第63話 クマちゃんパンツ
子供を連れてマドロアさんと薬草採取に行くようになって、さらに二日が経った。
いままではお昼には帰って来ていたが、採取時間は伸び15時を過ぎるようになった。
活動時間が伸びた分、収入は増えた。ウハウハだ。
というほどは増えていない。
が余裕が出来たのも事実。他の村に行くのがアホらしい程度には増えた。
それも良くないので今後の事は考えなければならない。
夕方 訓練所
採取を終えて訓練所に来た。
その系統の武器で魔物と戦わないとスキルが得られない。
という事は分かったが、だからと言って訓練をしないという事にはならない。
手を抜くつもりは無いので時間がある時はしっかり訓練をつけてもらっている。
武術系は比較的スキルを得やすいのではないかと考えている。
レベル1は今の所基本動作をしっかり押さえれば習得出来ているようだ。
最もその基本動作を覚えるのに数百回は反復を繰り返さないと見に付かないが。
この身につくまで続けてやることがポイントだ。
やって直ぐできる事が向いている事とは限らない。武術に限らず何でもそうだ。
下手くそでも何度も繰り返し身につけることが重要で、最初に出来ない事は別に仕方が無い。
ゼロをイチにすることは難しいが、とても大切だ。
だから訓練所の教官も、基礎的な事は無料で教えてくれる。
それ以降はお金を払わないと教えてくれない。
ではなくて、基礎が身に付かないと次の段階の話をしてくれない、が正解なのだろう。
そして身につけてしまえば早々忘れない。
勿論上を目指せば継続が必要だが、自転車に乗れるようになれば乗れなくなる事は無いし、泳ぎを覚えたならば、全く泳げなくなるなんて事もない。
今日現在レベル1になったスキルと、まだ覚えていないが片手剣術と盾術に関しては
その先は自分で気づくか、有料かと言う所だろう。
武器を買ったら技術を習うのも良いかもしれない。
まだまだ先は長いけど。
サムソンティーチャーの斬撃をバックステップで避けようとしたが避け切れず、動こうとしていた分後方へと一気に吹っ飛ばされた。真剣なら胸元から腹まで割かれ出血多量で死亡という所だろう。
木剣で良かった。物凄く痛いけど。
「ここまでだ。避けようとする動きは悪く無い。だが、お前なら受ければ防げただろう。まだ判断が甘い」
ごろごろ転がった後に大の字に寝転んだ俺にサムソンティーチャーが言う。
判断が甘い、か。サムソンティーチャーが天狗のお面でも付けてたら引っ張たかれたかもな。
残念ながら判断は正しい。真剣なんぞいちいち受けてたら身が持たない。
盾を持っていたとしても、その盾が消耗するだけだ。
俺の防御は回避を主で行く。
甘いのは判断ではなく、俺の動作。だから訓練をしている訳で。
「うぐっ、もう、一回お願いします」
「駄目だ、そのまま休め。動けるようになったら今日はそのまま帰れ」
なんとか上半身を起こし、声を絞り出した俺にサムソンティーチャーはそう言って踵を返した。
残念、今日はもう相手してくれないらしい。
今夜はアオバやナグモたちとまた会議室を借りて泊まる約束をしている。待ち合わせの時間まで相手して欲しかったのに。
「あー、まだまだか。くっそー、少し、休憩」
そう呟いて再度大の字にひっくり返る。訓練所では回復魔法は有料だ。
師匠筋はまだ誰も帰って来ていない。後でアオバにお願いするしかない。
自分で回復魔法が使えるようになりたい事は伝えてあり、見本でならやってもらえる約束はしてある。
勿論魔力に余裕のある時限定だ。
既に何度か回復魔法は受けているので、見た事はある。
身体を起こし、それを思い出しながら自分に掛けるイメージで魔力を練る。
残念ながら発動はしなかった。
(早く強くなりたいな、人の手を借りないで済むくらいまで)
そう思いながらもう一度大の字にひっくり返って一度ギュッと目を閉じた。
そして再度目を開く。するとそこは桃源郷エイリアン。
ではなくてブレザー学生服のスカートの中だ。
「クマちゃんパンツ、って」「し、死ねー!!」
革靴ローファーが持ち上がり、一気に迫って来た靴底が俺の視界を埋める。
「ばっ、あぶねぇな。マジで踏み落として来やがった。下段の踵とか死ぬ奴だぞ?」
何とか横に転がって躱したが、頬を掠って新たに擦り傷が出来た。
必死に立ち上がって叫ぶ。堪忍してくれ体力的にかなりきついんだ。
「パンツが見えたくらいで殺す気か?」
「うるさい! 覗き魔は死ね!」
「おい、ちょっと待て。覗いたんじゃねーよ、見せられただけだ。見たんじゃなくて見えたの。
俺はお子様パンツになんて興味無いからって、ちょっ」
目の前にいたのはブレザー学生服を着た金髪の女性で、手に木剣を持っていた。
その木剣を両手で握り、高く構えた。
「上段の構え・・・・・・って危なっ」
木剣が振り下ろされる瞬間を察知して、バックステップで一気に下がった。
「金髪に騙される所だった。剣道経験者か」
構え、姿勢、剣筋としっかり身についている。
素人がただ振り回しているだけじゃないようだ。
「うるさい! 父親が外国籍ってだけでれっきとした日本人よ。剣の道を志して何が悪い!
あんたこそ・・・・・剣道を知ってるのね、そっちのが意外よ」
「中学の時にやらされてたからな。卒業してからまったくやってないけど。
それよりあんた、初日にゴヘイの馬鹿と揉めてた人だよな?」
「だったら・・・・・・何よ」
そう言いながら目の前の女は構えを中段へと変える。
「まだやんのかよ」
しつこい。そのうえ油断できるほど甘くはなさそうだ。
さきほど俺が後ろに逃げるのを見て、今度は追いかけて来るつもりなのだろう。
突きが来る。
そう直感した直後、彼女の身体がブレた。
一気に距離を詰めてくる。
今度は左に避けて躱した。
「逃がさないわ!」
伸びきった腕を畳んで横薙ぎに切り付けて来た。
再度バックステップで逃げる。
「暴力系ヒロインとか時代おくれだし、やめない? 今なら俺が謝っても良い、見たのは確かだ」
「ふふふっ、死にたいみたいね? 言い残す事はそれだけかしら?」
その笑顔怖いです。目が笑ってない。
この女の事は覚えている。初日に俺の前にゴヘイの馬鹿と口論していた女性だ。
ブレザー学生服組を
金髪といい、派手な見た目といい、気が強いんだろうとは思っていたんだが、話が通じない系だったか。
「無駄だと思うけど、一応言っておく。話合おう、こちらには話し合う用意がある」
おそらく単純に剣道ではかなわないだろう。
だが別に剣道で勝負がしたい訳でもない。
何よりこちらは満身創痍なのだ。訓練後だし、卑怯だろう?
「黙りなさいっ!」
少し距離を取って下がった俺に、低く構えて一気に突っ込んで来る。
ったくマジかよ、この馬鹿っ。
☆★
「あっ、あんた頭おかしいんじゃないの!?」
木剣を握っていた右手の指を左手でさすり、俺の額当てを睨みながら彼女は言う。
「覚悟を決めれば一発くらいは耐えられるもんだな」
彼女は右利きだ。足の動きで分かる。
今回も俺の左方向から木剣が飛んできた。俺の顔を踏もうとした足も右脚だった。
そこまで絞れれば多少反応に余裕が出来る。
こっちの急所に当たるより先に、木剣の根本よりの所に頭から突っ込んで受け止めてやった。
もらっといて良かった額当て。彼女も同じ物をしてるけど。
お揃いだねって言ったらさらに怒りそうだけど。
額で受け止めてお揃いが怯んだ所を、盾のふちで木剣を握る指先をスラッシュ。
仮にあちらが俺より高レベルで、多少筋力が上がっていたとしても、俺だっていくつかは上がっている。
身体の末端部分ならそこまで筋力に差がつかない。指先なんて意識しないと鍛えないし。
「ふむ、シールドバッシュという
軽く距離を取って睨み合う俺たちの間に、別の女性が寄って来て問うた。
知らない人だ。だが彼女はまーた魔法使い系の恰好だよ?
日本人だろう。見覚えがあるような無いような。
それにしてもスラッシュがバッシュになってますよ? 違いが分からん。
「いきなり襲って来る人に教える義理はないかな」
そんなスキルがあるかなんて知らない。だが有りそうではある。今度調べて見るか。
襲って来たのが男だったら問答無用で殴り飛ばしたんだけどな。
女性だったし、顔は結構可愛いので殴りたくなかった。なのでこうせざるを得なかった。
彼女は初日にゴヘイの馬鹿を「セクハラ野郎」と散々罵っていた姿が印象的だった。
下手に取り押さえて同類扱いされたくないし。
「自分たちは敵ではありません、ここは許して引いてはくれませんか? ・・・・・・下着は、見たんですよね?」
見たくて見たんじゃないやい。スカートなんかで訓練所に来る方が悪いんだい。
とは言ってもそれはなかなか難しい。なのは同じ日本人なら分かる。
「服の替えなんかは俺も苦労してる。それについて微妙な言い方をしたことは、謝罪する。
でもワザとじゃ無かった。それは絶対に弁明する」
俺も百均コンビニで買ったパンツを使っている。柄は選べない。
安い品で間に合わせていればそういった事もある、のかも知れない。女性の下着事情まで把握する気は無いが。
大変だと言う事が分かってれば問題ないだろう、多分。
「リサちゃんみたいな美少女の下着を見れてあなたは幸運でした。なのでここはそちらが引いてください」
「仲間の事を美少女で言うのはどうかと思うけど・・・・・・
確かに顔の造形が整っているのは認める。だが幸運は認めない。いきなり襲われるくらいなら、って
あー、もうこの話いいや。リサさんでいいのかな?
俺が悪かった。デリカシーが足りなかった。ごめんなさい」
「ん~~~なんか不愉快。馬鹿にされてる感じがする!
でも、こっちも悪かったわよ! どーもお見苦しい物をお見せしまして、じゃなくて! もう! いいから、忘れなさい」
お見苦しくはなかったかな。
でも下着くらいで喜ぶほどでも子供でも無い。いちいち言わないけど。
手のひらを開いて両手を挙げて降参のポーズをとる。
これで忘れるって受け取ってください。
多分忘れないけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます