第86話 No rain, no rainbow ④ 召喚獣
〝ルーム〟に入り、何件かの用事を済ませていたら十分ほど過ぎていた。
慌てて外に出ると人化したままの亀? がいた。
「何故服を着てる」
「普通に服を着た状態に人化してもらうように頼んだら出来ましたよ?」
「な・・・・・・んだ、と?」
「着物なのはリサちゃんの趣味ネ」
それは気にしてなかったが。
つーか着物の幼女とか和風ホラー映画に出て来そうで怖い。
空いてるスペースに腰を下ろしながら言う。
「おおぅ。一応Sサイズの服を見て来たんだけど。買わなくて正解だったか」
「あらら、勿体なかったですね。人化するときにイメージすれば、服も一緒に具現化できるみたいなんです」
「いや、インナーしかなかったから買ってないよ。今回は諦めて帰ってもらうつもりだったし」
俺が持って出て来た荷物があるから買ったと思ったんだろう。
だが俺の契約している百均コンビニだとTシャツとパンツに靴下くらいしか売ってない。
売られている物が結構絞られている感じがする。
自分の物だって買ってるのはそれくらいだ。他は現地産の安い麻のシンプルな服を利用している。
女物の下着とか買うのも微妙だったという理由もある。
殺さないで放流してやるだけ有難く思え、って言おうと思ってたんけど。
「えー、帰ってもらわなくても良いじゃないですかー」
「そーよ、召喚獣って奴なんでしょ? 勿体ないじゃない」
「そこまでは説明してくれてたか、助かる」
喋る亀が珍しいから。
ジュエルタートルって魔物が金になるから。
という理由だけで連れ帰って来た訳じゃない。
この亀を殺さず、ゴンザレスたち冒険者ギルド職員の目を盗んでここまで連れ帰って来たのは、召喚獣だからだ。
こいつと契約すると召喚魔法を覚えられるらしい。
そう言われたので、一度皆に会わせてから判断する事にした。
ナグモとホクトも既に出て来ており、一緒に話は聞いていたらしい。
ここにいるのは七人。
俺、アオバ、マシロ、ナグモ、ホクト、リサリサ、サユリン。
召喚獣は一匹。
「さて、聞いたなら話が早い。誰が契約するか、なんだけど。
先に言っておくが、見つけたからと言って権利を主張するつもりは無い。
こいつが相性があるって言ってたからね。現状での最善手を選びたい」
「それも聞きました。そこなんですけど、先に見つけたのにいた人間? が一番相性が良いのは変わらないみたいです。でもそれって日本人の、あの人らですよね?」
「だろうねぇ」
アオバの問いに答える。
俺も悪く無いらしいが、最初に人の前に姿を現したのはすごく相性の良い人間を見つけたから、らしい。
それが俺ちゃんグループの誰か。
あいつではないらしい。それだけは救いだ。
「あれは除外、狐って呼び方してるからそれも違うとして、残るは二人かね?」
「あれと狐を除外すると
あっちの初期メンバーであり、向こうの面子をこの中では一番把握しているだろうリサリサが残りのメンバーを教えてくれる。何度か聞いたんだけどね、覚えられないんだよね。興味が無いから。
「
と言ってもあの時は波長が合いそうでピーンと来たカメが、今こうやって資格を持ってる人間に会ったらそこまで差がある訳でも無いカメよ」
「となるとリーダーのマツオカね。マツオカ・ユウキ。
変わってなければ冒険者ネームはユウキ。最年長のあいつよ」
暫定リーダーになろうとしたあいつか。
「確かみんな魔法使いな筈ネ。なら召喚魔法は有効ヨ。早まったネ、馬鹿ヨ」
悪そうに笑うサユリンの言う通り、召喚魔法を覚えられるなら有効な筈だ。
別に後衛特化や魔法使い系でなくても。
俺も覚えられるなら覚えたいし。
でも相性があるなら、と聞いて即断即決せずに持ち帰った。
勿論、亀じゃなくてもっと強い魔物が良いって気持ちもある。
その辺も確認しておいた方が良いかも?
「ちょっといくつか俺が質問しても良いか? 分からない事は分からないで構わない。もし先に聞いてた事なら、悪いけどもう一回教えてくれ」
亀と他六名が頷く。
「今言った資格を持ってる人って何?」
「あっ、それ私も気になりました」「っすね。自分もっす」
アオバが言うとホクトも同意する。
対してマシロは首を傾げてる。あれは「そんなこと言ってたっけ」って顔だ。
ほっとこう。
「それが何かは分からないカメよ。でもここにいる全員とは誰でも契約出来そうカメ」
「全員が有資格者って事でしょうか? ならば元日本人は全員ですかね?」
「そこは俺も引っかかるね、聞いてみよう。先に会ったってのは何人いた?
その全員が資格持ちだったのか?」
「んー、よく覚えてないけどいっぱいだったカメ。
最初に会ったので資格持ちは四人カメね」
「相性の良い奴、幼女になれって言った奴、狐とエロフだっけ?」
「多分そうカメ」
「いや、エルフってちゃんと言いなさいよ」
リサリサが突っ込んだが無視、ではなく。その返事で全員が顔を見合わせた。
元日本人の事で間違いないだろうな。
全員後衛特化の奴らは前衛を手伝わせてレベル上げをしている。
該当しないのは最近、現地産の新人冒険者を雇ってるからだろう。
「ふむ、一応そいつの相性が良いってなら条件付きでそっちに誘導するパターンも視野にいれてたんだけど」
こっちの言い分を全部飲むなら、だけど。
お望み通り幼女に人化出来るようになったんだし、高く買ってもらえば良い。
「それは止めましょう」
「勿体ないわよ、あんな奴らに」
「俺もそれはちょっと賛成出来ないです」
ちょっと聞いたら即答でアオバ、リサリサ、ナグモに反対された。
他の三人も頷いてるので皆反対のようだ。
しゃーないね。このアイデアは取り下げよう。
「ほい、んじゃ次の質問。契約って何すんの?」
「召喚契約カメ。それを結ぶとボクを自由に呼び出せるようになるカメ」
「おまえ、ボクっ子かよ。ってそれはいいや、置いておく。
契約って難しい? すると何が出来るようになる?」
「お互いに承認すれば直ぐ出来そうカメ。したことないからやってみないと分からないカメよ。
何が出来るかは・・・・・・・えっと可愛い?」
「よし、やっぱ殺そう」「「ストップ!!」」
首を傾げてあざとい表情を作る幼女。でも中身は亀だ。許せん。
立ち上がろうとした瞬間に、リサリサとサユリンに左右から抱き着かれた。
やめろよ、冗談だよ。ちょっと良い匂いがするから離して欲しい。反応する。
「うん、悪かった。ちょっと脅そうと思っただけなんだ。離してくれ」
「駄目よ。あんたこの子と会った時も殺そうとしたんでしょ? 最初、すごく怖がってたんだからね」
「そうヨ、話が終わるまでこのままにするネ。脅しは無しで終わらせろヨ」
「そんな難しいことを・・・・・・俺には難易度が高すぎる」
幼女の姿になったからか、女子組が比較的甘くなった気がする。
庇護欲をくすぐるのは分かるけどね。こいつ魔物だぞ? 召喚出来るタイプみたいだけど。
あー、だからか。稀少種だ。
「くそぅ、んじゃさくっと終わらせよう。何も出来ないって事で良いのか? それなら捨てる一択だがな」
「せ、成長するカメ!」
やけくそ気味で亀幼女が叫ぶ。
なんか俺が虐めてるみたいじゃないか。はい、次々。
「おまえと契約した場合、他の召喚出来る魔物とは契約出来ないのかな?」
「それは・・・・・・分かんないカメ」
「感覚で良いよ。どう思うか教えてくれ」
「・・・・・・出来るんじゃないかと思うカメが、分かんないカメよ。本当に分かんないカメ、怒らないで欲しいカメ」
「怒らないよ。分からんことは分からんで良いって最初に言ってる。ふざけた返事をしなきゃ良いだけだ。
契約したら四六時中ついてくるの? 正直亀を隠して持ち歩くのもって大変なんだけど」
ズタ袋に入れておいたが、いつ誰かに開けられるかびくびくして過ごした。
清算も今回は全て預けて逃げるように帰って来ている。
いつボロが出るか分かんないからな。
「呼び出せる筈だからそれは無いカメ。元にいた場所に戻して欲しいカメが、出来れば安全な所に置いておいてくれると嬉しいカメ」
魔物の癖に安全な所にいたいとか。ちょっと甘い顔しすぎた気がする。
やっぱりキッチリ脅しておくべきだと思うんだ。
でも、ガッチリ左右から押さえられてるからなぁ。
ちなみに、胸が当たってますよ? とか言ったら怒るかな??
怒りそうだから止めとこう。押さえられていて不本意だって顔をしてるべきだろう。
うん、不本意だ。こうしてるとサユリンが着やせするタイプなのが分かる。
「感覚的に、契約するとこっちがマイナスになるような事があれば先に言っておいて。これは嘘だったら後で怒る」
「な、ない筈カメ。でも約束出来ないカメ」
これはもう仕方が無いか。初契約だって言ってたもんな。
やってみなきゃ分からない、か。
召喚魔法が使える以上マイナスにはならんと思うが。
出来るのがこの亀だけだったら・・・・・・微妙だな。
成長するに賭けるにはリスキーな気がする。
「分かった。質問は終わりで良いよ。答えてくれてありがとう。参考になったよ」
「えっ、べ、別に気にしなくて良いカメよ」
「照れてますね」
「これはコウさんがお礼を言うとは思ってなかったパターンっすね。言われて驚いちゃった。でも悪く無いなって感じっす」
「ねっ、コウさんは一見怖いけどちゃんとした人だって言ったでしょ」
「この怖いからのギャップがポイントか」
お礼を言ったくらいでこの扱い。
アオバたち四人はちょっと酷くね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます