第61話 ティルナ・ノーグ ②


「そういやスキルレベルの話だけどよ」


「お、なんか分かった?」


「いや、レイシュアなりクレアなりに武器を借りれば早いんじゃねーのか? と思ってよ。それは駄目なのか?」


「最初はそうするつもりだったんだけどね。特に弓なんて高いし、その辺にほいほい落ちてちゃいないだろうし、魔物もそんなに持ってないでしょ?」


 自分で作るってのも考えたが、上手く作れるとは思えない。

出来てもモドキ程度だろう。実戦で使えるかというと、うーんって感じだ。

それでスキルレベルが上がるとは思えない。


「貸してもらえねーのか?」


「いや、ティルナ・ノーグの拠点に昔使ってた奴とかが俺用に置いてある筈だよ。弓と片手剣、両手剣とモーニングスターだっけか、とげとけの鈍器があるよ」


 弓はエルフのクレアさんが昔使ってた奴で、エルフ以外にも使える物を選定したら馬鹿高そうな装飾のついた弓しかなかった。

間違いなくお高いだろうから、本人の居ない所で使うのは憚られる逸品だ。

 片手剣、両手剣は鬼人族のレイシュアさんのコレクション。

あの人は武器を集めるのが好きらしく、弟子が出来たら渡そうと思って色々買っておいたらしい。

その中で特にコレ、という品をくれると言われた。

 が、さすがにそれは重いので堪忍してくれって感じだ。

差し当たり最初は刃を潰して重りがついた練習用の剣を貸してくれと泣いて頼んだ。

最初はそんなので充分だろう。勿論泣き真似で、本当に泣いた訳じゃないが、頑張って涙を流して頼んだ。

 モーニングスターは見た目幼女の大魔法使い、サトッカさんのモノ。

これは単純に要らないって言うので素直に受け取って、置いてある。

何で持ってたのかは知らないし、怖くて聞けない。

 受け取りはしたがメインウエポンにする気はない。

だって格好悪いじゃないか。

俺はこれでも紳士だぞ? 鉄球の付いたモーニングスターを振り回す紳士がどこにいる?

〝棍棒術〟レベル1はもう取ったし、当面はそのまま安置しておく予定。


「ん? どーゆうことだ? ってかそういや最近あんちゃん奴らの拠点に戻ってないな? 出かけてるのか?」


「んー、一応仕事、って事になってるけど。王都に行ったよ。もう半分のメンバー、正確にはリーダーに会いに行った」


「お、勢ぞろいして戻って来るんだな?」


「さて、それはどうなるか? って一応聞いて確認しておいたほうが良いのかな?

俺さ、こっちのルールが良く分からないから出来る事が思いつかなかったんだよね。勝手に話すのはどうかと思ってたんだけど、んー、この際仕方が無い気がする」


「ん、受付職員として出来る事なら手伝うぜ?」



 自分で抱えていても何も意見が出てこない。なのでゴンザレスに聞いてもらう事にした。


 ティルナ・ノーグの拠点はパーティで買ったと聞いている。

その拠点だが現在利用しているのは俺を入れて十四名。


・鬼人族のレイシュア

・ハイエルフのクレア

超均人族ハイヒューマン サトッカ・リリー


 この三人はパーティ『ティルナ・ノーグ』の正式メンバーで実際にお金を出した人たちだ。

『ティルナ・ノーグ』の正式メンバーは他に三人いて、その六人がお金を出し合って買った。


・「アキノ コウヨウ


 上の三人に正式に許可を得て出入りしている弟子みたいな存在モン

みたいな、というのはこの街にいない他の三人に話していないから。

個人とはある程度話がついているが、お三方はパーティの弟分みたいにしたいらしい。

それは今回王都に行って話すらしい。だがあくまでも理由のおまけだ。


 ここまでで四人。


 残る十人は誰かと言うと、パーティで買った拠点の管理を任せているリーダーの家族らしい。


・リーダーの両親       (二人)

・リーダーの妹夫婦+子供    (三人)

・リーダーの母親の弟夫婦   (二人)

・リーダーの父親の姉夫婦+子供 (三人)


 合計十人。こいつらが勝手に住んでいる。と言う事が現在抱えている問題だ。

正確にはこのまま行くと十一人と、プラスアルファになる可能性がある。

四段目の父親の姉夫婦の子供ってのが娘で、現在妊娠中。そいつが旦那と一緒に住みたいとぬかしているらしい。


 「ティルナ・ノーグというパーティで買った建物だ。勝手な事をするな」

と言うお三方。に対して


 「息子の持ち物に親や家族が住んで何が悪い。そんな事より孫が産まれて金が掛かるんだよ、息子がいないならあんたらが代わりに金を置いてっとくれよ。

出て行け? 息子の子分の分際で生意気言うな! あたしゃリーダーの母親だ! 宿でも何でも自分で借りて泊まりな」


 この街に帰って来たお三方に、リーダーの母親とやらがこう言い放ったらしい。

当然三人がそんな話に納得行く訳がなく、揉めに揉めて何とか二部屋取り返した。

その一つを男部屋としてレイシュアさん(と俺が)

もう一つを女子部屋としてクレアさんとサトッカさんが、使っていた。


 という話をしたらゴンザレスがなかなかに渋い顔になった。

うん、強面が渋面になるとさらに怖いね。


「そんな状況で睨み合ってたみたいなんだけど、ホラ。三人が俺を泊まらせたりしてたからさ。

それに対してグチグチ言ってたみたいでね。どの口が言うんだって怒ってたんだけど。

でも妊婦がいるから、追い出しまではしなかったみたい」


 俺が三人の居ない拠点に泊まらなかった最大の理由だ。

金を出しておらず権利のない他人の俺が、金を出したリーダーの家族に文句を言われるのが面倒だった。

 実際、三人がいる間でも面と向かって文句も言われたし嫌がらせもされていた。

初日に食べた料理に味がしなかったのも嫌がらせだったのだろう。俺の分だけ調味料を使わなかったという地味で陰険な嫌がらせ。

 そんな状況で俺一人だけ残るのもね。何されるか分からない。

されて我慢できなくなってやり返すのもちょっとな。妊婦に何かあっても後味が悪い。

解決するまで関わらないでおくべきだろうと判断した。


「リーダーの男はこの街の出身だもんな、あんちゃんは知らないんだっけか?」


「まだお会いした事はないね。別に会いたくもないけど」


 正直親が暴走している時点でちょっとな、という評価になる。

俺ならそんなリーダーが率いるパーティに入りたくない。


「がははっ、キツイなあんちゃんは。

となるとなんだ? 三人は王都に文句言いに行ったのか?」


「いや、場合によってはパーティを解散も辞さないって言ってたよ」


 という俺の言葉にゴンザレスが固まった。

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