第57話 お使いクエスト② カップ麵


「ところでよ、その模様のついた変な容器は何だ?」


「俺の夕飯だよ。地元の物だからこの辺じゃ馴染みが無いだろうけど、別に怪しい物じゃないよ」


 俺の夕飯に用意してあったカップ麵を目ざとく見つけたレオンに問われた。

誰かが合流してくると思わなかったから出しっぱなしだった、失敗。

 お湯を注げば食べられるので、意外とサバイバル向きの品だ。

寝具と迷ったが、この仕事を受けた事で先に小さな鍋を一つ買った。

二件目の契約店舗をお値段以上のあの店にしたのはこの辺も考えてだ。

皿やコップは百均コンビニで良いけど、調理器具や生活用品はそれなりの品が欲しい。


カップ麵、インスタントラーメン、粉スープ、インスタントコーヒーetc


 鍋あればどこでも食べられる。買い置きがあればだけど。

何度も出入りするとお金が掛かるのでいくつかは一緒に買っておいた。

水もコンビニで買ってある。持ち歩くにはちょっと重いけどな。

火魔法の次は水魔法だ。覚えれば水も買わなくて済むだろう。


 問題は鞄かな。

今回はゴンザレスにズタボロの背負い袋をもらえたのでそれを使っているが、ボロボロなのでもう長くは使えない。見栄えもあまりよろしくない。

駄目だコイツ、早くどうにかしないと。

 とはいえこっちでまともなのを買うと高い。日本製を買うには契約店舗の問題がある。

次の店舗はどうするか・・・・・・

当面レベル10にするつもりはないからゆっくり考えるか。


「せっかくだ、少し食べてみるか?」


 そう聞くと頷いたので焚火の周りの石を動かして鍋を乗せ、そこに水を入れる。

少し多めに沸かしてついでにスープでも作るか?

目分量でカップ麵の分きっちりの水量は難しい。だが、計量カップまで買うのはね、さすがに勿体ない。

 お湯が沸いたらカップ麵に注ぐ。

今日は醬油味。カップ麵の中ではオーソドックスな味と言える。

味噌とかカレーだったら、こっちの奴には食べにくかったかも知れない。

ん? 醬油でも一緒か? まぁいいや。


「これしか持ってないから、一人一口ずつな。レオンから回してくれ」


 俺の右横に座っていたレオンに渡す。

そのままぐるっと回して食べてもらえば良いだろう。

俺の左横に座っているロン毛ヒーラーは最後になるが、そればっかりは仕方が無い。


「あ、熱いから気をつけろよ」


 三分置いたとはいえ熱湯で作ったからな。

食べなれないとその塩梅も難しいだろうが、いきなり掻っ込まれて吐き出されても困る。

これしか持ってないは嘘じゃない。カップ麵の買い置きはそれで最後だ。

〝ルーム〟に入れば買えれるけど。野営に組み込まれるなら今日はもう入りたくないよ。

入るのは明日になってお別れしてからだ。数字の変化を確認しなければならない。


「お、おう。確かに容器まであっついな。つーか、なんだこれ? 初めて見るぞ」


 プラ容器などこの世界に無いのだろう。興味津々で見ていたレオンだが「早く食べろ」という周りの視線に気づいてゆっくりフォークに巻いて一口を口へと運ぶ。

そして目を見開いた。


「なんだこれ、うっまー」

「おい、一口だぞ。他の奴の分が無くなる」

「ねぇ、あたいにも頂戴よ、早く」


 そのまま一気に食べ始めそうな勢いで叫んだので慌てて止めた。

レオンの隣の女性冒険者が唾を飲んでせがむが、一人一口だかんな。

あと自前の食器で食えよ。虫歯とか移ると嫌だし。


「なぁ、アキノ」


「ねだられても無いもんは無いから無理だ。そのうち手に入ったらな」


 そこにいた皆が気に入ったらしく一口食べて回して、を繰り返してカップ麵は無くなった。

手に持った空の容器を切なそうに見つめたままレオンが声を掛けて来たが、そんな事言われても無理だし。


「えっ、これまた手に入るのか? なぁそん時は俺も頼むよ」

「あたいにもお願い」


 他の連中も食いついた。また手に入る的言い方は失敗だったか。

とはいえカップ麵の安いヤツは〝ルーム〟で百円で買える。

今後も有効活用するつもりだ。なので食べてるところを見られる可能性が有る。同期だし。


 今回俺は一口も食ってないけど。

仕方が無いのでウサギ肉で凌ぐ為に調理に入った所だ。途中で一匹仕留めといて良かったぜ。

 串に刺して焼く串肉を三本。残りは細かく刻んでスープでいいか。

カップ麵のスープがあればそれも使いたい所だが全部飲まれてしまった。

道中で買ったキャベツっぽい葉野菜を手で千切って、と。

味付けは塩胡椒、だけじゃ物足りないから顆粒コンソメも使うか。

 コンソメと味の素は元日本人には必須だろう。便利で失敗しないマストなアイテムだ。

でも今の俺には高い。だからちょっとだけ、よ。


「あんまり期待はしないでくれよ。地元の物だから狙って手に入るもんでもないし」


 嘘だけどな。だが今後、頻繁にせがまれても困る。

どっかで一緒に仕事する事でもあれば

「あーそうそう、運良く手に入ったんだけど食うか? あ、でも一個しかないぞ」

くらいで良いと思う。餌付けは良くない。


「・・・・・・あのさ、アキノ・・・・・・くんもニフォン村の人なのかな?」


 焚火の向こうに座っている銀髪の魔女がおずおずと聞いてくる。

名前は〝アイリーン〟さん。自己紹介はしたが喋るのは初めてだ。

彼女はレオンと知り合った時もいたが、その時も一言も発してない。


 長くストレートの美しい銀髪にグレイの瞳。

実は最初に会った時から目を引いた。そのくらい容姿は整っているのでよく覚えていた。

透き通るような声も良いね。

何となく氷魔法とか連発しそうな雰囲気を持っている。

だが彼女も回復役ヒーラーだそうだ。そして俺と同じ均人族ヒューム


 改めてすっげー美人だなとは思っていたが、しばらくしたら同郷の先輩冒険者のパーティに入る事が決まっていて、その中に彼氏がいるんだそうだ。

誰かヒト彼女オンナには手を出さない』

前世からのマイルールだ。to loveる揉め事は面倒くさい。

なのでこっちからはなるべく話しかけないようにしてたんだけど話しかけられちゃったぜ。

やめてよ、意識しちゃったらどうしてくれんだ。聞かない訳にいかないけど。


「あー、そうですね。でもニフォン村の名前が出ると嫌な予感しかしないけど」


「チームジャパンってパーティの人たちがいてね。その人たちが食べてたのに、似てるなって。あっちのはもうちょっと黄色い容器だったけど。

食べたかったら・・・・・・ううん、なんでもない、んだけど。あの時は断ったから食べられて嬉しいよ。ありがとう」


「いえいえ。それにしてもチームジャパンって・・・・・・ うへぇ」


 マジ死んでくれないかな~、何で自分たちが日本人代表みたいなチーム名を名乗ってんの?

ニフォン村のチームジャパンならまず間違いないだろう。


「おい、アキノ。なんかすげー殺気が出てるぞ、どうかしたのか?」


「お、おう。すまんな」


 反射的に魔力を練り上げて周囲に放出していたらしい。

〝風魔法〟を覚えた時に〝魔力操作〟と〝魔力放出〟を一緒に覚えたのだが、まだちょっと操作が甘いんだ。感情が乱れると垂れ流しになる。怒りの感情と一緒に魔力が溢れると威嚇した魔力になる、らしい。


 レオンとロン毛ヒーラーの二人以外はちょっと怯えた顔になっていた。

魔力の基礎値が離れるほど、影響を受けるとエルフの師匠筋クレアさんが言っていた。

その二人は魔力が高く、他の三人は魔力が低めという事になる。

悪いことしたな。改めて謝っておく。


 だがとなるとレオンとロン毛の彼は有望そうだ。

勿論それだけじゃ全ては計れないが、参考にはなる。

ここはロン毛呼ばわりは止めて、ちゃんと名前を覚えておくべきだろう。

〝フォルサマー〟 冒険者ネームはフォル。同い年の15歳。

青い髪を肩口まで伸ばしたつるつる卵肌で、背が高く体格も良い。

 魔力が低いのを補うために杖でなく鈍器を携帯しているのかと思っていたが、基礎値8の俺の魔力を浴びて平気な顔をしている。

焚火を挟んで対面のアイリーンさんはちょっと青い顔してるのに。

ちなみに彼女も同い年で登録ネームはそのままだ。


 それにしてもカップ麵ごときで何要求したんだ同郷の馬鹿どもは?

 確かにこっちの食糧事情考えるとカップ麵は味が濃くて美味い。

 けどそんなんで引っかかる奴いんのか?

 断られたみたいだし、ざまーみろだ。

 エロ漫画か成人ビデオの見すぎだ。

 今度俺も試しにや・・・・・・・


 いや、恥ずかしくて無理だ。そんな事言葉に出来ない。

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