第85話 No rain, no rainbow ③ 人化する亀
「という訳で連れ帰って来たのがこの亀だ。
魔物を街に入れるのは抵抗あったけど。ここまでは入れて良かったぜ」
ここはいつもの会議室。
緊急招集をかけたいつものメンバーに一通りの説明を終え、ズタ袋から喋る亀という不思議生物を出した。
賭けだったが、魔物でも荷物として持ち込む分には問題ないらしい。
「大丈夫なの?」
「〝ルーム〟に入れて運ぼうと思ったんだけど入らなかったんだからしゃーない」
「問題はそこじゃないわよ」
「最悪バレたら誤魔化す方法はある」
自信満々にリサリサの問いに答えると、ため息を一つついて納得したようだ。。
喋る亀の魔物が驚いた顔をしているが、そこはあきらメロン。
あの場で殺しても良かったんだが素直について来たから執行猶予を与えてるようなもんだし。
最初はカエルの皮や肉と一緒に〝ルーム〟に放り込もうと思ったんだが、この亀は入らなかった。
このことから〝ルーム〟は生物は入れないという予想が出来る事も伝えておく。
つまり殺せば放り込める。
「それでこの亀・・・・・・この子が人の姿になれるんですか?
マシロにはちょっと信じられないんですけど?」
首を傾げながらマシロが言って来るが、俺だって自分で見なきゃ信じられなかっただろう。
でも出来るんだから仕方が無い。じゃなきゃここに連れてこないで冒険者ギルドに差し出してただろう。
この亀は多分〝ジュエルタートル〟という魔物で、結構な稀少種だ。
背中にくぼみがあり、そこで宝石を育てるんだとか。
好事家が結構な値段で引き取ってくれる筈。
その場合完全に飼い殺しで、育った宝石は奪われるだろうが。
「なんか俺の前に冒険者と接触したらしくて、そいつらに人間の女の姿になれるんだったら連れてってやるって言われたんだって。
はぁ、頭痛い。そいつらどんだけだよって話だ。
そうなんだよな? あぁ喋って良いぞ」
喋る魔物と紹介してるのに一向に喋らない亀の魔物。
俺に恥をかかせる気だな? と思ったがそういえばバレ防止のために俺が良いって言うまで喋らないように言いつけてたんだった。
喋ったら殺す、と脅しておいた効果はテキメンだったようでコクコクと頷いている。
「ピギーッ! ボクは悪い魔物じゃないカメよ」
「それはもう聞いた。おっと、まだ人化? 人に化けるなよ。やったら絵面とか考えずに殺すからな」
「ピ・・・・・・、ピギピギ」
「何かあるんですか?」
アオバが聞いてくる。
何もなければ良かったんだけどね。頭痛くなるような事があったんだよ。
「何て言われたか教えてやってくれ」
「ピギギィ? そんな変な事カメか?
小さい女の子の姿になれたら契約してやるって言われてるカメよ?」
「アキノ、あんた・・・・・・」
「オーマイガット、ネ」
「コウさん・・・・・・」
「・・・・・・」
何か室内の温度が数度、一気に下がった気がする。
「俺じゃねーっての」
潔白を宣言するも、女子四人のジト目は変わらない。
「冤罪だ! 裁判長、証人尋問を要請する」
「良いでしょう、裁判長として認めます。マシロ、証人に聞いてください」
裁判長アオバが証人尋問を認めた。
おまえ、いつから裁判長に。話が進まないからいいけどさ。
俺が聞けば良いと思うんだけど、駄目らしい。ではよろしく。
「えっ、裁判長? わたしが聞くの?
えーっと。ねぇ亀さん。わたしのことはマシロって呼んでね。
その話は誰に言われたのかな? コウさん? コウさんだよね?」
「コウ? 名前は知らないカメよ。
ここに連れて来てくれたその悪そうな人間なら違うカメ。その人間は最初殺す気マンマンでそんな話する暇無かったカメ」
「あー。コウさんならそうっすよね」
「大いにありうえる。というかよく見逃したよな」
対して男子二人。
その感想はどうなんだ? お前らが俺をどう思ってるのかはよく分かる。
その通り。
有無を言わさず殺そうとしたら人化しやがった、から出来なかったんだよ。
「じゃー誰に言われたカ?」
「前に会った人間カメ。一人じゃなかったカメ。
その中に一人、すごく相性の良い人間いたカメ。
だから召喚契約をお願いしたカメが、他の人間にジャマされたカメ!!
『俺ちゃんは亀なんて連れて歩きたくないじゃん』とか言われたカメ!
酷いカメ! それだけじゃないカメ
『人間の姿にでもなれたら考えても良いんじゃないでっか?』とか言う狐もいたカメ。
なのに『若い女の姿じゃなきゃ嫌じゃん』って言われたカメ。
ん? みんな黙ってどうしたカメ?」
「「「「「「 ・・・・・・ 」」」」」」
熱弁を振るっていた亀だったが、周囲が頭を抱えて沈黙する姿を見て不思議がった。
呆れてるんだよ。
しゃーない、先に聞いてる俺が何か言ってやるか。
「真実はいつも一つ。犯人はこの中にいる」
「いや、いないでしょ」 とリサリサ。
「もー、またあの人じゃないですか」 とマシロ。
「本当に、そりゃ頭痛いですよね」 アオバ。
「うんざりネ」 とサユリン。
「ないっすわー、マジでないっすよ。痛すぎませんか?」 とホクト。
「確か同級生でしたよね? そんな人ばっかだったんですか?」
「いや、ナグモくんよ。同級生にそんなのいたからって」
「冗談です」
うん、分かってる。
最近はあの馬鹿の話がでると、そう聞かれる流れでオチをつけている。
でないとずっと文句言ってる事になるからなぁ。
「では俺の潔白は証明出来た、という事で俺とナグモ、ホクトの三人は一度〝ルーム〟に入ろうか」
「なんでっすか?」
「聞いた通りこの亀は人化出来る。出来るんだけど幼女の姿になる訳だ。
しかも服を着てない状態のな。見たいって言うなら別に俺は止めないが。あらぬ疑いをかけられる事になる。それでも確認したいというならしっかり確認してくれたまえ」
「いや、確認は任せるっす。自分は〝ルーム〟に行くっすよ」
「同じく。〝ルーム〟に行きます。行かせてください。時間はどうしますか?」
マシロとアオバから発せられる無言の圧力を感じたろう、二人からは快諾を得られた。
いやいやいやいや、見たいなら残れば良いと思うよ。俺は遠慮するけど。
「そうだね。とりあえず五分にしようか。入って五分したら出て来よう。
なんかやることあるならそのままやってきて構わないが、最低五分は出て来ないって事で。
女子チームは五分たったら一旦亀に戻らせてくれ。
おい、亀。お前は俺が消えたら人化して見せてあげてくれ。
俺が消えるのは会った時にも見てるから大丈夫だよな? 少し経ったら戻って来るからそこは心配するな」
全員が頷き、亀以外が時計を確認する。
時間合わせは大事だからね。徹底をお願いしている。
「ではよろしく」と伝えて〝ルーム〟へと消えた。
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