第49話 元おっさんの矜持 


 1,5リットルのペットボトルを傾けて、ホクトの持つ紙コップへとコーラを注ぐ。続いてナグモの方へも。

アオバとマシロは炭酸を嫌がったので烏龍茶にした。そちらにも注いでいく。

 俺は久しぶりにビールといこうか。

・・・・・・という気分だったが、ブレザー学生服組は誰もお酒を飲んだことが無いらしい。

なので同じくコーラだ。こっちも久しぶりだが。

というか死ぬ前は炭酸飲料なんて飲まないようにしていたから本当に数年ぶりになる。


 こいつら随分真面目なんだなと感心しつつ、ガッカリもした。仕方が無いがお酒は諦める。

俺の高校生の時なんかは・・・・・・おっとアオバが注いでくれるらしい。この話はまた今度だな。

しかし男どもは気が利かないね。別に手酌でも構わないんだが雰囲気的に注いでくれないと悲しい景色じゃないか?

 注いでくれたアオバがペットボトルを置き、紙コップを持つのを確認して口を開く。


「まっ大したものがあるでも無いが、乾杯といきましょう。

今日はありがとう、おかげで色々わかったよ、お疲れ様でした!!」


「「「「お疲れ様でした!」」」

「したっ~」


 一人だけ軽く答えたホクトをマシロが突っついた。

こっちもなんとか仲直りをしたようで、ホッとしている。

でないと打ち上げをしようなんて言い出せなかったからな。



 午前中はマシロだけでなくアオバも混じり三人で試し、午後からはホクトとナグモも混じって五人で試す事にした。

四人で試す意味はあまりないんじゃないかという意見もあって、早々に五人での方もやってしまう事にした。

 勿論理由をつけて顔を合わさせ、早めに仲直りしたいというのが本当の理由だ。

事前にちゃんと説明をした事で、流れで打ち合わせが出来たのが良かった。

午前中にアオバと俺の二人でマシロの気持ちを全部吐き出させ、折角だし五人でのパーティ設定を試そうと持ち掛けた。


「・・・・・・秋野さんが、そうしたいのなら」


 助けられた弱みもあるだろう、少し考えた後にマシロが答えたのでアオバに呼んで来てもらうテイを取って合流した。勿論全て打ち合わせ通りである。

別にどちらも別れたいと考えているわけではないので、調査を持ち掛けた唯一の部外者が

「今日は喧嘩は無しでお願い」

と言えばマシロも蒸し返す訳にもいかない。

 しばらくは微妙な距離感だったが、そこは好き合っている二人。

元おっさんの余計な心配をどこやらしばらくしたらいちゃつき始、じゃなくて仲睦まじく過ごせるようになった。

それを見たアオバとナグモも良い雰囲気になり独り身の寂しさを感じたりもしたが、得るものは確かにあったのでそれで良し。


 ダブルカップルのいちゃつきが置いといて調査結果に移ろう。

まだあくまでも暫定だが、魔物を殺した時に得られる経験値、そして日本円共に頭割りで間違いないと思う。


 二人パーティで魔物を殺した場合、一人で殺した半分になり。


 三人パーティで魔物を殺した場合、一人で殺した約三分の一になった。


 そして五人での場合は約五分の一だった。


 最初に三人でパーティ設定をしてもらって何度か戦闘して数字を確認し、ある程度データが溜まってから一度町に戻りアオバに抜けてもらった。

その上で続けて同席してもらって戦闘を試したので、一緒に居てもパーティ設定を行っていなければ経験値は入らない事も確認出来た。

 午後に合流してからは他にどの程度距離を取っても経験値が入るか、などを試している。

決してダブルカップルと一緒にいたくなかったから俺が離れたがった訳ではない。此処大事。


 ある程度想像通りの結果となった訳だが。


 この結果だけを見ればパーティを組む意味を見出せない、というのが俺の率直な気持ちだ。

とは言え実際は一人で出来る事なんてたかが知れている。

そのうち一人じゃ対処出来ない魔物に遭遇する可能性が高い以上いずれ考えるけどね。

だがそのうちだ。今はスキルを得る方が優先。



 それにしても良く飲むね。コーラがあっという間になくなっていく。

1.5リットルを一人一本も飲まないと思ったから人数分で五本買って来たが足りないかな?


「悪いけど無くなってもお代わりは用意できんよ」


「うっ」


「当たり前でしょ。再入場にお金が掛かるんだから」


 俺の言葉にホクトとナグモもが悲しそうな顔をしたが、アオバの言う通りだ。

無料期間は終わったからね。入るのに日本円が掛かる。

 1.5リットルのペットボトル飲料はどれも200円だった。

500ミリリットルの飲み物が100円なので大きい方がお得感がある。


 だが足りないからと言って、再入場して買うと単価が450円になってしまう。

なので希望を聞いて、最初に纏めて買って来た訳だ。一気に纏めて買った方が効率的だ。


「すまんね、俺もそんなに稼げてる訳じゃなくて」


 今日までは単純に彼らの四倍を独り占めしていた事になる。

が、そもそも経験値稼ぎをしていないからねぇ。相対的に日本円も稼げていない。

 なんて事は無く、ここ数日で実は多少稼いでいるが。

彼らは薬草採取なんてしていないらしいし。


 こればっかりは教えてくれる人がいないとなぁ。雑草と薬草の違いが分からない。

俺は運が良い事に薬草採取に出た際、経験値がゼロだが日本円が10円入る虫を見つけた事が大きい。

 見かければ積極的にそいつを殺してた。

そいつだけでなくそれに気づいてからは虫系は皆殺しの勢いで狩っていた。

いくらか増えていたので多分10円はそいつだけでも、数円の報酬のある虫はいたんだと考えている。


 なので実は今朝までは多少の余裕はあった。

最も今日数度出たり入ったしたのでガクンと減ったんだけど。

 そんな訳で打ち上げと言ってもジュースとスナック菓子だけのささやかな催しだ。

個人的感想としては十五歳らしいと懐かしいが、元三十路のおっさんとしては何だか情けなくも感じる。


「いやいやいや、今日の分の費用全部出してもらってますし気にしないでください」


「そうですよ。久しぶりでつい、飲みすぎちゃっただけで。すいません」


 ホクトとナグモも言っているように、それでも今日の費用は俺が持った。

どうもこの四人金銭的に結構キツイみたいなんだよね。

宿に泊まっていると聞いた時は結構稼いでいるのかと思ったんだが、そこだけは譲れないラインだったようでかなり無理しているらしい。


(そりゃー女子が混じればなぁ)


 妥協できるラインが大分奥に行く。

俺は彼ら四人より随分手前に妥協ラインを引いている。最悪野宿も覚悟している。

 だが、連れがいたら多分そうは行かなかっただろう。

単独で行動したかった理由の一つだ。


 とは言っても現状で、稼ぎ方を教えてやろうとは思わないが。

経験値ゼロ、日本円10円の虫にしたって大量にいる訳じゃない。

見かける度に殺せばいなくなる訳で。

最初は稼げて良かったが、段々と稼げなくなっていっている。競合は避けたい。

 それでも感謝の意を表すためにこれくらいはしたい。

清涼飲料水で1000円 これは一人1.5リットル一本。

ポテチその他で400円 これは向こうの食べたいスナック菓子を一個づつ買った。

合わせて1400円。

スナック菓子は大きく開いてみんなで食べるんだけど。

金は痛いが、情報が一つ収穫があ埋まったのは大きい。

これで今後は安心して稼げる・・・・・・と良いけど。


 にしても3000円までコツコツ貯めた日本円の貯金がなぁ。

残金約350円也。見る影もなくなったぜ。

ナイトパックにも入れない。


出入りが無料期間のうちにやれればベストだったのに。

今夜もティルナ・ノーグのお三方は帰って来ない。

ギルド前で野宿決定だ。一度経験しておきたかったから良いけどさ。


勿論、強がりだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る