第26話 ミッション1 クリアー


 << テレッテッテッテッテー >>


 冒険者ギルドの職員が説明会の終了を告げると同時に、脳内に効果音が鳴り響いた。

何でこの音? いや有名だけどさ。

クエストをドラゴンするゲームのレベルアップ音にそっくりじゃねーか。

と脳内で突っ込んでみたが反応はなく、続いて機械音声のような声が響く。


<< プレイヤー アキノ・コウヨウのミッションクリアーを確認しました >>

<< クリアー報酬として千五百円を振り込みます >>


 どうやら無事ミッション1は完了したらしい。

だがその報酬は手元には現れなかった。


「千五百円ね」


 羊皮紙やこちらの通貨のようにいつの間にかポケットに入っているかと思ってポケットを確認してみたが特に変化はない。

もしかして冒険者証の中に入ったのだろうか?

だがたしか、別口で用意するような話だった筈。


「ひょっとしてアキノさんもミッションクリアーですか?」


 肩に届くくらいの長さで揃えられた綺麗な黒髪と、その頭の上には同じ毛質の猫耳が生えている。

黒い髪に黒い釣り目の瞳は、ちょっと気の強そうな黒猫のお嬢さんといった感じの雰囲気だ。

名前は 東雲 青葉。

冒険者ネームはアオバ。そう呼べと言っていた彼女がいつのまにか近くまで来ていた。

彼女の仲間の他の三人も、同じく近くまで来ている。


「ですね。ひょっとしてって事はそちらも?」


「はい、四人同時になったんでもしかしたらって」


 どうやら確認に来たらしい。確認、大事。

そっちから来てくれるなんて有難い。


「という事はここにいる日本人は全員同時にだろうね」


 俺の言葉に四人は頷いた。

道明寺チームも、ゴヘイがいるチームも、さっきより声のボリュームを上げて何かを話している。

どこもミッションをクリアーした話で盛り上がっているのだろうと察しがつく。

アオバさたちんが俺に確認しに来てくれたことで、俺は余計な話をしたくない連中に確認しないで済んだ。

が、ブレザー学生服組は一人足りていない事に気がついた。


「あー、ウサギの人がいないけど・・・・・・・」


まさか終わって速攻、追い出したのだろうか?

四人でやりたいとか言ってたし、俺もダブルカップルに混じるのは微妙と言って賛同したけど。

説明回終了後即とか結構鬼だな、こやつら。


「甲斐なら知り合いがいたのでそっちに声を掛けに行きましたよ」


「説明会中もずっとソワソワしてたので送り出しました」


「あー、知り合いがいたんだ」


 探して見ればアオバさんマシロさんたちと同じブレザー学生服を着た二人と、爆乳バニー・カイチアキが話している。

こっちといたときよりも表情が明るく見える気がするのは気のせいだろうか。

俺は関係が微妙な知り合いばっかり会ったんだけどな。

それでも彼女が仲が良い人と再会出来たなら、それは喜ばしい事だろう。


「知り合いがいたなら、俺の事は気にしないで話して来て構わないよ?」


 知りたい事は分かったからな。

千五百円がどこに入ったかは分からないが、すぐには分からない扱いなんだろう。

逆にそのうち必ず分かる事であるとも思える。

パーティの件もそうだし、必要な事を隠す意味があるとは思えない。

ミッションだけで良いのに数字が振られている事だしそのうちに動きがある筈。

まだまだ焦るような時間じゃない。

なので再会の邪魔をするつもりはない。教えてくれてありがとうだぜ。

そっちに行って来て良いですよっと。

だが、


「アキノさんと一緒ですよ」


 だがアオバさんにはあっさり返された。

その横では垂れ耳犬獣人になった女性、マシロさんが苦笑いをしている。

これはあまり聞かない方が良いヤツかな?


「同じ学校の知り合いだからって、仲が良いとは限らない。アキノさんもそう言いましたよね?」


「あー、言ったね。実際そうだし」


 道明寺グループとの事を説明する時に使った言葉だが、その後訓練所に来てから追加されたゴヘイとの関係も同じくだ。

その上で、二十五人の日本人の中にもう一人同じ中学校の同級生がいた。

男性で、そいつも親しくないどころか、どちらかと言うとゴヘイ寄りだろう存在だ。

そいつは警戒しているのか、俺は勿論道明寺グループにも接触して来ないが。

何か企んでいるのかね?


 それにしても爆乳バニー魔法使いと話している二人はちょっと目を引く。


「あれって何を選んだんだろう?」


 一見では何の種族だか分からなかったが、特徴のある体型をしている。


「あー、やっぱり気になる感じっすか?

でも甲斐と話している二人は元々あんな体型っすよ」


「・・・・・・」


 俺の呟きを拾った狐の獣人ホクトが答える。

種族は関係なく元から特徴のある体型だったらしい。

とっさになんて返事して良いか分からなかった。

 爆乳バニー、カイチアキと話している二人のうち一人は目算で俺と同程度、もしくは近い背丈がある。

そして横には俺換算で二人分くらいある。

俺の身長は百八十センチの八十キロだぞ?


 率直に申し上げましてオークにしか、いやオークレディにしか見えないです。

たしか豚人族も猪人族も無かった。

最も全て確認しろと言われたスキルと違って、種族の方は隅から隅まで確認した訳では無い。

なので見逃した可能性は有る。

それを考えるともしかしたらと思ってしまった。


 そしてもう一人はかなり小柄だ。

爆乳バニーと比べても小さい。カイチアキさんが目算で百五十ちょっとくらいだったので百四十も無いと思われる。

もしかして〝小人族〟という種族を選んだのかと思った。

 こちらはカタログにあった。

あったが、大きくなる選択肢はあれど小さくなる、という選択肢は俺には無い。

なので確認すらしていない。

なので選ぶとどうなるかは分からない種族だ。


 どっちもあれで素か。

変わっていないという事は


「俺と同じ均人族かな?」


「じゃないっすかね。俺から見ても特に変わっているようには見えないっすし」


「いや、佐久間の方は多分・・・・・・・エルフだと思います」


 俺とホクトの女性の体型についての会話というあまり女子受けの良く無さそうな話題に、黒猫っぽい雰囲気を持つアオバさんが入って来た。

 聞こえちゃったらしい。あんまり良くなかったかな?

だが仕方が無いのだよ。確認、大事。


「小さい子の方ですか?」


「いえ、佐久間は大柄な方です」


 ふええええええええ!?

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