第62話 ティルナ・ノーグ ③
「おいおい、それは穏やかじゃねぇな」
受付職員としての顔をゴンザレスがのぞかせた。
ティルナ・ノーグはあれでも将来有望なパーティだと聞いている。
こんな問題で解散は勿体ない、とか思ったんだろうな。
「別にそれを言いに言った訳じゃないよ。リーダーの対応次第なんじゃない?
このままリーダーの家族に住まわせたいならパーティの財布からでなく、自分の金で買えって話だろうし。
そこまでしなくても、親とちゃんと話して当初の約束通りになればそこまで拗れないと思うけど」
この街にある拠点はパーティの資金で買っていて、リーダーの両親のみ管理の為に住むという話だと聞いている。
なのになぜか三人がこの街に久しぶりに来たら、リーダーの両親が家族を呼んで住み着いていたらしい。
こんな話が通るなら誰もパーティで買いやしない。騙し討ちも良い所だ。
それでもお三方は相手に妊婦がいる、という理由で無理矢理追い出しまではしなかったそうだ。
多分そこに付け入る隙があると思われたのだろうけど。
その妊婦が旦那を呼びたい、自分たち夫婦で一部屋使いたいと言い出したらしい。
弱みを見せるとつけ込んで来るとかね。救えない。
これにサトッカさんが切れたらしい。
妊婦がいるからと、引いたのもサトッカさんらしいが。
何でも進化すると子供が産めないとか難しいとか、俺が聞いちゃマズそうな事を言ってた気がする。
なのでその話は置いておく。
兎も角、息子のパーティメンバーをどんだけ下に見ているんだか。
久しぶりに来たら置いていった荷物が全部、勝手に一部屋に纏めて山積みにしてあったらしい。
魔道具というらしいんだが、彼女の専用の道具などは適当に扱われたせいで壊れていたり、中には所在が分からない物がいくつもあるらしい。
他のメンバーの物も同じで、おそらく無い物は売り払われただろうと言っていた。
パーティがどうなるかは、その辺の扱い次第になるんじゃないかな。
真摯に対応するのか、それとも自分の親を取るか。
「ティルナ・ノーグと言ったら新進気鋭の有望株だ。出来れば穏便に済ませて欲しいもんだが」
「穏便ねぇ・・・・・・一応確認したいんだけどさ。
ゴンザレスのおっちゃんはまさか他の五人が我慢して現状維持が最善、とか言わないよね?」
そうなって、遺恨が残らない訳がない。まさかそれが分からないんだろうか?
最もどう対処しても綺麗に元通りになるとは思えない問題だ。
外的要因じゃないからなぁ。身内が一番の敵だった、なんてよくある話。
「いやいやいやいや、そこまでは言わねぇけどよ・・・・・・・
けどまぁ、うーん、どうなるか、だよなぁ? あんちゃん他の三人は誰も知らねぇんだよな?
これ知ってるか分かんねぇけどよ、そっちの三人は全員この街の出なんだよ。
どの親も全員まだここにいるし。そっちが何て言うかによるだろうし。
俺もここに住んで長いからよ、今話した奴のうち何人か知ってるし、つまりその、なんだ、なぁ?」
「つまり、レイシュアさんたちが我慢すれば良い、と」
「いやいやいや、だからそうじゃねぇって。
とはいえあんまり酷い扱いは堪忍してやって欲しいとは思ってるが」
「んー、実際の所どうなの? Cランクの冒険者パーティの、そのリーダーならさ。
『全部買い取って弁償する、だから今回はそれで許してくれ』
ってやれるくらい稼げるの?」
「んー。ランクは兎も角、デカイ山を二つ三つ当てて、その評価で安定してりゃいける。
そう考えるとティルナ・ノーグはきつい。地力は有る。
だが王都行ってから分かれて行動してるし、その分稼ぎは小さいだろう」
「この場合法律的にはどうなるの?」
「冒険者パーティが買ったもんなら家族に出て行かせるのが妥当じゃねーかな。
調べてみないと分からないが、名義によるだろう。
あんちゃんにはまだ早い話だが、パーティで買うって場合はだな。冒険者ギルドが保証して後ろ盾になるから俺らも無関係じゃねぇ話だな。ティルナ・ノーグは別に担当がいる。話を通しておいて良いか?」
「あー、やっぱ保証人みたいな制度があるのか。
小僧が何言ってんだと思うだろうけどさ。こんな話もう、当人たちだけじゃ済まないだろうと思ってるよ。リーダーの両親とその家族って第三者が混じってるし。
冒険者ギルドも関係あるなら資料とか集めておいてくれた方が、お三方が帰って来たときに話が早いんじゃないかと思う」
自称善意の第三者って奴が一番性質が悪い。この場合、勝手に話した俺かなぁ?
でもどっちにしろ一度全員で帰って来るだろう。何でしゃーない。
住み着いた奴らが素直に出ていく、これが最善なんだがまずあり得ないと思う。
素直に出ていくくらいなら最初から住み着かないって。
空き家に浮浪者が住む、のとは訳が違う。
「あんちゃんは綺麗に終わると思ってない訳だ」
「息子の家、親戚の家に住んだだけ、って思っているんだろうしな。悪いなんて微塵も思っていないと思うよ。多分説明しても『何が悪いんだ!!』って返事が返ってくると思うけど」
数日泊まらせてもらっただけだが、厄介者はこちらという対応だった。
お三方は約束だからと食事や掃除の世話をさせていたが両親は渋々って感じで、他の親族は何でこいつらは上司の親に命令してるんだ、という態度だったように感じた。
多分話がねじ曲がって伝わっているか、理解する頭がそもそも無いかだ。
「その辺も含めて一度ティルナノーグの担当に話は通させてもらうぜ?」
「あんまり外の意見は入れずに
リーダーや他の二人のメンバーはこの街の出身だとゴンザレスは言った。
勿論それがあって拠点を買ったんだろうが、それを基準に今後の裁定に口を出されてはたまらない。
それをやられた場合、余計な事を言った俺が悪くなる。
なんて自分の身のかわいさはどうでも良いがな。冗談だ。
どちらにしろ拗れれば冒険者ギルドに話が行くのはお三方も分かっていたし。
そういった対応をするなら俺たち四人が冒険者ギルドに。
もっと言えばこの街の冒険者ギルドに不信感を抱くだけの話。
別にそれを抱きたいという話ではないが。
だからどちらにもつかず、ルールだけで裁定して欲しい。
「兎に角そういった訳で武器は借りれないのさ。
三人が居ない間に俺が出入りして中の物を持ち出して、それを理由に責められても困る。
俺が世話になっているのはこの街いた三人だからね。余計な迷惑をかけたくない。恩を仇で返すような真似はしたくない」
「ははっ、あんちゃんは男らしいな。そうゆうとこ良いと思うぜ。大事だよな」
大事だ。恩には恩で。
恨みには恨みを。痛みには痛みを。
恨みつらみは百倍返しだ。
なんてことを内心で考えると顔が緩む。ニヤニヤしてしまう。
笑えてくる。色々楽しみだ。その為に力を付けないと。
気を引き締めよう、と思ったらマドロアさん目が合った。
いつも前髪で目を隠しているのに珍しい。顔は意外とかわいい。隠すのは勿体ない。
じゃなくて、いるの忘れてたわ。存在感なさすぎだろ。
関係ない人の前で余計な事ペラペラと喋ってしまった気がする。失敗だ。
「あー、っと。そんな訳で当面装備は無いんですけど、一緒に頑張ってもらえますか?」
コクコク、と二回頷かれた。早い返事は珍しい。
それじゃ今後ともよろしく、と言って今日は解散した。
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