第60話 泥沼


「おっ、戻ったかあんちゃん。なんというか・・・・・・大惨事って感じだな」


 ゴンザレスの提案通り、街を出る門の所にいた子供を二人雇って薬草の採取に行き戻って来た。

その姿を見てゴンザレスが苦笑いをして言う。


 俺の下半身、作業着のズボンは膝まで泥だらけで、マドロアさんと子供二人は泣きじゃくっている。その姿をみればさもありなん。泣きたいのはこっちだけどな。


「とりあえず俺の口座から六十ゼニーをくれよ。子供二人は帰らせたい」


 邪魔だから、という気持ちを込めて言う。それを察したのだろうすぐに冒険者証を受け取って用意してくれた。

今日雇ったのは十三歳だという男子二人。泣いているのは拳骨を落としたからだ。

場合によっては俺は体罰も躊躇しない。

二人に背負わせていた採取カゴを受け取って三十ゼニーずつ渡して帰らせる。


「んで、何があった?」


 採取カゴを合計三つ受け取りながらゴンザレスが問う。

泣いたまま渋るマドロアさんを椅子に座らせ、俺もその横の椅子に座る。

汚れたズボンは軽く洗ってあり、帰り道で大分乾いているから見逃してもらおう。


「荷物持ちだから男子のが良いと思ったんだよ、力があると思ったからさ。それが失敗だった。

採取してるときにふらふらしやがって、ゴブリンを誘き寄せやがったんだ」


 群生地を見つけ、マドロアさんだけに押し付けるにはちょっと多い、時間が掛かると判断して俺も手伝う事にした。

子供二人には周囲を見張って何かあったら声を掛けろと言っておいたんだが。

虫かなんかを追いかけて離れていきやがった。

そこをゴブリン五匹に見つかって追いかけられ、逃げて来た。

それもただ逃げて来ただけでなく、群生地に飛び込んで踏み荒らしてくれた。


「ゴブリンにはバックアタック喰らった形になるし、参ったよ」


「ふーん。でも無事だったんだろ? マドロアの嬢ちゃんは何で泣いてるんだ?」


「あー、別に気にしないで良いって言ってるんだけどね。〝 泥沼 クァグマイア〟を誤爆して俺を沈めただけだよ」


 ゴブリン五匹を迎え撃とうって時にいきなり、膝まで沼ったからちょっとビビったけど。

別に俺は近距離近接戦闘特化でも無いし。

思ったより魔法範囲が広く、しっかりゴブリンどもも嵌ってたから問題なかった。

 持ってた石を投げて、覚えた風魔法ぶっぱなして、すれ違いざまに短剣で喉引掻いて沼りながら三匹動けなくしてやった。

焦りはしたが誰かと行動する以上ミスは織り込んでおくべきだと思っている。

ピンチの時こそ冷静に、だ。

 ゴブリンは男より女を狙うから、俺を沼らせて困るのはマドロアさんだし。

取り逃がした二匹が魔法範囲を抜けて彼女を追いかけ回してるところを後ろからグサッとやってやった。それで御終いだ。

俺のズボンと安全靴以外はみんな無事だった。

だから気にしなくて良いって言ってるんだけど、ガキどもに拳骨落として以降彼女も泣きっぱなしである。


「ふーん、なるほど。別にあんちゃんが怒ってないなら気にしないで良いだろうな」


「怒るような事じゃないでしょ。連携が上手くいかないのは練度のせい。つまり半分は俺のせいだ。

むしろレベルの高い魔法を使えるのが分かって嬉しいくらいだ」


 たしか〝 泥沼 クァグマイア〟は水と土の魔法レベルが2は無いと実用できない魔法だ。

最低それだけ必要ってだけで、使いこなすのはもっと難しいと聞く。

ベースレベルが6でそれが出来るんだから、凄いと思う。

彼女は魔物に攻撃できない、って事で自分が出来ることを色々考えたんだろう。

そして使えるように努力したんだろうよ。

正直見直した。


「本当に俺怒ってないですよ? 次は使う合図決めてやりましょうよ。

また明日からもお願いできますか?」


 マドロアさんは大きく目を見開いたあと、たっぷり一分くらいかけて頷いた。

問題ないなら良し、だ。


「差し当たって明日からは女の子を連れて行く事にしましょう。あの年代だとその方がいくらか落ち着きがあると思うんで」


 自分の子供の頃を顧みるに、女子の方が精神的成長が早い。

小学校高学年、中学生くらいだと男子はまだ精神的に子供な奴が多い気がする。

 今日の二人はマドロアさんに対し舐め切った態度を取っていただけでなく、採取中は尻ばっかり見てやがった。あのエロガキどもめ。

 ん? もしかしてそれを注意したから離れやがったんだろうか?

・・・・・・ いや、関係ないな。あやつらが馬鹿だっただけだ。

 まぁ当面あの尻は俺の、じゃないけど俺の観賞用で良い。

明日からはマドロアさんに舐めた態度を取らなそうな、おとなしめの女子を連れて行こう。


 なんて考えているとゴンザレスがニヤニヤ笑って俺を見ていた。

そーゆうとこだぞ? だからお前の受付は人気が無いんじゃないか?

て、言ってやろうかと思ったが人気が無いのはこいつの顔が怖いからだ。

だからそれ以前の問題だったか、と思って言うのはやめておいた。


「なんだよ? 何かアドバイスでもある?」


「いーやー、いいんじゃないねぇの。そうやって話ながらやっていくのがパーティだぜ。

ま、紹介したのがあんちゃんで良かったと思っただけだ。あんちゃんは優しいな」


「別に優しさで言ってる訳じゃないけどね。マドロアさんの魔法を見て、頼りになると思ったから一緒に頑張ろうと言っているんだよ」


 後頭部あたりにフレンドリーファイアでも喰らってたら、絶対こんなこと言わないと思うよ。

最もパーティ設定組むと味方に攻撃魔法効かなくなるんだけど。

凄く便利だよね、冒険者証。


「前に話しただろ? 別の新人で、態度がデカイのがいるって。

あの辺は手伝いを強制する癖に、ミスると責任を執拗に追及するんだって話でよぅ。男には報酬無し、女には身体で賠償しろとか平気で言いやがるらしくてな。

本当っ、同じ新人でこうも違うとな」


「なんか疲れたように言って俺を持ち上げるけどさ、女性側がそれで気にしなくなるなら有りだとは思うよ。強制するのは駄目だけど」


 上手く行ったらご褒美だ。

 失敗したらお仕置きだ。

 アーレー


 で済む関係だったらだけどね。マドロアさんはそんなタイプじゃないし。

なんかちょっと顔が赤いから下ネタは止めとこう。

ゴンザレスとは元の年齢が近いからか、時々素が出そうになって困る。


「あれさ、冒険者で共通したハンドサインとかある?」


「おう、現役時代に使ってたのなら教えられるぜ。だがよ、あんちゃんはティルナ・ノーグの三人に聞いた方が良いんじゃねーか?」


「あぁ、今後一緒に仕事したときに違ってたら困るか」


「だな、冒険者全般の、ってのは無いからな。やっぱ近い筋で共通してたほうが良いだろうな」


 問題はそれをマドロアさんに教えても良いのかって事なんだが。

そういや師匠筋のランクアップの為の人員もそろそろ考えないとかな?

面倒見た数に入ってもらうって手もある。レイシュアさん見て泣かないなら、いける、か??

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