第84話 No rain, no rainbow ② 濡れ手に粟


「魔力が無くなると思った? 残念ー、自然回復するんだよね」


 ベースレベル6の俺のHPは80。MPは35。

ステータスは素で全部23だ。

 水槍と言っているが俺が勝手に言ってるだけで、槍には到底及ばない。

長さは二十センチ程度だし。

正式名称は『アクアアロー』 正しくは槍じゃ無くて矢だ。

使い方の問題でそう言いたい気分だった。反省は特にしていない。

 レベル1のスキルなので現在水魔法を覚えている知り合いは誰でも使える。

それこそマドロアさんもだ。彼女は魔物に向かって撃てないだけで。


 『アクアアロー』の消費魔力は2。

MPはだいたい3分毎に1回復するので、ひっくり返ったカエルの腹を裂きながら戦ってればそのうち回復してもう一回撃てる。


 なんて感じ雨の中で一時間半ほど大虐殺を行っていると、視界からオレンジの物体は一つもいなくなっていた。

代わりに血の池地獄みたいな光景の中にポツンと立っている。


「ひっくり返して腹を裂いたから真っ赤っかはしゃーない」


 雨で流れて水たまりに広がってしまっている。控えめに言ってもグロイ。

こっちの神様、魔物の血は青とかにしといてよ。

ってそれはそれでグロイか。


 たくさんいたカエルの群れは再び地面の中にでも潜ったのだろう。

元々晴れた日は地面の中で寝て過ごす、という変な習性の魔物だ。

逃げて潜ってもおかしくはない。

明らかに最初に見た数よりも、殺した数の方が少なくなっている。


「キリが無いからここらで良いか。解体する前に仕留めた数を数えて〝ルーム〟だな。

レベルが上がらなかったところをみるに経験値が少ないのは確かだろう。そこは安心した。

だが日本円がいくら入ったか調べなきゃならん。

ついでにいくつか買い物をしよう。毒がある魔物を素手で解体とか自殺行為だからゴム手袋と、毒袋を入れる袋・・・・・・・あぁ皮を持ち帰る袋もいるからゴミ袋でも買うか。肉も持ち帰りたいし」


 それで〝ルーム〟に放り込んでおき、町の傍で出し直せば良い。

その後は外に出ないだろうから出入りの設定もその時に変えるのを忘れないようにしないと。

前にマシロが室内で〝ルーム〟に入れるように設定をし忘れてしまった事がある。

その状態で会議室に入ってしまい、色々面倒だった。







 殺したカエルを一か所に纏めてルームに入った俺は全裸になる。

先に用意してあったタオルで全身を拭き、服を着替えた。

どうせまた外に出たらまたずぶ濡れになる。

着替えと言っても百円のTシャツとトランクスだけだ。パンイチでもフルチンでも良いんだが気分的にね。

 あとはこっちでかった安物の麻のシャツとズボンの予備が置いてある。

そっちは出る時にもう一度着る。

ルームの中を濡れたまま歩きたくない。

 ここは俺の城。

誰もいないし、ルーム内は空調が効いているから問題無い。

なので再度予備のシャツとパンツ、タオルを用意しておく。次に入った時にすぐ手が届かないと困るからね。

そろそろ真剣に予備の作業服も考えないといかん、と思いながらシステムさんを起動した。

ら、脳みそがフリーズした。


「六万円超えって一体?」


 逆算する事の、オレンジポイズントード・・・・・・・仕留めたのは二十三匹で、昨晩の残高もメモしてある。

現在額から狩りに行く前の残高を引いて、二十三で割ると?


一匹2200円也。


これは一体?


一体も糞もねぇけど。

何で? を考えても仕方が無いので妥協点を探す。そこを考えてもどうせ俺には分からない。

 神の味噌汁 神のみぞ知るだ。


 結論

メタルスライムの日本円版とでも思っておこうか。

それならばこの先、はぐれメタルやメタルキングの存在も期待できる。


 問題はこの情報を独占するか公開するか、だな。

うーん、でも今日みんな来るの断ったよね?

「日本円美味しいよ?」

って言ったら全員喜んで来る気がする。

それもなんか狡くね? 人が増えたら頭割りだ。そこまで美味しくなくなる気もする。


 ・・・・・・そんな事も無いか。独占だから滅茶苦茶美味しいって話で有って、それでも結構稼げると思う。

だが待てよ。

毒持ちの相手に、対処できない奴が増えても面倒なだけか。


 何が問題かというと 『アクアアロー』だ。

普通は自分の正面にしか発動出来ない。

俺は湿気が多ければ多少融通が利くが。

今日みたいな雨の日なら自分の周囲に、身長と同じ範囲なら好きな方向に発動できる。

空中の雨の中でも水たまりからでもだ。

これはアオバたちとも共有している情報だが、こちらの研究はあまり進んでいない。

俺しか出来ない。


 みんな雨の中でそんな練習、やりたがらないんだよね。

女子に濡れ鼠になってまで試してくれ、なんて強く言えないし。

 かと言って燃え盛る火の中で試してみようなんてもっと言えない。

火事で燃える家の中でそんな練習したら大顰蹙だろう。

そんな奴いたら俺だってドン引きだしね。絶対無理。


「ふむ、教える。けど時期を見ようかな」


『目の前に蛙の魔物がいるとして、皮を傷つけず腹側からに殺す手立てがあるか?』

と聞いて、具体的な案を出せたら教えれば良い。

無いのについて来られても・・・・・・だし、ね。


「うっし、やる気出た。先行して稼いでおこう」


 当面は独占のシノギだな。これは気合が入る。

急いで必要な物を買い足して行く。

このくらいの金額まで行くと気が大きくなるよね。

百均コンビニの品なんて大人買いですよ。しないけど。

思いついた物をポイポイ放り込んで行く。


 おっと千円超えたな。

予定ではゴミ袋とゴム手袋だけだったんだけど。

つい生活用品まで買ってしまったぜ。まぁいいか。

 ビショビショになった服と装備を付け直す。

金を持ってると思うとこの作業も苦にならない。


 いや、それは嘘だな。辛いもんは辛い。

でも頑張れる。


 ゴミ袋を開封し、すぐに出せるようにしたらゴム手袋を付けて外に出る。

さぁ解体だ! 


 と思ったら積み上げたポイズンオレンジトードの山の前にカエルと同じくらいのサイズの亀がいた。


亀?

すわ魔物か、と短剣を抜く。

ボーナスついでに狩ってくれようぞ。

頭を切り落としてやる。そう意気込で近づいた。


するとその亀が振り向いた。


「ピギャー! 待って! 僕は悪いモンスターじゃないカメ」


 どこかで聞いたことある台詞だな、おい。

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