第二章 新人冒険者 駆け出し編

第28話 ティルナ・ノーグ



 アキノ・コウヨウは鬼人族のレイシュア、ハイエルフのクレアに連れられてⅭランクパーティ『ティルナ・ノーグ』の本拠地ホームに来ていた。


 元日本人同士での最初の話合いを終えたコウヨウは、弟子入りの件について話を聞こうと冒険者ギルド職員ゴンザレスの所に向かった。

居場所の心当たりを聞くためだったが、既に二人は冒険者ギルドに来ていて待っていた。

 コウヨウがその旨を伝えた所「もう一人のパーティメンバーも交えて話さないか?」と言われたので承諾し、移動して来た。



「あなたは馬鹿なんです?」


 案内された部屋で待っていた三人目のティルナ・ノーグのメンバーが、仲間から話を聞いた後の言葉がこれだった。

テーブルの奥に着席し、目の前に並べられた料理を食べる手を止める事なく彼女はそう言った。

事前に特徴を聞いていなければイラッとしたかも知れないとコウヨウは思った。


 鬼人、ハイエルフに続くティルナ・ノーグ三人目のメンバーの正体はハイヒューマン。

出会った感想を率直に言えと言われたなら 『合法ロリ』 と答えるだろう。

 持って生まれた魔力量が多すぎる為にエネルギーの燃費が悪すぎる彼女は、食事量が常人の数倍に及ぶ。

だがその量を食しても、身体の成長まで栄養が回らず、十五歳に戻ったコウヨウたちよりも幼く見える。


「あなたたちもあなたたちですよ。今必要なのは弟子ではないと何度も伝えている筈です」


「そうなんですか?」


「えぇ、ⅭランクからBランクに上がるのに必要な条件は駆け出し冒険者の指導ですよ。弟子を育てることではないのです。あなたが来てくれるのは有難い話なのですが、なんで弟子として育てるという話になってるかが理解出来ないです」


 冷たい視線で鬼とハイエルフを見る幼女。彼女はコウヨウの問いに答えるも、食事の手を止める事はない。

彼女の前に並んだ食器の皿はゆっくりとだが、確実に空になっていく。


「別に弟子を取ってはならぬ、という話では無いぞ」


 彼女の斜め前の席に座りながらレイシュアが言う。


「確かにそうとも言えるです。ですがそれで彼が逃げ出したらどうするですか? せっかくの前の協力者たちを必要以上に鍛えて逃げ出させてしまい、誰も話を聞いてくれなくしたのはどこの誰だったですか?

何でこちらに移動して来ているか、もう忘れたのです?」


「うっ。だがっこいつは見込みがある。同じようにはならんぞ」


「それを誰が信じるです? 失敗したらまた別の場所に移動するんです? 短期間で何か所も拠点を用意出来るとでも思ってるんです?」


「「・・・・・・・」」


「レイシュアさんだけじゃなくて、クレアさんも同類かい!」


 反論されたレイシュアだけでなく、その横に座ったクレアも黙ってうなだれた。

その姿を見て困ったのはコウヨウだ。

声を掛けて来た二人の様子を見て、此処へ来れば問題無く話が進むと思っていた。

その思惑がいきなりずれてしまう。


「あなたもあなたですよ。コウヨウくん、と言いましたですね。

この二人がどうゆう存在だか知らないで話を受けたですか?

 均人族ヒュームのあなたが分かるように一言で言うなら、人外の天才です。

幼少期に目の前に現れたから、という理由で魔物殺したです。

それがⅭランクBランクの魔物だったりする存在なんです。それも苦戦することなく瞬殺ですよ。

鬼人もハイエルフも優秀な種族ですが、この二人はその中でも飛び抜けた稀有な存在なのです。

普通の人間の考え方なんて絶対に出来ないと断言するです。

 そんな二人に教えを乞う、と言う事はです。いかなる無茶を言われても黙って従うと言う事になるです。

わたしが止めなければこの後、いきなりオークの群れに放り込まれていたです。だから馬鹿かなのかと聞いたです」


「ふっ、馬鹿を言うな。最初はコボルトあたりで様子を見るつもりだった。その辺の加減は弁えたぞ」


「そうね、私も最初はワイルドウルフあたりが無難かなと考えていたわ」


「群れに放り込むのは確定なのかい!」


 どうやら絶望的に教えるのが下手だったらしい二人の言葉に、コウヨウはため息を吐いた。

そして視線を三人目のメンバーへと移す。


「お話は分かりましたが、自分は弟子入りに来た訳ではありません。その条件を話す為に来ました。まだ決めた訳じゃありません」


 食事を続けている彼女の正面に立ち、目を見て言いきったコウヨウ。

その言葉に二人の人外は唇を尖らせるが、その事については理解しているので何も言う事は無かった。


「そうでしたか、それは賢明な判断でしたですね。

そして私がいて良かったです。もう泣き叫んで逃げる新人はみたくないです」


「どんだけ無茶な指導してたんだか・・・・・・

回れ右して帰る前に聞いておきたいんですが、ⅭランクからBランクに上がる条件と言うのは一人新人をFランクに上げれば良いんですか?」


 ジト目で二人を見るもどちらも目を合わせることが無かったので、視線を正面に戻してコウヨウは聞いた。


「他にもいくつか条件はありますがそちらは全て達成してるです。残るはそれだけですが、一人ではないです。

正確にはパーティの条件ではなく、個人での審査項目なのです。

パーティとしての全ての審査項目は全て満たしているのですが、個人で誰も達成できていないのでずっと昇格が保留になっているです」


「と言うと?」


 彼女の言った言葉の内容がコウヨウには理解出来なかった。

今日異世界に転生させられ、冒険者ギルドに登録したばかりの身にはランクアップ条件は理解しづらい。


「ティルナ・ノーグがパーティとしてBランクに上がるには、所属メンバー全員が個人でBランクに上がらなければならないです。

ちなみに現在、ティルナ・ノーグのメンバーは誰一人としてBランクに上がっていないです」


「あぁなるほど。個人とパーティでは評価が別なんですね。失念してました」


「気にしないでください。聞けば今日登録したばかりとのこと、仕方が無いです。

パーティとは基本解散したり、メンバーが増えたりするのが普通です。

なので冒険者は個人のランクが優先されるです。

例外もありますが、個人のランクの平均値がパーティのランクになると考えると良いです。

ティルナ・ノーグの場合は現在全員がⅭランクなので、仮に数人がBランクに上がっても意味がないのですよ」


 平均値で決まるこの場合、ÅランクのメンバーがゼロであればⅭランクが一人でも混じる場合は平均値を超えているとは言えない。


 A B B B B Ⅽ

ならば平均はBだが。


 B B B B B Ⅽ

では平均はBより下になる。


大体平均、では昇格基準に達したと見なされない。

なので一人二人がBランクに上がってもティルナ・ノーグの場合、パーティランクは上がらない。


 これを理解したコウヨウはもう少し話しておこうと考えた。


「ちなみに今の所何人くらいFランクに上げたのですか?」


「? 聞いてないです? あなたよく着いてきたですね。

馬鹿なのか勇気があるのか私には判断出来ないですが、ゼロですよ? 誰一人上げれた事がないです。

ちなみついで、ですが昇格には一人あたり三人の指導が条件になっているのです。ティルナ・ノーグのメンバーは六名なのであと十八人の昇格を手伝う必要があるですね」


 彼女の言葉を聞いたコウヨウの額には汗が浮かんで来た。

あと数人、であれば多少の交渉の余地があると考えていたのだが、自分が協力しても全くの焼け石に水だ。

交渉が意味をなさない。


「じゅ、十八・・・・・・・多いな。でも・・・・・・だから二手に分かれている意味もあるのか」


「気にしないでください。もう殆ど諦めているです。

二手に分かれているのは聞いてたですか。ですがそれは別の理由です。

別チームあちらは新人の指導など全くやる気がないですし、やる気のあるこちらも加減が全く出来ない二人です。

と偉そうに言ってる私も新人の指導なんて、したことが全くないですから」


その言葉を聞いて、これは大分厳しいなとコウヨウは思った。

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