第48話 七日目②


 マシロから事情を聞いた後、他の三人が泊っているという宿を訪ねた。

彼女は俺が行く事すらも嫌がった。

だがこちらとしては説明をしない訳にはいかない。

勿論説得とか交渉などではなく、ただの報告だ。説得は俺の仕事じゃないだろうし。

 無事の報告と、少し時間を置いてからお互いに落ち着いて話しなさいよ、と伝えに来ただけ。

落ちつくまでの少しの間、危険が無いように見てるから、と。それだけだ。



 宿の店員にはとても迷惑そうな顔をされた。その上呼び出した三人は物凄く怯えた顔で出て来やがった。

こっちの世界で22時だともう真夜中のようなもんだ。なので店員が迷惑なのはまだ理解出来る。

けど三人が怯えてるのはちょっと酷いんじゃねー? と思った。

確かに彼らブレザー学生服組の前でゴヘイとか言うカス男を殴り飛ばしちゃったけどさ。


 だがそれは奴が高校生ってだけでガキ扱いし、彼女らを含むブレザー学生服の連中を小馬鹿にする発現を繰り返した事が発端だ。

何故か物凄く調子に乗っていたゴヘイの馬鹿の言動を、ちょっと見てられなくなって口を挟んでしまった。

そこからヒートアップしたのは・・・・・・まぁ、うん。俺も少し悪いけどね。少しだけだ。



「はぁ~、なるほどねぇ」


 無事の報告だけして帰りたかったのだが、猫人族になった元日本人、アオバが少し話したいというので部屋に入れてもらい彼らの言い分を聞いた。

ただそこに介入するつもりは無いんだ。頷くしか出来ない。


 俺の考えとしては、十代の恋愛なんてくっついたり別れたりするのが普通だ。

周りでは十代の頃の相手と結婚するまで行った奴の方が珍しかった。

 勿論早く結婚するやつはする。

だが今の日本じゃ、しない奴が増えている。それは社会問題になるほどだ、なので珍しいだろう。


 人の恋愛に首を突っ込むつもりはない。

ましてや寝取るとかね、考える気もないよ。

だからわざわざ「見かけたので安全な場所に誘導した」と伝えに来たんだし。

それには勿論「迎えに行けば?」という意味も含んでいる。

今聞いた限りじゃ迷っているみたいだけど。

 だが確かにその考えには同意はする。

なので少し時間を置け、という意味でもあって、どうしろとは言ってない。

確かに勝手に犬人族じゃなくて狐人族になったホクトが悪い。

けど失敗をいつまでもネチネチ責め続けるのもねぇ。

失敗って言うのもあれな内容だから反応に困るんだけど。


「話は分かりましたけど、当人同士で納得するまで話さないと難しそうですね。

とりあえずマシロさんが落ち着かないと無理そうだし、明日までは見ておくよ。居場所はなるべく教えるから、準備が出来たら迎えに来てあげてください」


 どちらかと言うと意地になっているのは飛び出したマシロの方だ。

それでも一晩経てば多少は落ち着くだろう。

怒りの感情も悲しみの感情もそれ以外も、寝ると少し薄くなる。人間は忘れるように出来ているのだから。


 そもそも今夜の訪問は、俺と彼女が一緒に寝る訳じゃ無い事を説明しに来たようなもんだ。

22時を過ぎるまで、冒険者ギルド正面の広場の隅でマシロと共に過ごした。

野宿が許されていること。他の場所では駄目なことを説明し、彼女の言い分を聞いた。

その上で22時過ぎたら〝ルーム〟に入る事を承諾させ、先に突っ込んでから此処へ来ている。


 良い時間調整にはなった。

ただそれでも他の元日本人に疑いの目を向けられて、険悪になりたくないとも思っている。

広場の話と、今は〝ルーム〟に入っている話をして納得してもらった。


「すいません。マシロの事をお願いします」


 アオバが頭を下げる。それに合わせてホクトとナグモも頭を下げる。

ケモ耳が三つも動いている景色は斬新だ。悪くない。

だがそのうちこれも慣れちゃうんだろうけど。

忘れるし、薄れるし、慣れる。それが人間か。


「本当に気にしないでください。実は誰かと試したい事もあったんで、ちょうど良いかも知れません。

町の外に出るけど、絶対に無理はしないので心配しないでください。何度か冒険者ギルドに戻るつもりなんで適当な時間にそこで待っててくれるのが確実かな」


 痴話げんかに巻き込まれた事は正直面倒だと思う。

が、良い機会だから一緒に行動してパーティ設定を確認しておきたい。

元日本人とこっちの世界の人間、組んだ時に違いがあるのかも確かめたい。

元日本人のパターンを試せる良い機会だ。


「・・・・・・それって私も何か手伝える事ありますか?」


 少し考えて青葉が言う。

この四人は人数を変えて、経験値や日本円の入り方を確認していない。その事はマシロに確認した。

手伝ってもらう約束を取り付ける前に説明はし聞いている。

 やるなら何度か〝ルーム〟に出入りして数字を確認しなきゃならない。

黙っていても、頻繁に出入りしてりゃ何かしている事に気が付くだろう。

馬鹿じゃなきゃ、何をしているのか考えるのが当然だ。

聞かれてから誤魔化すのも面倒なので、何をしたいかは先に話してある。

そもそも普通はとっくに気になって、確認していて当然の疑問だろう。

彼女らが微妙な雰囲気でそれどころじゃなかっただけの話。落ち着いたら誰かが気づくだろう。

無理に隠しておくような話じゃない。


「ん~、あるっちゃあるんだけど」


 マシロがこの成果を持って仲間の元に帰れば、良い手土産になると思ってたんだけどね。

でも試すなら二人のパターンと三人のパターンを試したい。その方が正確に分かる。


「まーアオバさんも手伝ってくれるって言うんなら、その方がホクトくんも安心か」


 他の男と二人きりというシチュエーションは、彼氏としてやきもきするだろう。

ナグモの方は良い迷惑だろうけど。

親友を安心させる為だって割り切ってください。


 ついでに四人で魔物を倒した時の入り方も調べてもらおう。

で、どっかで俺も混ぜてもらい五人の時の入り方も試させてもらおう。

その為には適当なタイミングで仲直りして欲しいものだ。


 確認の為にナグモの方を見ると頷かれた。

了承と取って良いだろう。


「ではアオバさんもお願いできる?」


「わかりました。よろしくお願いします」


 そう言って再度ネコミミが頭を下げる。

良い返事だね。素直な子は好きだぜ。


「ありがとう、それじゃ調べたい事を先に説明しておくね」


 マシロに持たせる手土産が無くなってしまうが仕方が無い。

そのままそこにいる三人に調べたい内容を説明し、意見を求めた。

意見が出ればちゃんと、それを取り入れるつもりだよ。

俺だって気づいてない事もあるだろうし、ミスもある筈。だってそれが人間だもの。

一人で過ごす事に別に問題は無いが、だからといって一人で生きられるとは思ってないよ。

ご協力よろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る