第59話 カゴとガキ


「うーん、まぁしゃーないな。現状維持でいいや」


まだ慌てるような時間じゃない。

俺の中でとげとげ頭のバスケットマンがそう言っている。


「おいおい、あっさりしてるな、あんちゃんは」


「焦っても変わんないじゃん。それで急いでレベルを上げても解決しなそうだし」


 多分そうさせたかったんだろうけど。

他所は他所、うちはうちですよ。


「あんちゃんがやる気になってくれりゃと思ったんだが、甘かったか」


「別に恋人でも何でもないし、自分の都合を後回しにしようとまで思えないよ。武器が無ければ魔法を鍛えれば良いし」


 冷たいようだが所詮は今だけの関係だ。会話がない以上長く一緒にいることは無いだろう。

ベースレベルを上げるよりも先に、スキルを上げるべきだと言う気持ちに変わりはない。

そもそも影魔法の事が解決していない。


「あー、やっぱ気づいてねぇよなぁ。こればっかりはな、しゃーないか」


「何かあるの?」


「何かって言うかな、人見知りで俺の顔を見ると泣くような子がだぜ。

あんちゃんとならって言ってる、その理由とか・・・・・・・考えねぇか?」


「切羽詰まってるからじゃ?」


「かぁ~、これだ」


 人を朴念仁みたいに言うんじゃねぇよ。

そりゃ今の所採取に行く事を向こうから断ってきた事は無いし、人見知りって割には大人しく付いてくる。それは少し不思議だったけど。

それで意識されてるとか、惚れているとかにはならんだろうに。


「何? ゴンザレスのおっちゃんは俺とマドロアさんをくっつけたいの?」


「んー、そうなれば良いとは思ってるがよ、別にずっと一緒にいろとかそう言った話じゃねぇぞ?

なぁあんちゃん、冒険者の男女なんてくっついたり離れたりするもんだ。だからあんまり難しく考えなくて良いんだぜ?

 魔物と戦ってりゃ明日には死ぬかもしれねぇ。自分でもそう言ってたじゃねーか、死んだ仲間の武器をってな。その感じだとあんちゃんからも殆ど話しかけてねぇんだろ?」


 エスパーか? だって人見知りで男と話せないって聞いてたし。

泣かれても拒否られても返事が無くても面倒くさいんだよ。

それにしても冒険者って軽いのな。出会って別れて大変だ、ってか。国民的アニメのエンディング曲を思い出した。

 きっと神様も辛いんだろう。そんな話をされて俺も辛い。


「わかったよ」


「お、わかってくれるかあんちゃん! あいつも喜ぶぜ」


 あいつとは多分一緒にいた受付職員の事だろう。別にその人を喜ばせたい訳じゃないから俺には関係ない。


「〝影魔法〟を使えるようになったら積極的にレベルを上げる。その方向で今後とも頑張る。だから何かわかったら教えてくれ。さて、この話はお終いだ、また明日な。訓練所に行ってくるわ」


「おい、何も変わってねぇじゃんかよ???」


 人はそんなに簡単に変われないのだよ。先に訓練所の登録をしてもらっておいて良かった。

逃げるように受付を離れた俺の背中に


「あんちゃ~~ん」


 というゴンザレスの声が響く。

やめろよ、変な目で見られたらどうすんだ。

ったく、今後は他の受付を使っちゃうぞ?








 翌朝、マドロアさんと待ち合わせの場所に行く。

時間は日の出くらい、待ち合わせ場所は冒険者ギルドのロビーだ。

 いつも同じ時間に同じ場所だが、不思議と日本人には全く会わない。

多分九時五時とかほざいて仕事を選んでいるんだろう。別に会いたくないから良いんだけど。


「おはようございます」


「       っ!」


 やって来たマドロアさんに挨拶をするとビクッと身体を強張らせた。

ほら脈無しじゃん。この反応で惚れられてるとか思ったら自惚れが過ぎると思う。

良く考えたら俺毎日ちゃんと話しかけてるよ、挨拶はちゃんとしてるし。

最低限の礼儀ですよ。返事は滅多に返ってこないけど。


 返ってこない返事を待ってても仕方が無いので採取カゴを借りに行く。

朝はどこの受付も混んでいる。仕方が無いので暇そうな強面受付の所に行くしかないな。


「おはようございますゴンザレスさん。今日も採取カゴをお借りしたいです」


「あんちゃーん、あれだ。昨日は俺が悪かった。余計な事言い過ぎた。謝るから忘れてくれ、で、普通に話してくれ。な、この通り」


 両手の平を合わせて許しを請うゴンザレス。

別にそこまでさせるつもりは無かったのだが、丁寧に話しかけられる事を嫌うこのおっさんには想像以上にダメージがあったらしい。


「分かったよ、今日もマドロアさんの分だけで良いよ、カゴを貸して」


 忘れてはやらんけど。むしろ意識してしまって困ってるくらいだ。

カゴは何種類かサイズが有り、俺が背負うカゴとマドロアさんが背負うカゴは大きさが違う。

お前も背負えと思うだろうが、俺はバトル要員だからカゴは背負えない。いざという時に困る。


「お詫びと言っちゃなんだが一個教えるぜ。街の外に出る門のとこにいつもガキがいるだろ?

アレは冒険者の手伝いに雇われたくて待ってんだ。あんちゃんと嬢ちゃんのランクなら一人につき一人なら外に出る税金が免除される。子供ガキ限定だけどな。報酬は一人三十ゼニーくれてやれば良い」


「へー、そんな制度があるんだ? でも三十ゼニーか、結構高いな。俺が初日に稼いだのいくらだっけか」


 二人なら六十ゼニー。

初日はそこまで稼げなかったと思う。


「高いと思うのはマドロアの嬢ちゃんのカゴがいっぱいになったら戻って来てるからだろう?

ガキにもカゴを持たせて、それいっぱいまで採ってくりゃ稼ぎは増えるんじゃねーか?」


「なるほど、そんなに簡単に行くかは兎も角試してみる価値はあるか」


 マドロアさんのカゴだけだと一個分だが、ガキを二人連れてけばカゴ三つ分の計算か。

尚、カゴのサイズに関しては考えない事とする。


「だろ? 一回やってみろ。注意点として、ガキには過剰に報酬を与えるな。

相場を崩すと同業者に嫌われるからな。そこまでの価値のあるガキなんざ滅多にいねぇしよ。

その場合専属契約って方法もあるが、あんちゃんらにはまだ早ええ。当面は三十ゼニーで充分だから、帰りはカゴを持ったままここに連れて来い。報酬分を引き出して、それだけ渡せば良いぜ」


「分かった。やってみるよ」


「おう、それじゃ子供用のカゴも二つ持ってけ」


 ゴンザレスから小さ目のカゴを二つ。マドロアさんの分と合わせて三個もらった。

あ、これ、俺が彼女に説明しなきゃいけないのか。




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