第27話 レディ?
心の中で変な声が出た後に、話題の女性を二度見してしまった。
改めてアオバさんへと向き直る。
猫の獣人になった彼女の方が全然人間っぽい、なんて思ってしまった自分がいる。
そういえばあの時選択肢は多数あったが、何を選んでも分類は人類って事でよいのだろうか?
「彼女の名前は 『佐久間 姫華』 親しい間柄の人たちは『ヒメ』と呼んでいます。
良く見て下さい。耳が尖っているでしょう」
チラ、チラッ、チラチラっと三度見をして確認する。
確かに耳が尖って見える。・・・・・・でも少しだよ?
あんなの言われてみないと分からないレベルだよ。髪と頬肉に埋まりかけてるし。
それにしても姫さんですか。オークの姫にしか見えねぇ。
一緒に聞いていたホクトは大口を開けて驚いている。
〝そんなまさか! こっちに来て初めて見るエルフがあれなんて〟
って感じかな?
俺もショックだったけどね。
驚いてるホクトを見て〝初めてのエルフ〟が、アレ、じゃなくて良かったという感想に変わったよ。
此処に来る前に『ハイエルフ』を見てて良かった~。
会話もしてるしね。滑り出しは上々だったんでは?
サンキュークレア。
真剣に弟子になる件は考えるわ。
これも決して口には出せない無いようだが。ほんっと失礼だな俺。
「しかしエルフなのにもらっているのは回復職の服か」
彼女が大柄なため、装備は一見だと分かりにくい。模様が伸びてしまっている。
だが俺の横にいるアオバさん、そして道明寺さんと同じモノだろう。
聖職者が着るような服を身に着けている。
「私と同じ物、って事ですよね? それに何か問題があるんですか?」
「ん? ひょっとしてエルフのスキルとかは試してない感じですか?」
勝手な思い込みだが、エルフやドワーフと言った有名どころは皆試すと思っていた。
だからエルフの仕様くらいは把握しているかと思った。
だが問いかけて来るという事は、確認していない可能性がある。
「私たちはもし死んだら、何に生まれ変わるか。という話を生前にしてたんですよ。
なので今回はその時の話に沿って決めました。
・・・・・・最も一人そこから勝手に変えたんですけど」
「同じ犬獣人族を選ぶ約束だったのに・・・・・・」
そう言ってアオバさんと犬獣人になったマシロさんがホクトを睨んだ。
睨まれたホクトはスッと横を向いて口笛を吹く。
そういやこいつ設定を選ぶ時その場のノリで変えたんだっけか。
さすがにそんなベタな動作じゃ誤魔化せないだろうよ。
「いや違うんすよ。俺は弓術を取るって約束だったから取ったんすよ。同じ後衛でもマシロとポジションを変えるって話だったで。
なんスけど、弓ってスキル一個しかなかったじゃないっすか? 他にスキル無かったじゃないっすか!
だから弓術はちゃんと取ってるんすよ」
誤魔化し方が下手だなーと思って見ていた俺と、目が合ったホクトが言い訳を始める。
俺に言い訳されても困るんだけどね。
「あー、そうだったね。弓術って括りで一つしかなかったような」
「っす。っす。
何で別に裏切った訳じゃなく他にも取れたから魔法と組み合わせてみようと思っただけで・・・・・・」
「同じ犬獣人族を選ぶ約束だった!!」
マシロさんが横目で先程と同じことを言う。若干語尾が強く感じた。
怒っている理由はスキルではなく、選んだ種族の方だったらしい。
「そ、れは・・・・・・・こっちの方がかっこよかった、か・・・・・・ら?」
「「・・・・・・・」」
ホクトの言う事も何となく分かる。俺も獣人になった自分の姿をみて色々考えた。
どうせ生まれ変わるなら似合う種族になりたいと思うのは同感だ。
だが、女子二人の視線が物凄く冷たいので・・・・・・ここは何も言うまいよ。
それよりも気になるのはホクトが何個魔法スキルを取ったかだ。
その辺の個数が分かれば、逆算して初心者装備セットの法則が分かるかも知れない。
別に今更そんな事を気にしても仕方がないとは思う。
思うのだが、日本人が集まったこの集団を見て一つ気になる事がある。
魔法職多くね? 問題だ。
集まった日本人の大半が魔法職の装いという。
魔法を選ぶ気持ちは理解出来るのだが、それにしても偏っている。
回復職も入れるとさらに増える。
「そっ、それよりアキノさん。エルフだと何か問題があるんですか?」
だが、ホクトを庇ってかナグモが話を戻した事でその思考が中断された。
「いや、問題ってほどの話じゃないんだけど。
エルフって三種類のどれを選んでも魔法剣士タイプだったんだよね。バランスが取れていたっていうか。
それを回復系に振り切るのは結構難しそうだな~って思ってさ。そう言ったスキル選びは俺には想像がつかなかったから、驚いたと言うか」
ベースがバランス型の物をわざわざ特化職にしない。
これが俺の考え方だ。
なので佐久間と呼ばれた女オークがあれで大成したらちょっと悔しく感じるかも知れない。
その発想は無かった事は素直に賞賛する。が、悔しいものは悔しい。
最もその判断は結果が出てからだが。
「なるほど。アキノさんの気になる所は分かりましたが、それは考えるだけ無駄でしょう。
佐久間は入学以来、学年トップから一度も落ちた事の無い秀才です。
あの人の考え方は、普通の思考とちょっと違うのでしょうし」
少し悔しそうにアオバさんが言った。
アオバさんの最高位は学年三位。
彼女も勉強は出来る方なのだが、佐久間と言う名のオークレディに一度も勝ったことが無いそうだ。
だから親しくない。
では無くて嫌い。
ほぼ一方的に敵視しているのだと、ホクトとナグモから少し後に聞く。
それはもう少し後の話だ。
「なんか日本人同士で話し合いをしよう、って言われたんですけどアキノさんたちはどうするんですか?」
「らしいね。一応話は聞くつもりだよ」
別に俺は誘われていないが。
だが参加はするつもりではいる。
その話を周りに持ちかけているのがゴヘイと一緒にこちらの世界に来たグループだから。
何を考えているのか、聞いておきたい。
どうせろくでもない事だろうが。
同調圧力で変な流れにならないか、しっかり確認しておく必要が有る。
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