第21話 冒険者ギルド ① ゴンザレス
紆余曲折あったが何とか冒険者ギルドに到着し、登録申請を出す事が出来た。
俺たちが申し込んだ事で今日の分は終わりになったらしい。
・・・・・・ギリギリだったじゃねぇか。くそが!
マジで危ねぇ。油断してると何があるか分かったもんじゃねぇ。
さっき会った鬼とエルフに感謝だ。
羊皮紙の申請書を受付に渡すと、その内容を口頭で簡単に確認された。
書かれた内容を読み上げられ、それに対し「イエス」と答えるだけの簡単なお仕事だった。
なのに抽冬が納得いかない事があったらしく口答えをしたので何度か止まった、が何とか終わった。
別でやってくれないかな~と思ったが駄目らしく、一緒に手続きをさせられた、残念。
これで一つ分かった事がある。出身地だ。
俺たちの出は『ニフォン村』という事になっていた。
少しは捻れよこっちの神様。覚えやすくて良くはあるけど。
書いてない事も聞かれたようだが大半は何が出来るかとか、人を殺した事はあるか、みたいな無難に答えれば問題は無い質問だった。
次いで髪の毛と血液を少し取られた。
親指に針を刺し、垂らさせられた。良く分からない謎物体に。
恐らく魔法物体なのだろうから考えても無駄だろう。
まっ、異世界あるあるだ。
なのにこれも抽冬が、タカノにそんな事させられないと喚きだして一度止まった。
他の三人が説得して引いたけど。
指を切ったことぐらいタカノだってあるだろうに、と思って冷めた目で見ていたつもりだったが、どうも声に出していたらしく、ここで抽冬が俺に突っかかって来て一揉め。
それについて冒険者ギルドの職員さんに怒られた。
俺のせいじゃねぇのに・・・・・・俺も怒られた、解せぬ。
という事があったが、何とか登録申請は完了。
「ではこれで申請は受付ました。次は説明を行いますので、鐘がなったら訓練所に行ってください」
と言われて解散。鐘が鳴るまでは自由行動になった。
というのも
「コウくんは一言余計だと思う」
と道明寺さんに責められたからだ。
向こうから見ると、そう見えるらしい。俺から見れば面倒なのは抽冬なんだけどね。
そりゃーまぁ、あっちにしたら何時もの事なんだろう。
俺からしたらいちいち手を止め足を止めをされるのは止めて欲しい。サクサク進めたい。
コレをこのままはっきり伝えると、ちょっと驚いた顔になった道明寺さんと険悪な雰囲気になりかけた。
そこを旦那のスズシロくんが「一度冷静になろう」と提案して今に至る。
なんかこれだと俺が悪いみたいで腹が立つんだがな。
最も後は訓練所で説明を受ければ終わりらしいのでもう遠慮はしない事にした。
結局あちらの言い分は『こっちが決めた事に従って黙って着いて来い』である事は確かな訳で。
どんなに言葉で装飾しようと、結局本音はそこなのだ。
何にせよ自由になったのは確かだ。
このタイミングで今後の自分の身の振り方を、せめて方向性だけでも決めたい。
なので色々聞いて見ようと思います。
新しい町に行ったら村人に話しかけるのはロープレの基本です。
なので冒険者ギルド内を探索しつつ、暇そうな奴に話しかけてみようと思います。
冒険者ギルドの内部を見渡すとはい、第一村人ならぬ第一冒険者ギルド職員発見。
最も来て早々に新人登録受付窓口に申し込んで、そこで職員と話しているがそれはノーカウントだ。
一人で動いて最初の出会いと言う事です。
ちなみに建物内に人は沢山いた。いたが話しかけられそうな人は彼しかいなかった。
第一村人、人相が悪いです。とても威圧感があります。
綺麗に剃り上げたスキンヘッドで、天井光が反射しております。
その反射した頭には大きな傷が。
口ひげを生やし、目つきは鋭く、体躯は百八十センチある俺よりも一回り大きく。
おまけにこいつも筋肉隆々であります。
ライオンの獣人族のレオン、鬼人族のレイシュアさんと来て第一村人まで俺よりデカイとか、こっちの世界の人間はみんなデッカイのだろうか?
そんな事は無いだろうけど。
何しろその彼は受付カウンターと呼ばれる場所の内部にいるのだが、彼の前にだけ人がいない。
他のカウンターはどこも賑わっている、何てところを見るとどうもね。
自分と同じ、ぼっちの匂いを感じる。
「こんにちは職員さん。今日登録に来た新人なんですが少しお話を聞いても良いですか?」
「おう、あんちゃん。今日登録か、これからよろしくな。
俺はゴンザレスって言うんだ。そんなに丁寧に話さなくて良いぜ、俺は冒険者上がりだからよ、丁寧に話されると、なーんかむず痒いんだよ。慣れなくてな。
さては説明会まで暇なんだな? 見ての通り俺の所にゃあんまり人が来ないからよ、何でも聞いてくれや。鐘がなるまで付き合うぜ」
どうやら人気が無い事を自覚しているらしい。
そりゃーそうなんだろうけどね。今日来たばっかりの新人の俺にも理由は分かる。
「みんな女性で、お綺麗な方ばっかりですもんね」
凄いぜ冒険者ギルド。受付嬢マジで美人揃いだ。こりゃ顔採用だな。
だがそんな中で、何でいかついおっさんが受付をやっているのかって話になるんだが。
「俺も現役の時はそっちの方が良かったからな、そりゃー気持ちは分かる。けどな、経験者だから出来るアドバイスってもんがあるじゃねーか? そーゆーのを生かしたくてこの仕事をやってるんだがなかなかな。上手くいかないもんだ。あんちゃんは登録終わってもたまには俺のとこ来てくれよな?」
「はははっ、自分は色んな人と話して、色んな角度からのアドバイスをもらいたいと思っているので色々行ってみたいと思ってますが、ゴンザレスさんの所にも顔は出すと約束はしますよ」
いつも来るとは言わないけどね。たまには顔は出してやろうとは思う。
「ブハハハッ、変わったあんちゃんだぜ。大概は俺の事見ると怖がるんだがなっ、意外と大物になるかも知れねぇ。名前を聞いといていいかい?」
「あっ、はい。名乗らず失礼しました。『アキノ』で登録しましたので今後よろしくお願いします」
申し込みをした時に決める事がいくつかあった。
その中の一つが冒険者ネームだ。冒険者としての呼び名を決めろと言われた。
確認した所、金を払えば変更出来るという話だったのでとりあえず『アキノ』で登録しておいた。
理由としては一緒にいた四人に、特に他人行儀に苗字で呼んでもらいたいからだ。
別に名乗りたい名前も無かった。
「ははっ、だからそんな畏まらなくて良いって。こっちはこんなんでしか話せないからな。アキノのあんちゃんと呼ばせてもらうぜ。あんちゃんも俺の事は『ゴンザレス』でいいからよ」
「ふむ、了解です。そう言うならそうしま、そうするよ。
とは言え慣れるまでは丁寧語と混じると思う、けど気にしないで欲しい」
「あぁ、たまには話し相手にでもなってくれや。あんちゃんは俺の事怖くないみたいだしな。そんな奴が今回の登録でもうちっとだけ増えると良いんだが」
「あー。でも俺はさっき、もっと怖い顔の人に話しかけられたからかもなぁ。
鬼人族の人。地元に鬼人族はいなかったから新鮮だったよ。『ティルナ・ノーグ』って言ってたけど知ってま、るかな?」
「あー『レイシュア』か。鬼人族は希少な種族だしな、なかなかいないだろうな。なんかあったのか?」
おっと、名前を出して無いのにすぐ誰だか推測された。
と言う事はかなり有名人なのか? これは少し探っておいたほうが良いんじゃないだろうか。
「いや、早く登録しに行かないと明日に回されるぞって教えてくれたんですよ。おかげでギリギリ間に合って今日受けれます、じゃない受けられる。おかげで助かったよ。っていうかパーティ名だけで知ってるって事はやっぱり有名なんだ? かなり強い方なんですか?」
「強いっちゃ強いだろうな。かなり強いっていうか『ティルナ・ノーグ』はこの街じゃ五本の指どころか三本の指に確実に入るぜ?」
「あれ? Cランクって言ってたけど、それってかなり高ランクなの?」
「いや、Cじゃ中堅の・・・・・・上の方くらいだな。俺も引退したときにゃAランクだったし、この街にもAランクは何パーティかいるぜ。だがあいつらはそれと比べても滅茶苦茶強いぜ」
言ってる事が支離滅裂だ。
Cランクは中堅の上くらい。特に高いランクでもない。だが有名で。Aランクと比べても強い。
「ランクっていくつあるの?」
「これから説明会で教わるんだけどな。まぁ先に教えとくと、登録したらあんちゃんらはGランクになる。これは見習いって扱いだ。
ある程度任務をこなして正式な冒険者と認められるとFランクに上がる。
で、E、D、C、B、Aと上がって行ってその上にSがあるが今は活動してる奴はあんまいねぇな。国のお偉いさんとか宗教団体のトップとかだ」
GFEDと指を折りながら数える。Sを入れなきゃ七段階、Sを入れると八段階か。
となるとCは真ん中よりは全然上だ。
「Sランクってひょっとして、活動はしないけど箔付けが必要な人向けってこと?」
これは前世でもたまにある。名誉十段って奴だ。
格闘技とかで新団体を作ると、顧問とか相談役に政治家や地元の有力者の名前を貸り、代わりに黒帯と十段を送る。実際に試合に出たり稽古をしたりは一切しない。本当に名前だけだ。
「はっはっは、そういった事は聞かない方が良かったりするもんだぜ、あんちゃん」
ビンゴだろう。ってことはつまり冒険者ギルドってのも完全な実力主義って訳ではない可能性がある。
完全に信用はしないほうが良さそうだ。面倒ごとを押し付けられる可能性があると考えておこう。
「なるほど。一つ勉強になったよ。で、Aランクの人よりもCランクの『ティルナ・ノーグ』の人のが強いの?」
「あぁ、分かりにくかったか? 悪い悪い、『ティルナ・ノーグ』の連中はまだ若いからな。ただ単純に冒険者ギルドの定めるランクを上げる基準に達してねぇだけだぜ。
あんちゃんが会ったのはレイシュアとだけか?」
「最初はレイシュアさんだけで、その後クレアさんというエルフの方が来てその方とも話しました」
「はい、あんちゃん外れだ。『クレア』は
ちなみにレイシュアもだけどな、あいつは鬼人族の、その中でも上位の種族だぞ」
「・・・・・・・・」
開いた口が塞がらない。高級品だとは思っていたが、最高級品だったんじゃねーか。
って事は仮にエルフを選んでいたとしてもクレアさんには及ばないという事になるのか。
「がはははっ、驚きすぎて何も言えないって感じか?
可愛いなあんちゃんは。もっと言っておくと『ティルナ・ノーグ』ってのはそんなのが集まったパーティだぞ。他のメンバーも化け物揃いだ、
メンバーの数は全部で六人。今この街にいるのは半分の三人だけだがな。
他の三人は王都にいる。多分ランクが上がらないからだろう。
奴らにとっちゃCランクで受けられる依頼なんて半分の三人、どころか一人か二人で余裕なんだ。まとまって活動する必要が無いから別れて活動しているんだろう」
「・・・・・・とんでもない化け物じゃんか」
思ってた数倍ヤバいわ。つーかそれに弟子になれって言われたんだけど?
聞いたら引いた。凄すぎて弟子になんかなったら面倒そうだと思ってしまう。
代わりに利点も多そうだが。ふむ。
「そうだあんちゃん、悪いんだけど一つ頼まれてくれねぇか?」
「頼み? まだ登録もしてない俺に? 内容によるとしか言えないけど」
「がははっ、別にそんな難しい頼みじゃないんだ。向こうで揉めている男女がいるんだ。ちょっと斜め後ろを向いてくれ」
そう言ったゴンザレスが指を指す方向を見ると男女が二名づつ、合計四人いた。
ふむ、全員ケモミミだ。だが特筆するべきはそこではない。
「ブレザー学生服?」
スズシロ・タカノと同じ魔法使い風のコートの下に見えているのは学生服っぽく見える。ネコミミの女性は道明寺さんと同じ聖職者っぽい服装だ。
女性二人はスカートで、男性二人はズボンという違いはある。
あるが、四人が揃って同じ規格だろう服装をしている。
靴も全員同じだ。となるとやはり学生制服にしか見えない。
「ん? あんちゃんの知り合いか?」
「面識は無いと思う。けど地元であんな恰好の服を見た事がある」
「地元が同じか。ならちょうど良いな。あれはあんちゃんと同じ登録に来た新人なんだが、さっきからずっと揉めててな、四人で一人の女の子を責め立ててるみたいになっててよ。ちょっと見てらんねーんだ」
四人で一人を? つまりもう一人いる?
四人までしか確認出来なかったので見てみると、なるほど。確かに五人目がいた。
角度的に俺の位置からは見えにくい。男の足の向こうにも一人いる。
つまり地面に座り込んでいるようだ。
つまり座り込んで泣くまで責め立てているのか。泣いているかどうかは分からんけど。
「んー冒険者ギルドでの喧嘩は、職員は干渉しないの?」
「いや殴り合いが始まって、それが酷く拗れそうなら止める。もしくは武器を抜いたら、だな。
俺はその為の人員でもある。
だが正式な登録前ってのと、やってるのは所詮口喧嘩だからな。手を出してないのに干渉する訳にもいかねーだろ?」
だろ? って言われてもね。揉めてたら拗れる前に止めろよ、としか思わんが。
どうやらそこまで大事にならなければ、冒険者ギルドの職員は喧嘩に干渉して来ないらしい。
役に立つか分からないが、その線引きは覚えておこう。
「ってことは止めて来いってことか」
「さすがにロビーで騒いでるとな、耳目を集めるだろ? 新人が嫌いなベテランも、中にはいるからな。特に勘違いして騒ぐようなガキが、な。
他の連中が干渉してくる前に『そろそろ鐘が鳴る』とでも言って収めて移動させちゃってくれねーか?」
「なるほど。ちなみにそろそろ鐘が鳴るの?」
「今からあっちに行けば、着いて数分で鳴るぐらいだろうよ」
「了解、それじゃ声を掛けてみるよ」
普段なら面倒だと思うだろう。
だが多分あっちの五人もおそらく日本人だ。
なら接点を持っておくのも悪くない。
第一村人は良い情報をくれた。顔は怖いが良い人だと思う。
次に話しかける連中も話の分かる連中だと良いが。
なんて考えながら騒いでいる五人の方へと向かう。
そして向かう事で気づいた。周囲の視線が結構そちらに向いている、と。
これは早々に収めて移動させた方が良いだろう。
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