第29話 都合の良い関係
さてどうしようかとコウヨウは考える。
思ったように進まなかった会話だが、収穫は多いと感じていた。
知らない事は知っている人に聞けば良い。
改めてそう認識した。
ティルナ・ノーグという存在は、教え方が下手だとしても、冒険者として先行している存在であることは間違いない。
このままお別れするのは勿体ない、コウヨウはそう結論を出した。
それは元日本人間の関係が影響している。日本人同士の話合いは決裂に終わっていた。
始まった話合いはしばらくして罵り合いになる。最後は暴力が発生し、拗れて終わった。
そちらとの情報交換は今後、かなり難しいだろう。そのことはコウヨウが一番理解している。
何しろ暴力を発生させた当人なのだ。
話し合いは声を掛けて周った者たちが主導して行われた。
その声を掛けて周っていた中に、コウヨウと折り合いの悪い元同級生がいた。
しばらくは我慢して黙って聞いていたが、そいつに他の日本人の前で子分のように扱われた事に腹が立ち声を荒げ、しまいには殴り飛ばしてしまった。
(殴っただけならともかく、その後に腹も蹴っ飛ばしてるしドン引かれてるだろうしなぁ・・・・・・・)
止めに入って来た道明寺グループとも喧嘩になった。
元々微妙な関係だったので、その事に一切の後悔は無い。
無いが、異世界転生初日に四面楚歌である。
自分自身のことではあるが、顎を出して「だめだこりゃ」と言いたくなる所だ。
そう考えればちょっと常識がないくらいは、問題が無いんじゃないかと思えていた。
「もうひとつ聞いても良いですか?」
「ん? 帰らないですか? 早く逃げた方が身のためだと教えたつもりですが」
彼女も悪意はなく、善意で帰れと言ってるんだろうことは理解出来た。
だがそもそも厳しい訓練が待っているだろう事は、覚悟の上で話を聞くことにしていた。
だから特にそれに対してはビビったりはしていない。
「別に弟子にならなくても、指導を受ければ一人にカウントされるんですよね?」
「レベルが10になるとFランクの申請が出来るです。その時に申請書に指導者の名前を書く欄があるです。そこに書いてもらえればカウントされるですよ」
変わらず食事を続けながら喋る目の前の女性。
コウヨウはその食事風景を眺めながら、(こっちの世界の食事はあまり美味しそうに見えないな)と考えていた。
「なるほど、レベル10に上げるのって難しいんですか?」
「誰かに教わらなくても、冒険者をやってれば問題無くなれると思うです」
「あー、元々にそんなに必要とされてないポジションなのか」
レベル10になる為に、敢えて誰かに指導を受ける必要は無いらしい。
コウヨウはゲームと同じ程度の認識で良いと改める。
前世でいくつかゲームをやっているが、初期は最もレベルが上がるのが早い時期である。
「えーっと、自分がレベル10になった時にティルナ・ノーグのどなたかの名前を書いても良いですよ?」
「本当!?」
「流石俺の見込んだ男だ」
コウヨウの言葉にレイシュアとクレアは立ち上がって喜んだ。
破顔しコウヨウへと近寄ろうと動く。
だがその足を止める言葉が二人の背後から響く。
「待つです。何を企んでるですか?」
遂に彼女の食事の手が止まる。鋭い視線をコウヨウへと向けた。
その幼い風貌から想像出来ないような威圧感を感じながらも、平静を装ってコウヨウは答える。
「いえ、別に何かを企んでるわけじゃないんです。代わりにアドバイスというか、色々教えてもらえないかと思いまして」
「・・・・・・私の話を聞いてたですか?」
「はい。なので戦闘訓練以外の部分で、まずは面倒をみてもらえないかな、と」
別に戦闘力を鍛えてもらう必要はない、というのがコウヨウの出した結論である。
強さは必要だが急務ではない。先に欲しいのは何よりも情報だろう。
教え方が下手なのなら自分が勝手に学べば良い、そう結論付けた。
「・・・・・・意味が分からないです」
「自分は
なので生活に支障をきたさない程度の常識を知りたいんです。
勿論冒険者としての常識も。
出来れば文字の読み書きを優先してもらえると助かります。
可能ならば効率的にお金を稼ぐ手段も教えて欲しいです。
あぁ、全く読み書きが出来ない訳じゃないんですよ。地元特有の文化、というか?
村を出て来るまでに教わった文字と、ここでは全く違う文字が使われているんでまずそこを学びたい直したい」
「・・・・・・文字については分かったです。
ですがお金の稼ぎ方、ですか?
普通に冒険者登録をして、仕事をしていれば稼げるですよ? その辺でちょっと強めの魔物を倒して納品すれば、それなりの稼ぎになるですよ?」
食べるのをゆっくり再開した口から発せられたその言葉に、鬼とエルフも頷いた。
それを見て頭を抱える。
「あー、そっからかぁ・・・・・・・」
この人たちは〝教えられない〟のではなく、〝何を教えて良いのか分からない〟のだろう。
というのがコウヨウには良く分かった。
教え方が分からないと言うのは、教えかたを誰かに教わった事が無いのだ。
つまり碌に誰かに何かを教わって来た経験がないのだろう。あればそれを真似するくらいは出来た筈。
それでも天然で強い。今のレベルまでこれてしまうくらいに。
これなら自分がティルナ・ノーグに教わる事で、加減を知ってもらえれば少しは光明が見えてくるはずだ。
自分は欲しい情報が手に入り、『ティルナ・ノーグ』のメンバーは教え方を覚えられる。
どちらにとっても悪い話ではないとコウヨウは考えた。
(ただ条件は付けないと壊されそうだけど。幸いな事に馬鹿な日本人より話が通じるんだよな)
実力が有りつつもランクを上がられなかったパーティ 『ティルナ・ノーグ』
彼ら彼女らはこの提案を受け入れる。
異世界に放り込まれた日本人、アキノコウヨウの物語は、正しくここから始まるのだった。
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