第5話 光った老婆と設定


 俺の前で神々しく光りだした自称神こと老婆。

その光は余りにも眩しすぎてしばらくは目を開けていられなかったが、しばらくすると段々と光が弱くなっていく。



 どうやら落ち着いたららしい。

狭い部屋で光り輝くとか止めてほしい。本当に迷惑なんですよ?

多分俺が祈ったせいだろうけど。


 収まっていく光の中から現れた老婆は、なんと若い姿に


「なっていませんでした、か」


「イヒヒヒヒ、さすがに百歳くらい若返ってもねぇ、もうそこまで変わらんじゃろうな。

じゃがお前さんの祈りはキチンと届いたよ。誰かに祈られるのも久しぶりの感覚じゃな。

ヒヒヒ、少しは感謝するとしようかね。おかげで百歳とちょっと若返ることが出来たようじゃ」


「ちょっと祈っただけで百歳も若返るって・・・・・・

っていうか元が一体何歳なんだか・・・・・・聞くのが怖い」


「ヒヒ、そうさな。億千を数度って所かね。人間とは感覚が違うから理解は出来ないじゃろうが」


 億千を数度って。それはちょっと数字がバグりすぎていて理解出来ないな。

歳じゃなくて円だったとしてもだ。億なんて単位のモン見た事ねーよ。

金の他に億なんて単位を使う事なんて、まずないだろうし。


「イーヒッヒヒ。そうじゃろうねぇ。

しかし残念だったね。この感じだとあんたはあたしゃと相性が良い。ちょっとの時間であれだけ濃密な祈りを捧げられるなら、若い姿に戻れてたなら一回くらい抱かれてやっても良かったんじゃがな」


「また急に艶めかしい話を。神様なんじゃ? そんな簡単に人間と交わっても良いんですか?」


「ヒッヒッヒ、どこの世界でも神話なんてそんなもんなんじゃがな。読んだ事はないか?

最も人間の性行為とは違うからの、儀式みたいなもんじゃよ」


 そういえば神話も結構生々しいと聞いた事がある。

読んだことが無い訳ではないが、そこまでディープなのは手を出してない。ライトなので止まっている。

エロいので読むのは青年漫画くらいだった。


「なるほど儀式か。そう言われると納得ですけど」


「ヒーッヒッヒ神と人の場合、カマキリの交尾に近いけどねぇ」


「捕食じゃねぇか!」


 っ全然儀式じゃねぇよ。終わったら喰い殺される奴だよ。

ってだからかぁ・・・・・・ 神と人だもんな。完全に上下関係だしなぁ。


 って違う違う。危うく納得する所だったがそれは駄目です。怖いです。


「危ねぇ。若くて美人だったりしたら絶対引っかかってた自信がある。婆さん女神で良かった」


 死ぬ前の女性関係は人並みだ。それなりにあった。

別に無節操なんて事は無い。相手は選んだ。

さすがにお年寄りには手を出さないよ。敬老精神を忘れるな、だぞ。

 まーでもそれがだな。この神々しさを感じてしまうと、若いころはさぞ美しかったんだろうなと思ってしまう。

だから若いころに会っていたらやばかったかも知れん。


「イーヒッヒヒ。捕食とはちょっと違うがね。

神に愛されるという事は加護を受けるって事。

加護を受けた者は常人よりも才を発揮させやすくなる。

その代わりに長生きできなくなるようじゃがな。

人間の体が神の愛には耐えられないんじゃろう。悲しいことじゃ」


 あー、何となく言いたい事は分かってしまう。

要は加護ってのは出力が上がるんだろう。何のかは知らんけど。

出力が上がるという事は、その分反動も大きくなる。

残念ながら人間の身体は、その反動に耐えられない。

 悲しいねぇ。

けど神様の側が言っちゃっ駄目なんだじゃないか、それ。


「イーヒッヒヒ。分かってるさね。だからその代わりに用意したのが〝システム〟って事じゃろう。

あっちにはスキルという概念がある。剣とか魔法とかじゃな。

それを加味して〝システム〟に補助をさせて、少し戦いやすくしたんじゃろう」


「なるほど。つまりそれを踏まえてスキルを選べば良いって事ですね」


「ヒッヒッヒッ、あたしゃは少し席を外すよ。お前さんはその間にゆっくり考えておるんじゃな。

くれぐれも手を抜くんじゃないよ。隅から隅まで見落としの無いようにするんじゃ」


「あっ、はい。分かりました」


 なんか釘を刺されてしまった。母親かっての。

だがこう言うって事はそこに何か意味があるんだろう。

言うだけ言って消えてしまった。神も謎だ。よく分からない。

まー、考えるだけ無駄か。



 差し当たって言われた通り〝システム〟の確認だ。

マウスっぽい何かを動かしてみる。

 カーソルっぽい何かが動いて画面が動き出した。

ふむ。これで起動したのか。もしくはスリープ状態だったのか?

 スイッチとかは無いんだな。

モニター画面みたいな部分に文字が浮かび上がって来る。



<< ようこそ → プレイヤー >>

<< これ以降は当システムが案内します >>

<< 情けない事に、貴方は死んでしまいました >>


 なんかイラッとしたぞ、おい。死んでしまうとは情けないとかどっかで聞いたフレーズだな。

それもつい最近。むしろさっきだ。

多分俺の脳内の話だと断定して、忘れよう。

 実際生き返ってすぐ、目の前で言われたら腹が立つだろう事は分かった。

はい、次、次!!


<< そんな貴方の為に次のステージを用意しています >>

<< 最初に種族を決めて下さい >>


 そこまで文字が流れた後に、NEXT の文字が現れた。

本当に死んだ気が全然しないんですけど・・・・・・

 今は押すしかないんだけどさ。


 マウスを動かしクリックすると、画面が転換して半分に別れた。

右側半分にアバターっぽい何かが、左側に選択肢らしきものが並んでいる。


「選択肢、多いな。それも問題だが、それよりこっちのアバター・・・・・・」


 どう見ても自分の姿だ。

容姿も決めるって言ってた筈だが?

 てっきりゼロから作成するのかと思っていたのだが・・・・・・

試しに左側の選択肢、種族の項目を選択してみる。


 すると、選んだ選択肢でアバターの姿が変わった。

変わったのだが、やはり俺の姿は変わらないようだ。

俺が俺で有る事は変わらないようだ。


「記憶を持って行くとは言ってたけど、外見も基本はそのまま持って行くのか・・・・・・

それにしても・・・・・・懐かしい、若いなこれ。十五歳からって言ってたからその頃の俺か?」


 こんな感じだったけな~なんて感慨深さもありつつ、色々考えてしまう。

最近は卒業アルバムを開くなんて事は殆ど無くなった。

毎日鏡で見ていると、昔の自分の姿なんて大分記憶が薄れてしまっている。


 そんな記憶の中で薄れてしまった若いころだろう自分が、エルフという選択肢を選べば金髪ロンゲで碧眼に、そして美形になった。それも修正しすぎだろってくらいに。

超美形になった・・・・・・どこか不自然な。


 ドワーフの選択肢を選べば茶髪でチリチリの髪の毛にもじゃもじゃの髭面。

そしてこれはねーだろってくらいの樽体型になった。背も縮んでいる。

 そして獣人族、その何かを選べばケモ耳にケモ尻尾でその選んだ種族っぽい外見に変わっていった。


 どれも仮に基本的なモノを選んだだけだが、エルフにもドワーフにも何種類かの選択肢がある。

〝何々族〟といった感じで枝分かれしている。


 そして獣人族はもっと多かった。

まず動物名の選択肢が多数あり、その中でも同じく〝何々種〟もしくは〝何々族〟で枝分かれしている。

 正直これは見てられない。


 さらに鬼人族とか竜人族、魚人族みたいな種族名もあある。

あるが、これについては分からない。

選べないからだ。不思議。


「だけど隅から隅まで見ろって言われたんだよな~。だが獣人族とか細かい所まで全部見てたら何時間あっても足りないぞ? この後スキルも選ばなきゃいけないのに」


 さて困ったな。と、思ったら下の方にまた NEXT の文字があった。

その横には BACK の文字も!

 ここが最初の画面だと思ったが?

試しに BACK を選んでみるとスリープしたように画面から光が消えた。


「ん~~、ってことは多分だけど戻れるのか。一発勝負じゃなくて良かった」


 ちゃんと説明しとけよな。と思う所だが、やりながらと言ったのは俺か。

なら最初の何の特徴も無い、若いころの俺そのままの姿で進めてみよう。

 〝均人族〟と書いてあり、ヒュームというルビが振られていた。

改めてクリックする。 他もそうだったが画面を切り替えると短い時間だけ種族の説明文が出るようだ。

どうやらクリックして選ばないと説明文が出ないようだ。最初に見た時には出ていなかった。

俺が気が付かなっただけかな? まぁそれは良い。

 説明を読むと

『地球で言う所の人間に、魔力を持たせた種族。この世界での平均的な種族』

とある。平均的な種族か。つまり可もなく不可もなく、か。


 そしてこれだけは〝何々族〟のような選択肢が無い。一択のようだ。


「良く分からんな」


 だが、別にそこに問題は無いとは思う。

多分種族という選択肢の基本なんだろう。基本は大事だ。

基本が今と大きく変わっても戸惑うだけだし。

 見た目が変わりたいならエルフなりドワーフなり獣人族なりを選べば良いだけの話。


 それじゃー種族は均人族に仮定して進めてみようか。

何、設定時間は五時間もあるらしい。

まだ慌てるような時間じゃない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る