第58話 スキルとレベル


 翌日の夕方、初めてのお使いクエストを済ませた俺はそのままゴンザレスに捕まった。曰く「悩みがあるなら聞くぜ?」との事。


「別に悩んでないんだけど・・・・・・」


 同郷のお馬鹿たち? そのうち痛い目にあうのは確定らしいからざまぁ待ちだ。

強引に呼び止めたんだから話があるのはあんたの方だろう、と視線で答える。


「マドロアの嬢ちゃんの事なんだけどな」


 そんな所だろうとは思った。


「別に問題無いよ? 薬草採取をしてる分にはだけど。会話は一切ないが、別に悩むような事でもないよ」


 彼女は聞いていた通り採取に慣れているので手際が良い。

俺が一人で薬草を採取しに行く三倍くらいの量が彼女と行けば採れる。

話しかけられる事は無いけど、それでも不満は無い。

 理由は尻。

マドロアさんは多分ワンサイズ小さい、ピタピタのズボンを履いている。

なので薬草採りをしていると形が良く分かる。屈むからね。

一人だとこんな目を楽しませてくれる物は無いしな。それだけで悪く無いとは思える。

もう少し会話が出来ると良いんだけどね。


「ん~、あんちゃん相手だから遠回しに言わないではっきり言うがよ。

可能なら早めにレベル10まで引き上げてやってくれねぇか?」


「・・・・・・俺まだレベル5なんだけど? それならレベルが10を超えている奴と組んだ方が早いんじゃないの?」


 少し考えてそう答えると盛大にため息を吐かれた。

人見知りで他の奴と組めないのは知っているけどさ。俺にも都合ってもんがあるんだよ。


「あんちゃんはスキルを取る事を優先しているだけだろ?」


「そうだけどね。別に問題は無いでしょ?」


「あんちゃんはな。単体としても素材が良い上に、先輩冒険者とのコネがある。

ただ嬢ちゃんの方はなぁ、問題が多い上に登録してもう半年だ。そろそろランクを上げてやらねぇとその話がずっと尾を引く、それが心配なんだとよ」


 ゴンザレスではなく、先日マドロアさんと一緒にいた女性受付職員の気持ちらしい。

まるでお母さんみたいだな。面倒見が良いのか心配性なのか。

どっちにしろ彼女の受付には絶対並ばない事にするけど。


「影魔法の前提条件を教えてくれたらレベルを上げるほうにシフトしても良いけど」


「悪りぃ、そいつは俺にも分かんねぇ。やっぱあんちゃんも使えないのか?」


「うん、スキルを持ってるのは確かなんでしょ? でも発動しないんだ」


 ゴンザレスからも習得しているスキルとして言われているし、〝ルーム〟でも確認できる。

だが何も発動しない。だから困ってるんだ。

ちなみに教えてくれたらレベル10まで頑張るとは言っていない。

教えてくれなかったから無意味だったけど。


「たまにいるんだよ、スキルを所有してるけど使えないって奴。持って生まれた才能だって話なんだけどな。簡単なのなら教えられるんだが、〝影魔法〟は俺が現役の時もあんまりいなかったしな。

・・・・・・あんちゃんに言うのもアレだが、珍しいわりに不人気な魔法だしな」


「それは知ってるからいいよ。でもリストに載ってる以上は使いたいじゃん」


「その気持ちは分かるぜ」


 影魔法が不人気なのは珍しいスキルだという事もあるが、それ以上に威力が無い事が問題らしい。

〝シャドウダーツ〟というスキルを最初に覚えるそうだが、チクッと針を刺したような痛みしかないスキルだそうだ。そしてレベルが上がっても威力は上がらないとか。


 だがそんなことはどうでも良い。

俺をこちらの世界に送りこんだあの婆さん女神が持たせたのだ。

何かしらの意味がある筈。

仮に無くてもだ、私は一向に構わん。一つずつやるだけだ。


「使ってる人がどんな人だったか覚えてたら教えて欲しい」


「おう、そうだな。

そういや、魔法使いってタイプにゃあんまり、いや全くいなかったような気がするな。

俺が・・・・・・知ってる奴で影魔法を使ってるのは二人だけだが、あーそうだな。どっちもあんちゃんが目指してるような剣術も使えて魔法も使える器用び、いや万能なタイプ。

いわゆる魔法剣士って感じのスタイルの奴だったぜ」


 この野郎、器用貧乏って言いやがった。

あれもこれもと目指すとそうなるのは分かるけどな。


「一応言っておくと俺は万能型を目指してるんじゃなくて一通り経験してからメインウエポンを決めようと思っているだけだよ。勿論金が無いってのもある。だから最終的にはお財布と相談だ。

どっちにしろ武器を無くした時に死んだ仲間の武器で戦う、って場合だってあり得るじゃん?

そん時にこの武器は使えません、って言っても敵は待ってくれないだろ?」


「がははっ、仲間が死ぬ前提で考えてるとこがあんちゃんらしいぜ」


 笑いごとじゃないけどね。でもそのパターンは有りうるだろうに。

想定しておく必要は有る。


「あーそうだ。剣術とかの武術系のスキルってさ、実際に戦闘でその武器を使わないと覚えない感じ?

俺訓練所の教官にも、ティルナ・ノーグのレイシュアさんにも片手剣術と盾術はスキルレベル1くらいは取れるってお墨付きをもらってるんだけど、一向に覚えないんだ」


「がははっ、そういやサムソンの奴が褒めてたぜ。あんちゃんはほっとくと動けなくなるまで訓練してるだろうって、だから定期的に止めないと早死にするってよ」


「それは絶対に褒めてないと思う」


 俺的には訓練所の教官なんぞ時代錯誤の昭和の体育教師みたいな根性論者で、ひたすら訓練してる分には文句を言わないと思っていた。だがこれが意外と体調管理にうるさいのだ。

 そりゃ俺だって毎日死にそうになるまで鍛えたら駄目だと思う。

でも肉体が十五歳に若返ったんだから一日二日追い込んでも問題無いと思うんだよ。

しっかり飯食ってちゃんと寝れば回復すると思う。

 だが長い時間訓練所にいると追い出されるのだ。

仕方ないので資料室にいる時間を長くして調整している。おかげで読みは大分出来るようになった。

書きがまだ怪しいけど。


「そんなちょっと変わった奴のが伸びるもんだからな、褒めてるさ。期待してるから心配してる。そこんトコロを分かってやってくれな。

で、質問の答えなんだがな、イエスだぜ、あんちゃん。スキルレベルはその武器で魔物と戦わない限りレベルは上がらねぇ」


「ふむ、やっぱりか」


 現在の習得スキルは


『短剣術 レベル1』 『 槍術 レベル1』 『棍棒術 レベル1』

『 体術 レベル1』 『投擲術 レベル1』 

『影魔法 レベル1』 『風魔法 レベル1』 

『 解体 レベル1』 『錬金術 レベル1』


『攻撃力向上 レベル2』 『攻撃速度向上 レベル1』 『 器用向上 レベル2』

『 魔力操作 レベル1』 『詠唱時間短縮 レベル1』 『 魔力放出 レベル1』

『  計算  レベル2』 『  幸運   レベル1』


『筋力値 上昇(小)レベル2』 『速度値 上昇(小)レベル2』

『耐久力値上昇(小)レベル2』 『器用値 上昇(小)レベル2』

『魔力値 上昇(小)レベル2』 『精神力値上昇(小)レベル2』

『運のよさ上昇(小)レベル2』 


 こんな感じになっている。

 〝短剣術〟は元から所持。〝体術〟はウサギを蹴り殺したりゴブリンを蹴っ飛ばしてたから順当と言える。

 〝片手剣術〟と〝盾術〟はかなり早い段階から教わっていたのだが、一向にスキルを得られなかった。

〝槍術〟と〝棍棒術〟の方が後発だ。だがは多分棒を振り回しているからだろう。技術として習ってからは突いたり薙いだりもしていた。だからか、すぐ覚えた。となると今後


 片手剣術を覚えるのに片手剣が

 斧術を覚えるのに斧が

 両手剣術を覚えるのに両手剣が

 突剣術を覚えるのに突剣が

 弓術を覚えるのに弓が


 必要じゃんか!!

あと杖術とか双剣術もあったんですけど?


「金が掛かる事で、くっそぅ、だからみんな専門的に鍛える訳か」


「手が無いでも無いけどな。例えば武器を使う魔物がいるだろ? オークとかな。

レベルをあげてそいつらと戦えるようになって、奪い取っちゃえば良いんだぜ。勿論要らなきゃ冒険者ギルドで買い取るからよ、金も稼げるようになる訳だ」


 資料室で見た限りじゃ、オークは討伐推奨ベースレベルが20くらいだった筈だ。

広く浅くで手広くやって来たが、ここら辺がその限界かな。

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