第56話 お使いクエスト
腰の曲がった村長に木札へとサインをもらい、半分に切って片方を渡す。
「ではこれを。ダリーシタの街に戻ったら冒険者ギルドに出せば完了じゃ。また頼むわい」
それとは別に村の模様の入った木札を受け取る。
今日はいわゆる〝お使い
アオバたちグループとは情報交換で同意し、集める情報も確認した。
なのでその情報を集めるついでに依頼を受けてみた。
彼女らに頼んだのは魔物の分布と習得経験値、日本円の確認だ。
ところ変われば品変わる。棲んでいる魔物も変わる訳だ。
魔物の出現スポットの情報は、多少冒険者ギルドの資料室にもある。
あるが取得できる日本円は絶対に載っていない。経験値の情報もかなり曖昧だ。
完全には無理でも、ある程度はリストにしておきたい。
可能なら習得経験値が少なく、その上で日本円が多く手に入る魔物を狙っていきたい。
誰かと手を組んだからと行って俺の方針が変わる事はない。
戦う、レベルが上がる。
ではなく
戦う、レベルは上がらないけど日本円が多く入る。
が今は理想だ。
スキル習得を優先したい。
おっと村長に礼を言わないと。言うだけは
感じが悪いと思われるよりは、良く思われたほうが絶対に良い。
「ありがとうございます。またよろしくお願いします。
今日は村の入り口で一晩明かさせてもらいますので、そちらもよろしくお願いします」
「ふぉふぉふぉ、若いのに礼儀正しいのぅ。
この村には宿など無いんでな、来た人には皆そこを使ってもらっておる。これから夜道を歩くよりは良いじゃろうから使ってくだされ」
強面冒険者ギルド職員ゴンザレスにはマドロアさんと一緒に行けと言われたが、泊まりになるので今回は一人で来た。だって野宿の予定でいたし。
〝ダリーシタ〟の街を出て北東方向に二つの町と一つの村に手紙と少しの荷物を届けて、最後の四つ目がこの村だ。
今日はここで一晩泊まり、明日一日別ルートを通って元の街に戻る。
本来は四か所を数日で周れば良い仕事だが、強行軍で四か所を一気に回って来た。
初仕事だった事も有り、予定より遅くなったが無事に到着した。
すっかり夕暮れになったが、何箇所か残っている焚火の跡が空いていたのでその一つを確保する。
道中集めておいた枯れ木に火を百円ライターで火を点ける。
〝焚火〟
これもまた目的の一つだ。
燃える火を見ると落ち着く、なんてことは無いし前世でキャンプが趣味だった訳でも無い。
それなりの太さの枯れ枝にまで火が点けば、焚火は安定するだろう。後は火を絶やさないように気を付ければ良い。最も消えても俺はライターがある、だからあんまり関係ないが。
ここからが目的の本番だ。
細い枝の先端に火を移し、自分の座る前の地面に根本を埋める。
燃えている先端の左右に手をかざし意識を集中する。
火魔法の練習だ。
これまで火を揺らすことで火魔法を覚えようとした。その結果!!
俺は風魔法を覚えた。
そりゃ火を揺らすのは炎じゃないしな。
狙いは外れたが、目論見は大きく間違っていない筈。
では火を揺らすのではなく、火を大きく出来れば良いんじゃないだろうか?
そう考えて俺はさらに練習に取り組もうと思った。
ティルナ・ノーグの拠点には魔石を使うコンロみたいな魔道具がある。
それを使って練習していたのだが、魔石が勿体ないからやめろと、その建物を管理しているリーダーの家族に言われてしまった。
ダリーシタの街の冒険者ギルド前の広場は野営は出来るが、火を起こせない。火事になると大変だからだろう。
なので火を起こせる他所の村に泊まりに来た訳だ。
夜は長い。
どうせ寝床と食事は〝ルーム〟頼りだ。そこまで野営の準備は必要無い。
俺たちが放り込まれたダリーシタはこの世界基準で街と言える規模らしい。
こうやって外に出るとそれは良く分かる。周辺は人の手が入っていて割と安全だ。
そのダリーシタから南と西に向かって人間の住む領域が現在も開拓されている。
ということはそちらに進めば進むほど、危険度が高まる。強い魔物が出る。
対して北東にずっと進むとこの国の首都があるらしい。
今回手紙を届けているこの方向はルートを選べばあまり危険はない。
勿論魔物は出る、だから絶対は無く、冒険者の仕事になる。
それでも新人が手紙の配達を受けられる程度の危険度だ。
勿論推奨ルートの外を通れば危険度は跳ね上がるが。そこまでお馬鹿はあまりいない。
なので新人冒険者は自然とこちら方面で仕事する事が多い。
という事は知っていたのだが、ここでまさか知り合いに会うとは想定していなかった。
今村に入って来た五人。その集団の先頭にいる男、見覚えがある。
初日に会った
覚えているか分からないが、一応声を掛けておくべきか。
「で、どうよ最近は? 一度誘おうと思ってたんだがあんまり見なくてな、どーしてるかと思ってたんだ」
焚火に枝を突っ込みながらレオンが言う。
彼はこっちの世界に送られた日に知り合ったライオンの獣人で、同じ新人冒険者だ。
この村に宿屋はない為、外から来た人間は入り口周辺でキャンプをすることになっている事は調べてあった。
宿代を浮かせ、ついでに魔法の練習をする為にこの村で一晩明かす事に決めたのだが、彼らもちょうどここに来たらしく
ちょうど良いと、俺が確保した焚火の周りに一緒に陣取る事になった。
一人増えれば火の番の人数が増える、つまり寝る時間も増える。そう言われると反論が難しい。
適当に過ごして〝ルーム〟に入って寝るつもりだったのだが、当てが外れた格好だ。
集団での野営の練習と考えれば悪く無いので割り切るしかない。
おかげで日本円も使わなくて済む。
本音はマットの上で寝たかったけど。無理して四か所も周ったからさすがに疲れた。
ただその前に少しお喋りタイムだ。
「あーずっとバタバタしてたよ。手持ちがなかったからさ。
今回やっと外に出る仕事を受けれた。それまで薬草採取ばっかりしてたよ」
「だろうな、何にしてもまずは装備だ。俺たち新人は金を貯めて、まともな武器防具を手に入れるところからだしな」
その言葉に何人かが頷いた。
初心者セットをもらえた俺たち元日本人と違って、こちらの世界の出身者はまず武器を買う所から始めなければならない。
レオンも剣は持っている。次は防具を揃えたいらしい。
彼以外に四人の男女がいるが、上から下までしっかり揃えている奴はいない。皆何かしら欲しいモノがあるのだろう。
そう考えると元日本人は恵まれている。一揃え貰えたからな。
おかげで調子に乗る奴も出て来る訳だが。
最もそれでも足りない部分があるのが現状だ。
アオバたちはまず靴が欲しいと言っていた。
学校指定のローファーでこちらに送り込まれたので、靴擦れで大変らしい。
そう考えると作業服の俺は運が良かった。安全靴で歩くのも慣れているので今の所全く問題が無い。
〝ルーム〟の百均コンビニで靴下も買える。
「一人でここまで来れるなら結構稼げたんじゃないか?」
今日初めて会った
長髪ロン毛で、俺よりも背が高くゴツイ。役割は
殴り
レオンと一緒にいたのは四人の男女で人数は合計五人。
そのうちレオンを含めて三人と俺は初日に会っているらしい。ロン毛の彼ともう一人は今日初対面だそうだ。
この五人は正式なパーティではないらしい。
こうやって一緒に仕事をして新人冒険者のコミュニティを作っていき、その中からだんだんパーティを組むような関係に発展していくのだろう。
「だったら良かったんだけど。初めて配達依頼受けたから、極力魔物は避けて来たからそっちの稼ぎはあんまりだね」
「ふーん、それもちょっと勿体ない気もするな」
「今回は道を覚える勉強だと割り切るよ。次はその辺も考えてやるし」
冒険者が別の町や村に手紙を届ける仕事は珍しくない。
だがそれ単体ではなく、向かった先に別の目的がある事が一般的だ。
俺はアオバたちのグループと手を組んだので、交換する情報が主な目的だ。
「情報交換をしよう」と持ち掛けた俺が、碌に情報を提供出来ないんじゃ本末転倒だ。
積極的に調べに出る必要がある。
だから戦闘は最低限しかしなかったけど。今日はまだ戦った事のない魔物だけだ。
知らない魔物でも一匹殺せば逆算は出来る。
俺単体で答えは出なくても、アオバのグループと擦り合わせれば仮定が出来る。
なのでそっちは急いでいない。
それよりも調べておく事が他にある。
道、そこに出る魔物、何処の町や村で何を作っているか買えるか、そして売れるか、などなど。
〝ルーム〟はこっちの世界の物を持って入る事も出来るし、中に置いておく事も出来る。
ほっとくと七日で消えちゃうんだけど。
なので上手く使えば交易も難しくない。積極的に利用して金稼ぎをするべきだろう。
「お、次になんか仕事やる事あれば声を掛けろよな。新人はこうやって何人かで仕事をやって、コツコツ稼ぐもんなんだぜ」
獅子人族のレオンが背中を叩きながら言って来る。結構力は強い。流石肉食系獣人族だ。
頼もしいと言えば頼もしい。なので機会があったら是非誘おう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます