第30話 持ちつ持たれつで



 翌日、コウヨウとティルナノーグのメンバー三人は、町を出て北東の平原に来ていた。

この平原に多数生息しているホーンラビットを狩るためだ。


「やっぱりちょっと過保護だと思うんだけど」


 自分よりも格上の冒険者が三人も着いて来ている状況に、コウヨウが苦言を呈す。


 昨晩ティルナ・ノーグのベースで行われた話合いでの、コウヨウの提案は承諾された。


 〝冒険者として面倒を見る〟

という事が イコール 〝戦闘訓練をする〟ことだと考えていたティルナ・ノーグの三人は目から鱗が落ちる思いだったと後に語る。


 「今日は帰って仕事を探し、宿を取ってまた明日顔を出します」

と言ったコウヨウを帰らせず、結局一晩泊めさせて質問攻めにした。

 三人のうち誰かに常に質問、提案、そして相談されるという時間が続く事にコウヨウはうんざりした。だが夜朝と二度も食事まで出してもらったので(宿代飯代が浮いて助かった) と考える事にした。


「どうせ今日は一通りやってみるんだから一緒に動いた方が早いわよ」


 ハイエルフの美貌の背に朝日の光を浴びながらクレアが言う。

その顔はやる気に満ちている。

理由はここでやる事が終われば次は彼女が教える番だからだろう。それが分かっているコウヨウはちょっと嫌な予感がしたが、約束した以上は口にしなかいようにしていた。


 今日の予定はこの平原でホーンラビットを三匹だけ狩り、次は薬草を採取しに行く。

コウヨウが採取した薬草は半分だけ冒険者ギルドに納める。

もう半分を使って回復薬を作る練習をすることになっている。


 レベル10まで生活の面倒はみる。それどころかしばらくの間は面倒を見ても良い。

そう言ったティルナノーグの面々だった。

だがコウヨウが、その提案に対し首を縦に振ることは無かった。

自立する手段の確保を譲れないからだ。


『自力で生活できるようになる事』


これを最優先としたいと伝えた。



 その為の手段として選ばれたのが「薬草の採取」。

薬草は冒険者ギルドが常に出している収集依頼の品だ。

新人が受けやすい仕事で、商人ギルドや薬師ギルドからも依頼があるので安定している仕事だ。


 そしてティルナ・ノーグ、三人目のメンバー 『サトッカ・リリー』が回復ポーションを作成出来るから。

 見て覚えるから見学させて欲しいと言ったコウヨウに。


「人に教えた事はないですが、戦闘訓練よりは安全に教えられる気がするですね」


 そう彼女が言うので、キチンと教わる事になっている。


「なら薬草の採取の仕方は私が教えるわ。エルフに取って草木は友人だもの。これ以上の適任はいないわよね?」


 という提案があって分担で、採取はハイエルフであるクレアが担当する事になった。



「教わるのはありがたいんですけど、どうしてもその前にホーンラビットを三匹殺したいんですよ。それをやらないと落ち着いて教われないかも知れないんで、お願いします」


 とその時にコウヨウが言った。

『ティルナ・ノーグ』のメンバーにとっては弟子候補に再浮上した少年だ。それがそう言うので、薬草の採取の前にそれを行う事になった。


 『ホーンラビット』は兎の魔物。

額に一本だけ小さな角が生えているが草食で、人は襲わない。この世界では最弱に分類される魔物の一種である。


「ではホーンラビットの解体は俺が教えよう」


 こうして最初の予定は鬼人族のレイシュアがホーンラビットの解体を教える事に決定した。




 その後、もう眠りたいというコウヨウを三人が交互に追っかけ回したのは前述の通り。

コウヨウの異世界最初の夜は少し寝不足になる。

それと引き換えに


鬼人族のレイシュアは 『剣術』 と 『魔物の解体』 そして後に『武器防具の手入れ』 を。


ハイエルフのクレアは 『採取』『文字の読み書き』 そしていずれは『弓術』と『突剣術』 を。


そして三人目のサトッカが 『調合』 と 『魔法』 を教える事になった。


 『剣術』が入っているのは、話を聞くのに飽きたコウヨウが「寝る前に少し身体を動かしたい」とレイシュアに訴え、剣の振り方握り方から教えてもらった事からだ。


 それまで武器の握り方や振り方を人に教える、といった経験の無いレイシュアとクレアはまたも衝撃を受ける事になる。


(普通とはそんな所からなのか)

と大いに驚いたが、レイシュアにとってはこれが、以外にも楽しい経験だった。


 楽しそうに教える鬼人族の仲間の姿を見たクレアは、嫉妬し自分も教えたがる。

そんなクレアを見たサトッカ・リリーも混じる事になった。



 どちらにせよホーンラビットと戦う事は確定していたので、そのまま剣術はレイシュアが教える事になった。

クレアの担当する『採取』『文字の読み書き』は覚えてさえしまえばあとは本人の努力だ。

やらなければ衰えるが、教える事には必ず終わりがくる。

一段落したらクレアが得意とする『突剣術』と『弓術』に切り替える。

 後衛特化型で武術系は教えられないサトッカ・リリーが余ってしまうので、魔法を担当する事で話は落ち着いた。

こうして全てのスキルの素養を持つコウヨウに取って都合よく、話はまとまった。

そしてやっと眠る事が出来たという。


最も気合いの入った師匠候補に、早朝から起こされてしまうのだが。

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