなくこちらに来てからの傷。
正直よく参加してると思う。前回も一緒に来ていたし、付き合いが良いのか、人が良いのか。もしくは頭が・・・・・・・なんてな。
「そちらはどうなの? 俺たち帰った後に、引き続き治療してやるのかどうか? やらないなら同時引き上げたほうが良い、色々騒ぐ奴がいて面倒くさいと思うよ」
「どうする?」「俺はここにいたくない」「なら帰った方が」「でも、それも」
顔を見合わせて悩み始めたチーム泣き寝入り。
そんなんだから騙されたんだろうよ。はっきりしろよな。
ほっといて帰っちゃおうかな?
悪態を吐きながら異世界で キトラ @kaito666kitora
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