第22話 冒険者ギルド ②



 冒険者ギルド職員のゴンザレスという男に、喧嘩の仲裁を頼まれた。

めんどくさいとは思わなかった。別に構わない。

喧嘩に腕力で勝つことよりも、拗れた喧嘩を上手くまとめた方が周囲の評価は高くなると聞いた事がある。

が、別にそんな理由ではない。


 単純に日本人なら話してみたいと思ったのが第一で。

第二に日本人ならどんな理由で揉めているかが知りたい。

その後に情報収集が目的、と続く。歩きながら観察する。



何てワクワクしながら向かって行くが・・・・・・・どーみても厄介ごとだろうなと思えた。


 女性が1人、地べたに座り込んで泣いている。

大泣きだ。ギャン泣きしている。

それを男が二人、女が二人で囲んでいる。責め立てているようにしか見えない。


 ・・・・・・こんな人の多いところでやるんじゃねぇよ、全く。

合計五人。種族はバラバラのようだが、全員が獣人だ。


 獣人が獣人を虐めているという、一気にファンタジーな世界になった。

虐めがあるとはファンタジーな世界も残酷な世界だぜ。

ま、知ってたけどな。ある意味差別の代名詞でもあるし。


 その残酷なファンタジーな世界では、ブレザー学生服というのはミスマッチだ。

合わないようで合うような、それでいてやっぱり合わない気がする。


 制服を見ただけでは、どこの学校かまでかは分からなかった。

多分知らない学校の制服だろうとは思うが、それも判断が難しい。

 死んだ時に三十歳、高校を卒業して十年以上経っている。

何年も見ていない学校の制服もあれば、制服を変更した学校もあるだろう。

そもそも離れた地域の学校だったら知る訳がない。


 だが最低限、学生だって事だけは確かだ。

となると中学生か高校生か。大学生は抜いて良い。

そんな連中が五人。結構声を荒げているな。聞こえて来る口調がキツイ。


 仲間内で意見を話し合っている、なら問題ない。

だが傍から見る限り、そう見るのはちょっと難しい雰囲気だ。これは揉め事だろう。


「ちょっと失礼。なんか騒がしいけど、何を揉めているのか聞いてもいいかな?」


 しゃがんで泣いている子を囲む様に並んでいる四人の男女に声を掛けた。

少し落ち着こうぜ、クソガキども。

一人を寄ってたかって虐めてるんじゃねーよ。

特に女性を。俺はそんな光景がとても嫌いだ。


「何だよ、お前」


「服装を見て分かるだろ? 多分お仲間。

別な言い方だと転生者とでも呼べばいいかな? 多分だけど。あんたらと同じだよ。冒険者ギルドに行って登録しろってミッション何だよ俺も。分かるだろ?」


 そう言って自分の着ている服を指して言う。

彼らは学生服、俺は作業服、その違いはあれど同じ世界から来た事くらいは理解できるだろう。

勿論後半はなるべく小声で言った。


「あー。何だよ、また増えるのか。別に俺たちだけで良かったのに」

「同じって言ってもあんたの恰好、土方じゃん。ってことは元々はおっさんか?」


「土方ねぇ。うーん、まぁ土方でも良いんだけどさ、その土方は単細胞で気が短いからさ、早く答えて欲しいんだけど?」


 四人の男女のうち男二人の言葉に、安全靴のつま先で床をコツコツしながら返してやった。

あくまでも個人の感想です。自分でそう言ったけど、職人がみんなそうだとは思ってねぇし。

勿論短気ですぐ切れる奴はいっぱいいるが。


「こ、こいつがしつこいだけだよ」


「しつこい?」


「うっ・・・・・・」


「ちょっと待ってください。私たちは、こことここが恋人なんです」


 わざと若干苛ついた感じで目を細めながら聞くと、男の方が明らかにビビった。

目線は俺の方が高く、外見は十五歳に戻っても俺の方が厳ついだろう。

 普通の人の基準だと俺は目つきが悪いらしい。

黙っていると怖い、とは死ぬ前に良く言われた。

睨むとかなり怖いらしい。実際睨んだだけで男二人は確かにビビった。

 軽く後退りした男たち。そこに変わって女子の一人が割り込んで来た。どっちでも素直に話してくれるなら構わないか。その方が早いし。


「つまりダブルカップルって事?」


 どこかで聞いたような設定だな、とうんざりしながら問うた。

そんな日本人ばっかり連れて来たのかよ・・・・・・


「そ、そうなんです。いつも一緒で、それがこうなっちゃったんですけど・・・・・・・

これからも四人で頑張ろうって決めて。それで、えっと此処に来る事になったんですけど、そしたら同じ学校だった・・・・・・・その子に会っちゃって」


 彼女も状況は理解しているようで、声は控えている。

この位置でなら俺を含めた転生者六人にしか聞こえないくらいの声量だ。ならば俺も倣おうか。

それにしても俺、言葉が荒いな。普段は年下相手でも、もう少し丁寧に喋っている。

でもこの状況だしなぁ。

とはいえ荒い言葉は、ガキみたいで嫌なんだ。


「どっかで聞いたような話だ。カップルだと一緒にこっちに来れるのかね?」


「えっと」


 そう言って仲間の顔を見て何かを確認する彼女。

彼女は犬の獣人を選んだらしい。

垂れた犬耳が特徴的だ。毛色と言えば良いのか髪色と言えば良いのか。彼女を含め何人か髪色は変えたらしい。

髪染めは印象が変わるので俺はやらなかったが。

顔よりも色が印象に残るしな。


 

「スキルを選ぶ時は1人でだったんですけど・・・・・・

そこに女神様が移動させてくれるまでは四人でいました。相談する時間もくれて。

 それで聞きたいんですけど、その、年上ですよね?

お兄さんは死んだ時に1人だったんですか? その子、甲斐さんって言う名前なんですけどおかしいんです。同じ学校で別のバスに乗ってたりしてたのに、こっちは四人で集まれて、なのに彼女は1人だったらしくて」


 それはそれは。また複雑な状況だことで。バスか。

恋人同士は集まれて、1人だけだと別。それなんて嫌がらせ?


「あー、その辺は俺もゆっくり話したい所なんだけどさ。

何で声を掛けたかって言うと、邪魔になっているから。なんだよね。

冒険者ギルドの職員さんも気にしている。ここで騒ぐのは良くない。話すなら後で別の場所で擦り合わせしない?」


 そう言って周囲を見るような仕草をすると、泣いている子以外が周りを見回した。

口論だけでも目立つのに、1人が泣いている事でさらに注目されている。

普通の感覚ならそれでの悪目立ちは望まないだろう。


「あー・・・・・・そうみたいっすね。なんか、すいません」


 犬? いや違うな。もしかして狼だろうか?

冷静になったのかさっきまで生意気な感じだったブレザー制服男子の方が軽く頭を下げて謝罪して来た。

 別に俺に謝る必要はないんだけどね。

他の三人も落ち着いたのか、周りをみて申し訳なさそうな態度になった。


「そろそろ説明会が始まるらしいから移動しちゃわない?

で、何で揉めてたのかだけ聞いて良い? 解決できる話なら先に終わらせておきたいし」


「あー・・・・・・・

何ていうかですね。再会してここまでは一緒に来たんですけど、これで登録が終わりなら別行動したいなって話になりまして」


 言いずらそうに犬の獣人のブレザー女子が言う。

ふむふむ。これもどっかで聞いた話だな。だが、そりゃーそうなるだろう。

ダブルカップルならダブルのカップルで動きたいと思うのが普通だろう。

奴らにとって、5番目の存在なんて要らんのだ。

1から4までで充分だからね。


 なんで俺の方の連中はそう言ってくれないんだろうか?


「ここからも一緒に行動したいって言われてさ、断ったんだけど結構食い下がって来て。こっちだってそんな事言われてもって話になって・・・・・・納得してくれないから、なんか強く言わないと駄目な感じになってきて」


「ふむふむ、なるほど。まぁそれは分かる。俺もカップルの中に混じって動きたくないし」


「ですよね。今まで殆ど話もした事無かったのにそんな事言われてもってなって」

「だよなぁ。俺も今日まで話した事すらないもん」


 男二人はバッサリだな。

同じ学校だからって皆知り合いとは限らない。それは分かる。

 もう一人の男は狐の獣人かな? 耳と尻尾だけだと判断しずらい。

杖を持ち、ローブを着て大き目の帽子を被っているので種族と相まって胡散臭い。

でも多分こういった感じの雰囲気は、好きな奴は好きだろうと思う。


「あと魔法メインだって言うし。それだと三人も被るんで、その・・・・・・厳しいって言うか」


 犬の獣人の彼女も控えめに続いた。その意見も理解できる。

何しろ泣いている子も狐の獣人の男子と同じ格好している。

 で、その狐とこの犬がカップルだってさっき言ってた。

杖、ローブ、そしてつばの大き目の帽子。多分三人ともが魔法を優先したスキル取りなのだろう。

 ・・・・・・『初心者向け装備セット』分かりすくね?

魔法使い×2編成でそこがカップルのパーティに外から魔法使い入れるのはねぇ・・・・・・


「私は前から知ってましたけど。

何かこっちで会ったら雰囲気が凄く変わってて、なんかちょっと」


「獣人族を選んだから雰囲気が変わるのは仕方が無いんじゃないかな?」


「そーゆーのじゃなくて・・・・・・

男受け狙いすぎにしか見えなくて。こう、色々大きくなってるような」


 目があった最後の一人の女子が言う。

彼女もなんか意見あるかな? と思ってチラっと見ただけなんだが思いっきり目が合ってしまった。そのせいでキツイこと言わせたんなら俺の責任だ。なんかゴメンナサイ。


 だが嫌悪感の篭ったそのお言葉が響く事で、嫌味じゃなくて実感が篭っている感じがする。


 言いたいことは分かる。しゃがみ込んで泣いている女子。


 ウサミミでウサ尻尾だ。多分兎人族って奴なんだろう。だから生えているのは当然だ。

俺は詳細すら見ていない獣人だが、確かリストにあった。うん、それは良いだろう。

何を選ぶかは好みだ。けどバニーはなぁ。

狙っているって言われると、それも分かる。分かってしまう。



 何を選ぶかは個人の自由だ。けれど集団になれば事情が絡んで来る。

五人の内三人も魔法使いは要らない、となるのは理解出来る事情だ。


 であればこの状況で誰を切るかってなったら、バニーの彼女ヒトになるのが当然だろう。

勿論それは俺が、外から話を聞いているだけだからだけど。

そう言われる当人にはたまったもんじゃない話だろう。それも分かる。


 それが分かってもやっぱり、俺が女子二人の立場でも真っ先に兎の彼女を斬るだろうけど。

狐、犬、兎が魔法使い。

その中で兎の女子だとなんかね。

あざといって思われても仕方がない。偏見だと理解している。

けど、ウサ耳の魔法使いが後から入ってきたら・・・・・・

うん、嫌だろうな。

そりゃお引き取り願うだろう。今後のご活躍をお祈りします、になる。



 ここまででも微妙な関係だ。なのに泣いている彼女には同性に嫌われる要素がもう一つある。

なんというかチョモランマ。富士山を超えてエベレストって感じ。

 おっぱいがおっきい。超おっきい。

おっきいって言うか、なんでそんなでっかくしちゃったの? って聞きたくなる。

最後の女性の言った言葉から想像するには、生前はそこまでじゃなかったっぽいし。


 まー不自然だ。その大きさ。そのボリューム。

絶対設定で弄っただろうな、こいつ。

転生先で知り合いに会う可能性とか考慮しなかったのだろうか?

俺も別にそんな可能性は一切考慮してなかったけど。


きっと会ったから後悔しているだろう。


 それにしてもシステムさん。顔だけじゃなくて体型も弄れたのか。

くそっ、全然気が付かなかった。有料だろうか?

それでもだ、あったなら俺もあそこを少し長くしとけば良かったと思う。

あそこだよあそこ。下半身。


 って言うか脚な。

もう少し長ければ、なんて誰だって思う事だよな?


 何て俺のアホな感想は置いといて。

おっぱいが異様にでっかいウサ耳の魔法使いガール。

彼氏がいる女性なら一緒に行動したくないだろう、その気持ちは分かる。

彼女がいる男性だって、変に疑われたくない。勘ぐられたくない。

『今、見てたでしょ?』とか言われても嫌だしな。

不自然にデカければ・・・・・・・そうでなくても見ちゃうんだよ、男ってもんは。


だからパーティに入れたくないと思っても仕方がない。

拒否する気持ちは分かる。

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